33
いつもお読みいただきありがとうございます!
「メイメイ様はもしかして普通の話し方もできるのですか?」
「メイメイ」
「えっと」
「メイメイじゃ」
「う……メイメイの話し方なんですが」
「うむ、どうじゃったかのう。虐めてくるアリサに何とか嫌がらせしようとこの喋り方ばかりしておったからの。えーっと……おそらくできると思いまちゅわ?」
メイメイは自分で発言したにも関わらず、そのまま吹き出した。
「あっはっは! まちゅわ、だと! 我ながら面白いのぅ。面白いデスワァ?」
「そ、そんな感じで頑張っていきましょう!」
晩餐の翌日、城を案内しながらエリーゼはメイメイと和やかに会話していた。
庭が見える窓の前を通った時にメイメイが立ち止まる。
「お、とうとう異母姉が動き出したようじゃ。昨日までは移動で疲れたとかで両陛下に挨拶して早々に部屋に引っ込んだからのぅ。あれは自称病弱女で構ってちゃんじゃからの。ほれ、アシェル殿下じゃったか? さっそく粉をかけておるぞ」
庭に視線を向けると、アシェルとゼインを追いかけるようにピンクベージュの髪の女性が歩いている。ここからは庭の会話は聞こえない。
異母姉とはいえ、小柄であること以外はメイメイとはどこも似ていない。
「ふ、エリーちゃんよ。お主、あれとワシが似ていないと思ったじゃろう。大体そんな反応をするのじゃ」
「あ、申し訳ありません……」
勝手に「エリーちゃん」と呼ばれているがそこは突っ込まないことにする。言っても聞くタイプではなさそうだ。
「ワシは異国の踊り子だった母親似での。異母姉、名前はルルティナというのじゃが、あれは父親似なのじゃ。この褐色の肌でよくいじめられたのぅ、いや、えーと。よくいじめられましたのじゃ」
ルルティナという名前に嫌でもルルを思い出した。
ルルティナはアシェルに言い寄っているのか、何なのか。アシェルはルルティナに向かって一言二言声をかけたようだが、そのまま庭をキョロキョロ見回しながら歩く足を止めることはない。そんなアシェルを追いかけるルルティナ、彼女を睨んで警戒しているゼイン。
「おかしいと思わんか? 勝手にワシの母を連れてきて囲って子供まで作ったのに、子供を差別するなど。文句を言うならワシではなく、父親である国王に言えばいいのじゃ。あぁ、思い出すだけで腹が立つのぅ」
ルルティナは名前だけでなく、外見や仕草も少しルルに似ていた。ルルティナがアシェルに近付き自らの腕を絡ませようとする――が、ゼインが割って入って阻止した。
「ほぉ、あの長身の男。まるで忠犬のようじゃのぅ。にしても目つきが悪くて少し怖いのじゃ。いや、怖いのですじゃ?」
「怖いわ、で大丈夫ですよ」
「怖いわ、か。なるほどなるほど」
メイメイはうんうんと頷き、今度はじっと庭ではなくエリーゼを見つめてくる。
「どうしました?」
「エリーちゃんよ、美しいものや可愛いものを見るのにどうしたもこうしたもないのじゃ」
「?? は、はぁ……」
「して。エリーちゃんよ、アシェル殿下はお主の婚約者じゃろう? 今更じゃがうちの異母姉が迷惑をかけておるが大丈夫か? 多分、滞在中はずっとあんな感じじゃ。早く追い出す予定じゃが、ワシの予想ではまずエリアス殿下の所に行って相手にされなかったのじゃろうて。あの異母姉は婚約者がおらんから必死なのじゃ」
「そうですね……」
エリーゼはメイメイの方に向けていた視線をまた庭に戻した。アシェルは最近見ていないと心配していたオランジェットを探しているのだろう。
ルルティナは何度もアシェルに接触しようとしているが、ゼインが見事な体さばきでことごとく阻止している。しかし、ルルティナは諦めないようだ。
胸にチクリと刺さる軽い痛みを無視して、エリーゼは口を開いた。
「ルルティナ王女殿下はヒールの高い靴を履いていらっしゃいますね」
「うむ。こちらの国ではあのくらいが主流じゃろう? 我が国では違ったのじゃが、異母姉は合わせたのじゃ。ワシはフラフラするからまだ履いておらん」
「まず、ヒールに慣れていない状態であの辺りを歩くのは大変危ないと思います」
ルルティナの危なっかしい歩き方にハラハラしてしまう。
「そうか? 別に穴があいておるわけでも段差があるわけでもあるまい? 池はあるが」
「あの辺りは湿っているのでぬかるみが、あ!」
エリーゼは小さく声を上げた。
アシェルの側に行こうとしたルルティナのヒールがぬかるみにはまって足をとられ、ルルティナの体が大きく傾く。
そして最悪なことに、彼女は側の池に落ちた。
「ブブッ。あっはっは!」
メイメイはすぐに吹き出した。
ルルティナの側にいた使用人や護衛達は慌てて池に半身を沈めた王女を救出しようとしている。
アシェルといえば――
池に落ちたルルティナに目もくれず、ゼインを引き連れて庭の奥にさっさと消えて行った。
「ブブッ。最高じゃな。いやぁ、エリーちゃんよ。アシェル殿下はなかなかいい男じゃないか。羨ましいのデスワァ」




