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「こっちは弟の第二王子アシェル。そしてもうすぐ国外に行っちゃう第三王子のスチュアートだ」
エリアスがアシェルとスチュアートを彼女に紹介する。後ろで王妃が気難しそうな顔をしているのが気になるが、目の前に集中することにした。
「うむ、よろしゅう」
言葉遣いが古めかしい。やはり聞き間違いではないようだ。
「よろしくお願いします」
王女であるメイファアウラ様の言葉遣いに驚きで固まっているスチュアートに対し、アシェルは気にしていないようで普段通りに挨拶している。
「こちらがアシェルの婚約者のエリーゼ嬢」
「うむ、お主がワシの義妹になるのか! ワシはずっと妹が欲しかったのじゃ!」
握手をしようとしたが、突然ギュッと抱き着かれた。
「俺もまだ抱き着いてもらってないのに~」
エリアスは屈託なく笑っていて、王妃は扇を広げているものの眉間のシワは確実に増えていた。
メイファアウラ様は女性でも小柄な方だ。私の背が高いので、彼女はつま先立ちして抱き着いておりプルプル震えている。抱きしめていいのか分からず、腕と目をさまよわせていると彼女はより背伸びしてぐっと顔を近づけてきた。
「お主には謝っておかねばならん。ワシの姉が王太子と婚約するワシを妬んで今回無理矢理ついてきておる。男と女の前では如実に態度が変わるいじめっ子気質の異母姉での。お主、大人しそうじゃから被害にあいそうじゃ。気をつけよ」
耳元に早口で忠告が落とされ、彼女は何事もなかったようにすっと離れた。
「未来の義妹とはゆるりと話したいものじゃ」
「は、はい。光栄です……メイファアウラ様」
「なんじゃ、堅苦しいのぉ。メイメイじゃ」
「め、メイメイ様?」
「様などいらぬ。メイメイと呼べ。心の距離を感じるぞ、未来の義妹よ」
「わ、分かりました! メイメイ」
「うむ。妹ができるのは嬉しいのぉ。何て呼べばいいかの。エリーちゃんとかかの」
「うんうん、それはまたの機会にね。じゃあ次は俺の側近を紹介するよ」
王女らしくなくニカッと悪戯っぽく笑ってポンポンと私の肩を叩き、エリアスにエスコートされ、銀髪を揺らしながらメイメイは側近達の方へ向かって行った。兄を含めた側近達の顔色は悪い。
大体の予想はつく。数秒話しただけでも分かる。
メイメイは恐らく……エリアスと同じようなタイプ、つまり劇薬だ。劇薬×劇薬のカップルである。
「なんであんな変な喋り方なんだ?」
「え、そんなに変かな?」
「変だろう……どう考えても」
「ふぅん? よく分からないけど」
横でスチュアートがアシェルとコソコソ揉めている。
「あんな古めかしい喋り方、今どき誰もしないだろ」
「語尾を不必要に伸ばすよりいいよ。前にスチュアートが夢中になってた子よりもさ」
「っ! もうあんなことはないから」
「なんて名前だったっけ? 女の子だったよね?」
「話題にしといて大して覚えてないのかよ……」
「まぁいいか。それよりオランジェットを最近見ないんだよね。庭のどの辺にいるか知らない? 見てない?」
「なんで俺が兄上のヘビの居場所を知ってると思ってんの!?」
二人の様子を見て思わずふふっと笑う。
「何がおかしい」
私の笑みを目ざとく見つけたスチュアートが睨んでくる。
「オランジェットがヘビの名前だと分かっていらっしゃるので」
「……あれだけ何度も話されたら覚えるだろ」
拗ねた様にスチュアートは顔をそむけた。オランジェットがヘビのことを示すと分かっているのは、これまでのアシェルの話をきちんと聞いていたからだろう。
学園時代のスチュアートとは全く違うのだと実感して、私はまた微笑んだ。
「エリーゼはオランジェット見た?」
アシェルだけはどこまでもマイペースだった。ある意味、大物である。




