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その日の晩餐は、いつものメンバーにメイメイを加えて始まった。
「あなたはどうしてそんな喋り方をするのかしら?」
晩餐が始まってしばらくしてから。とうとう王妃は皆が気になっていたことを切り出した。マナーのチェックをしてから切り出したのだろう。晩餐が始まって少しの間、王妃は私とメイメイにチラチラと視線をやっていた。
「教育係が教えてくれたのじゃ! そこに立っている者じゃよ。エリアス殿下との婚約が決まってからずうっと彼女が教えてくれておる。のぅ、アリサ?」
「そうなの? あなた、答えて頂戴」
王妃の声が若干鋭くなり、壁際に控えていたアリサというワイマーク王国から同行してきた年嵩の教育係は肩を震わせた。
「ワイマーク王国でのザルツ王国に対する理解はこういった感じなのかしら?」
「いえ、そういうわけでは……」
「では、どうして王女である彼女がこんな話し方なの?」
「その……歴史的な教養として昔の喋り方を教えたところ、王女殿下はそちらの喋り方をなぜか習得されまして……」
アリサがたどたどしく話す中、メイメイはエリアスを見て微笑んでいる。
「歴史的な教養? ワイマーク王国では相当前のことまで教えるのね。ザルツ王国ではこのような喋り方はしないし、誰もこの喋り方は習っていないわ。それにこの喋り方を矯正するのがあなたの仕事でしょう」
王妃のアリサへの苦言はくどくどと続く。
「もう一人王女殿下も来ていらっしゃるけれど。直前に言われても困ってしまうわ」
「異母姉は病弱でのぅ。ただ今回、ワシが異国で婚約するのを心配して無理矢理ついてきたようじゃ。ワシも知らなかったとはいえ直前になって迷惑をかけて本当に申し訳ない。そうそう、そういえばアリサは元々異母姉の使用人だったのじゃ」
「では一緒に帰国されるのかしら。その辺りについてはどうなっているの?」
「おぉ、そうじゃの。アリサは常々、教えるのは異母姉の方が良かったと嘆いておったのじゃから異母姉のところに戻ったらよかろう」
「で、ですが王女殿下のお世話をするために……」
「新しい教育係ならこちらで用意するよ」
エリアスが会話に参加した。
王妃は恐らくメイメイが気に入らなくて教育係を責めているのだろう。それか、アリサの教育がザルツ王国をバカにしていると感じたのか。
一方のメイメイは、エリアスと一緒になってアリサを追い出そうとしているようにエリーゼには見える。
「かたじけない。アリサは結婚がまだじゃからのぅ。こちらにとどまらせるのは申し訳なく思うておったのじゃ」
「昔の教育係がいつまでも側にいては成長しないわ。早く普通の喋り方を習得して頂戴ね」
「あい分かった。誠心誠意努力する」
メイメイは神妙そうに頷き、エリアスは笑いをこらえているのか変な顔をしている。スチュアートは胡乱な目でメイメイを見ており……アシェルはいつも通りである。むしろオランジェットのことを考えているのかぼんやりして食事をしているくらいだ。食事中も考え事をするところは国王にそっくりだ。
「教育係というか話し相手ならエリーゼ嬢にお願いしたらいい。他にもワイマーク王国に留学していたサンドラ・ケーニ嬢もいる。側近のクリストファーの婚約者だし、この二人なら大丈夫でしょう」
「おぉ、未来の義妹と話せるのか! それは嬉しいぞ! 真似をしていけばいいし、勉強もはかどりそうじゃ!」
完全に蚊帳の外の体でいたのに、エリアスによってさらっとエリーゼは巻き込まれてしまった。期待を込めたキラキラした瞳でメイメイに見られてはとてもではないが断ることはできなかった。
「いやー、良かった良かった。あの教育係にはずっと虐められてきたからのぅ。今回もワシのあずかり知らぬところでついてくるとなってしまったから、あの場で追い出してやろうと目論んでおったのじゃ」
あの後の晩餐では王妃による怒涛の質問攻撃があったにも関わらず、晩餐終了後のメイメイはケロッとしている。側で聞いていた方が精神攻撃を受けているくらいだ。
「さてと。アリサについては王妃の言質も取ったことじゃし。次は異母姉をさっさと追い返すかのぅ」
私は何といえばいいのか分からず、メイメイがカラカラと笑う様子を眺めていた。




