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お母様の恋愛論です。
「周りに認められていないのにこのまま結婚していいのかなって……確かにマリッジブルーに似ているかも」
私の一番の不安は他人の目だった。世間体とも言える。この前までモヤモヤしているだけで何が根底にあるか分からなかったのに、領地に来て環境を変えたせいか悩みの根っこがクリアになっている。
「あなたは旦那様似だもの。頭で考え過ぎてない? 騒動があってから忙しくってやっと最近落ち着いてきたでしょう。人って暇が少しでもあると悩み始めるのよ。悩んでも仕方がないことでね」
思い返せばブレスレット騒動とアシェルとの婚約が落ち着いてから、この悩みは始まった気がする。それまではそれどころではなかっただけかもしれない。
「でも、認めてもらってないのは事実だから」
「全員に認めてもらってから結婚は誰だって無理よ。それに認めてくれない外野なんて恋愛のスパイスでしかないわ」
「え? すぱいす……?」
母から「恋愛のスパイス」なんてセリフが出てきたのが信じられず、思わず聞き返す。
「そうよ。邪魔してくる外野がいるから二人の恋愛が盛り上がるのよ。反対されたらされるほど燃えるでしょ。外野のおかげでお互いの絆が強くなるわ。だから、あ~スパイス振ってるのね、くらいでいいのよ。そーいう外野いなかったら結婚前に別れたり、険悪になったりしてるかもよ。あとは、どこからか湧いた元恋人や元婚約者や自称幼馴染、ポッと出で婚約を権力で押してくる王女とかがスパイスよね」
「そ、そうなの?」
「そうよ。恋愛って片思いで『彼は私のことが好きなのかしら、そうじゃないのかしら』ってモダモダしてる時と、付き合ってから『彼がキスしてくれない。もしかしてもう私の事好きじゃなくなった?』なんてウダウダしてる時が一番楽しいんだから。あなたは今が一番楽しい時で、そこにさらにスパイス投下よ。だから、王妃様がやってることはあなた達の結婚に反対してるんなら逆効果ね」
思わず、目が点になった。
目の前の母は政略結婚して出産して別居までしているのである。説得力はある……。
「結婚したら楽しくないわよ。仕事とか領地のこととか社交とか色んな事に追われちゃって。一緒にいるのが当たり前になってきたら夫は優しくなくなるし。うちの旦那様なんて私が起きてる間に帰っても来ないから話もできないし」
「う、うん……?」
父は以前より早く帰宅する日が増えたが、週に数回だ。王宮に泊まったり、夜遅く帰ったりすることがまだまだ多い。父からしたら劇的な進歩であるが、普通には程遠い。父は仕事人間、そして私の自信のなさ。人って簡単には変われない。
「そういえば、本棚に恋愛小説増えたね?」
母の本棚に恋愛小説が増えているのを見て、これまでの発言の合点がいく。母と恋愛の話をするなど、私にはあり得ないことだから。
「私は結婚にも恋愛にも不向きな人間だけど、息子と娘の結婚が近いから勉強しておこうかと思ってね。でも、最近って変な恋愛小説流行ってるのね。溺愛ものとか。溺愛ほど裏がありそうで恐ろしいものはないわよ。一体、何を埋めるために妻や恋人を溺愛するのかしら。不足感? ラブラブな期間なんて最短三ヵ月、最長三年よ。そこから先は嫌なところが目について冷めていくのよ。最悪、愛は憎しみに変わるわ。本読んでもよく分からないけど、一生溺愛が続くなんてあり得ない」
うん、やっぱり母は母だった。どこまで行ってもリアリスト。
なんだか安心した。




