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「結婚記念にうちの領地で売り出すのはカエルチョコレートがいいと思うのよ」
「この前作って頂いたような? 良いですね。カエルの目の部分を青や茶色のものにしたら結婚記念らしさが出るでしょう」
ニンジン多めの晩餐を終えて、デザートを食べながら母はアシェルとノリノリで議論している。
「ヘビは難しいわね」
「う~ん、箱を綺麗なものにしてもダメですか?」
「形状がねぇ。とぐろを巻いてるのもちょっと……結婚記念らしさがないわよね」
「トカゲはどうでしょう?」
「トカゲは尻尾も手足も細いからポッキリ折れちゃいそうね。箱開けて折れてたら悲しいじゃない?」
「はい、太ったトカゲは悲しいし……」
一体、何の会話になっているのか……。
ゼインと顔を見合わせながら、私は唇の端が引きつりそうになっていた。結婚記念にうちの領地で売り出すものの話よね?
「ゼン。マンジューとかいうお菓子はカエルの形にできないかな?」
「え……」
突然、話を振られたゼインは完全に引いた顔をしている。
マンジューといえば、以前ゼインがオタマジャクシの名前候補にしていた。結局、名前は私がやけっぱちで提案した「ショコラ」になったのだが、そのショコラもすでに立派なカエルだ。今は王宮の庭のどこかにいる。
「カエルの頭だけ再現するというのもいいな。カエルマンジュー」
「え、カエルの頭を結婚記念で売り出して皆食べるんですか?」
「可愛い顔にしたらいけるんじゃないかな」
「他と差別化できるからいいわね。チョコレートもカエルの全身バージョンと可愛くした頭だけのバージョンを作っても良いわ」
「マンジューってどうやって作るんだろう……」
引いているゼインをよそに母とアシェルはノリノリで意見を出し合っている。
「エリーゼはどう?」
「結婚記念品というわけではないですが、販路もこれから広がりますし、高級なタオルや靴下を売り出してもいいのかなって考えていました。高級志向ラインです」
以前フライアに渡した靴下は好評だ。あれは通常の物よりも綿を多く使用しているから少しお値段がお高めなのだ。
「そうよね。日用品の高級なものも差別化できるしいいわね。お土産に買って行ってもらえるし。なんならカエルの刺繍でも入れる?」
母がカエルから離れないのはなぜだろうか。アシェルの影響?
「カエルの手だけの刺繍なら簡単そうですね」
「あ、ちょっと可愛いかも」
そう発言したアシェルにゼインが「余計な事を!」とでも言いたそうな顔をし、うっかり「可愛い」と同意してしまった私に対しては信じられないという顔をする。忙しそうだ。
領地にいる間は特に母の発想がカエルから離れることはなかった。カエルチョコレートを売り出すことだけは決定した。
領地から王都に戻って少ししてから、エリアスの婚約者がやって来た。お兄様も帰国していて、側近全員相変わらず疲れている。そんな中、エリアスだけがキラキラしていた。
「うむ、ワシがメイファアウラじゃ。長いからメイメイと呼んで欲しい。よろしゅうたのむぞ」
キラキラした銀髪に褐色の肌、そして小柄で可愛らしい彼女にこんな挨拶をされて固まってしまったのは仕方がないことだと思う。




