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ビィービィービィー
鳥の鳴き声が木々の中にこだまする。
「あれは人懐っこい鳥だね。ほら、あの木のてっぺんにいるよ。かわいいね」
予定よりも早く到着したアシェル達を迎えに行き、帰る途中。手や顔に土をつけたまま鼻歌を歌っていたアシェルが木を指差す。
「あのオレンジ色の小さな鳥?」
「そうそう。もう何回か来れば近づいてきてくれるかな」
木のてっぺんには小さな鳥が二羽寄り添って留まっている。
「きっとあの二羽は番でしょう」
後ろからニンジンを抱えて付いてきているゼインが言う。
「鳥も飼ったら楽しいだろうな。それにしても、王都と違ってここは空気が綺麗だ。外でご飯を食べたら最高だろう?」
「カエルもたくさんいますからね」
恨みがましくゼインが言うので、領地に来るまでにまた何かあったのだろうなと察する。
「あ、エリーゼ。危ないよ」
「え?」
何がと疑問に思う暇もなく、隣を歩いていたアシェルに腕を取られて引き寄せられる。
「ほら。そこにヘビがいる。毒はないけど気性が荒い種類だから近づきすぎると噛んでくるかも。無毒でも噛まれたら痛いからね」
注視すると、オリーブがかった褐色のヘビが近くの草むらをスルスル動いている。
「体色は生息地域によって違うみたいなんだ。しかもこのヘビ、カエルが好物で食べるんだよね……泳ぎもうまいし……」
アシェルの声が複雑そうな響きを帯びる。唐突にヘビ講座が始まっているがその間、私はアシェルの腕の中に引き込まれたままだ。
アシェルは香水をつけない。先ほどまで土いじりをしていたため土と汗の混じった香りがする。ん? こんなに香りがするということは距離が近い?
距離の近さを実感すると、急に緊張してきた。ダンスの時もこれほど近づかないし、キスの時だって一瞬しか近づかない。こんなに密着するのは初めてだ。さっき見た鳥よりも密着している。
「あれは捕まえるんですか?」
「う~ん、前に何度か捕まえたけどあの種類は全然懐かないからね。放し飼いにして池のカエルが減るのも悲しいからやめとく」
エリーゼの緊張をよそに、アシェルとゼインは普段通りの会話をしている。密着しているアシェルの胸や腕からじんわり体温が伝わってきて、自分の心臓の音がうるさくなってきた。
「では、またあのヘビが出てきたら危ないので殿下はしっかり見ておいてくださいね。何匹もいるでしょうから」
ゼインはそう言うと、アシェルが片手に持っていたニンジンの入った袋をひょいと取り上げた。
「あ、僕のニンジン」
「私が持っておくので。エリーゼ嬢に怪我があったら大変ですから殿下はヘビに集中してください。殿下が一番ヘビを見つけるのは得意でしょう。さぁ、伯爵夫人がお待ちですから早く帰りましょう」
結局、屋敷までアシェルと手をつないで帰った。
メリーは帰ってきた時の私達の様子を見て小躍りし、ゼインに尊敬のまなざしを向けていた。




