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「最近は視察がデートって感じね。あー、結婚早まったかしら。婚約者時代をもう少し楽しめばよかったわぁ。夫婦になるとなんだかねぇ、いっっつも一緒だから新鮮味がなくて」
「そ、そうなの?」
「ブルックリンはまだまだ新婚さんなのに~。悲しいからそんな枯れたこと言わないで。私はダーリンと観劇に行くことが多いかな。劇のキスシーンと一緒のタイミングでキスするのよ、キャー! 言っちゃった! 言っちゃったわ!」
両頬に手を当ててきゃあきゃあ騒ぐクロエを呆れた様子でブルックリンは眺めている。
「聞きたくなかったわ、そんな惚気。飲まなきゃやってられない。あ、エリーの分もないわね。フライアの婚約祝いのワインだけど私達だけで飲んじゃいましょ」
私が頷く前にとぽとぽとワインを注ぐ。いつの間にかボトルは一つ空になっている。
「クロエは領地を芸術の街にするからデートで芸術鑑賞が多いの?」
「それもあるわ~。でも庶民向けのレストランにも行くし、ウィンドウショッピングもするわよ。カフェでお茶もするし。とにかく一緒にいることが楽しいのよ。ひとまず、今はこれまで無駄にした婚約者期間をやり直しているの! 今しかないんだから楽しく生きないとね」
「ま、前向きね」
「はあ。結婚したら『早く後継ぎを』ってせっつかれるんだから。婚約者時代は貴重よー」
「え、ブルックリンはもうそんな風に言われてるの?」
「早くない?」
「さすがにまだ言われてないけど。でも、母親から『後継ぎさえ産めばトーマスと離縁してもいいのよ? あんなことがあったんだし、もし不安なら』って言われてるわ~」
ブルックリンの顔は赤くないものの目がトロンとしてきて眠そうだ。今、皆ワインは三杯目だ。クロエはレモンパイに集中しているので、ワインに手が伸びていない。
「あんなことって学園での一件よね?」
「そうそう。ブレスレットの騒動ね。トーマス、うちの親にも謝ってくれたんだけど、一回やらかすと信頼を取り戻すのが難しいみたい。私は許してるつもりなんだけど」
「センセーショナルな話題だったし、王族も絡んでるしぃ。一生言われちゃうわよ~。でも、ブルックリンが当主だからこそ後継ぎが出来たら離縁って話が出るのよね」
「母親が心配するのも分かるんだけど……私はトーマスと別れるつもりはないもの」
ぐぐぐっと残りのワインをブルックリンが一気に飲む。そんな飲み方をして大丈夫かしらと心配していると、少し間があってからブルックリンはテーブルに突っ伏してしまった。
「あら、ブルックリンも脱落? 結構飲めると予想してたのに~。これじゃあ領地での有力者との会合や懇親会ってキツイんじゃない? トーマス様が飲めるならいいけど。ダーリンの領地でも皆けっこうお酒飲むのよねぇ。飲め飲め言われるし。あ、でもエリーと二人きりで女子会ができるわね!」
クロエは既に領地の会合などでお酒を飲んだ経験があったらしい。発言からしてお酒に強そうだ。
ブルックリンをフライアと同じようにベッドに運ぶ。フライアは寝相が良いようで、先ほどと全く同じ姿勢で眠っていた。ブルックリンはモゾモゾしている。
「エリーと二人きりで話すのって初めてじゃない~? きゃ、新鮮!」
クロエもだんだんお酒が回ってきているのか、最初よりもテンションが高めだ。
「そういえば……そうかも?」
フライアとブルックリンそしてナディアとは一対一で話した記憶はあるが、クロエとはない気がする。ただ単に機会に恵まれなかっただけなのだが。
「エリー、さっきの表情じゃあまだキスもしてないんでしょ~。さぁ、お姉さんに悩みを言って御覧なさ~い」
「クロエより私の方が誕生日早いよね……?」
「あら、花嫁としてはもうすぐ結婚式を挙げる私の方が先輩よ? それにね、悲しい時や悩んでいる時に一番に寄り添ってくれるのは男じゃなくて、女友達なのよ! 私達はお互いがいたからあの騒動を乗り越えられたんだもの。もちろん、ダーリンとの出会いも助けにはなったけど、一番大切なのは女の友情なのよ!」
無邪気に笑いながらクロエはまたワインを注ぐ。
「お酒の力でも何でも借りて言っちゃいなよ」
「言っちゃいなよ」が「さっさと吐いてしまえ」に聞こえたのは気のせいだと信じたい。




