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「白いヤモリがまた見れるかと思ってたんだけど、見れなくってさ。なかなかいないよね」
王族のみの晩餐会にも関わらずアシェルはいつも通りだ。
エリーゼも婚約者として参加しているが、エリアスの婚約者もスチュアートの婚約者も国外の方で不在のため、肩身が狭い。というかスチュアート殿下の場合は他国に婿入りだから仕方ない。
「珍しいから見たいんだけどなぁ。緑豊かなところに行けば見れるかもしれないと思ったのに。エリーゼの領地にはいるのかな」
マナーをチェックする王妃の視線を気にしながらも、絶賛通常通りのアシェルにエリーゼは安心していた。
身分差のある婚約の後、おとぎ話の様に「めでたしめでたし」で終わるわけがないのだ。きっとおとぎ話のお姫様もマナーなどの勉強に苦労しただろう、なんて現実逃避をする。
「アシェル。食事中にそんな話をするんじゃありません。他の話があるでしょう」
「視察でヤモリやカエル以外にする話はないですね」
王妃の言葉にしれっと答えるアシェル。王妃は諦めてエリアスに話を振った。
兄弟勢ぞろいしているのを見ると、スチュアートが一番王妃に似ている。
「メイファアウラ王女を迎える用意はできているのでしょうね? 自分ですると言ったのだから手伝いませんよ」
「ぶふっ。アシェル、ヤモリ以外話すことがないって面白いな! 準備はご安心ください。優秀な側近達と一緒にやっています」
国王とスチュアートはほとんど喋らない。特に国王は、仕事中以外は「うん」や「あぁ」くらいしか言わないのだ。エリーゼは今では慣れたものの、最初に会った時はあまりの寡黙さに嫌われているのかと困惑した。
「笑いごとではありませんよ」
「ふふふっ。母上、そんなにピリピリしていたらシワが増えますよ?」
国王とスチュアートに対してエリアスはよく喋る。ただ今日は少し様子がおかしい。彼はいつもこんなに吹き出すように笑わない。
アシェルも気づいたらしく、じっとエリアスを見つめている。
「ワインのボトルを持ってきてくれ」
今まで言葉を発しなかったスチュアートが声を発した。
給仕が持ってきたボトルを見てスチュアートが眉を顰める。
「いつもより度数が高い。なぜこれを?」
「今日はこちらをと指定されまして」
「母上。兄上は体調によって酒に弱くなることもあるのになぜわざわざ視察帰りにこれを?」
給仕の言葉を受けてアシェルが王妃に問う。
「それより度数が低いものは今度の夜会などで使うから、今夜はそれが丁度良かったのよ」
「夜会は別に度数が低くなくても良かろう」
国王が珍しく口を挟む。
国王はお酒が好きなようでハイペースで飲んでいた。王族の面々はこの晩餐中、国王ほどではないもののお酒が進んでいる。エリーゼもペースは合わせていた。
「もう決めておりましたので。それにエリアスがここまで酔うとは思いませんでした」
「あははは! 酔ってませんよぉ! それにこれは母上お得意の嫌がらせでしょう」
エリアスは一人楽しそうに笑っている。酔うと笑い上戸になるタイプのようだ。
「どうせ強いワインでエリーゼ嬢に嫌がらせしたかったんでしょう? 父上とアシェルはザルですから。強い酒で困りそうなのはこの中ではエリーゼ嬢くらいだ」
「あら、酷い言いがかりだわ。どうやっても私を酷い姑にしたいようね。大体、私達は薦められて度数の高いお酒を飲まなくてはいけないこともあるのよ」
エリアスだけはケタケタと笑っていたが、晩餐の空気は凍り付いていた。




