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「は? スチュアート殿下と話したぁ?? だ、大丈夫だったの?」
フライアは素っ頓狂な声を上げるとともに、エリーゼの顔を両手ではさみ、いろいろと変わったところがないかチェックし始める。
「フライア、そんな見えるところじゃなくて。見えないところに危害を加える男かもしれないんだからドレスで隠れた足や腕もチェックしないと。さぁ捲くるのよ」
ブルックリンはそう言いながら、気合を入れるように自分の腕を捲っている。
クロエはそんな二人の様子を見て、少しばかり逡巡してから侍女を呼んで何かを耳打ちした。
「いや、お話しただけで危害なんて加えられてないから」
「ほんとに? 隠さなくていいのよ?」
「エリー、将来の義弟だからって庇う必要はないわ。どうせ国外に出荷なんだし」
スチュアートの信頼度は悲しいほどに低い。この被害者メンバーなら仕方がないのかもしれないが。皆、エリーゼよりもスチュアートのやらかしの場に遭遇した率が高いからかもしれない。
「エリーのお兄さんは? え、婚約者に会いに行ってる? じゃあアートは何してたのよ、側近なのに役に立たないわね」
「王太子殿下やアシェル殿下の視察のタイミングを狙うとはね」
そんな言い合いをしていると、侍女の一人がパイを運んで来た。今日はクロエの家であるサマセット侯爵家でお茶会をしているのだ。テーブルにはすでにたくさんのスイーツが並んでいるのだが……なぜここでパイを投入なのだろうか。
「人気パティスリーのレモンパイよ。一日30個限定なの! 一人で食べようかと思ってたんだけどぉ、やっぱり嫌な事あったらみんなで美味しいもの食べないとね!」
スチュアートとの遭遇は嫌な事扱いのようである。
「え、そんな限定のパイを……クロエが買ったのにいいの?」
「クロエ、ウェディングドレス入らなくなるわよ。もうすぐ人妻なんだから自重したら?」
「そうよ、いくらレモンパイだからって食べ過ぎたら良くないわよ。私だって式の前は相当気を遣ったわよ。急ピッチでドレス作ってもらってたし、ちょっとでもウエストが変わると針子たちが怖かったわ」
「ダーリンは太ったくらいじゃ怒らないもの」
「いや、ドレスが入らないのは死活問題よ。無理矢理ドレス着て、ヴァージンロードでボタンがはじけ飛ぶとか嫌よ」
「さすがにホールを丸ごと一人ではないわ~」
「レモンパイなら私も作れそうだから今度作るわ。ねぇ、ところであれはいったい何?」
別の侍女が十冊ほどの本を持ってくる。
「うふふふ。あのね、この前のエリーの婚約発表パーティーで変な令嬢いたじゃない?」
「変な令嬢? パーシル伯爵令嬢?」
「ゼイン様とアシェル殿下推しの令嬢ね」
「いたわね。クロエが撃退したじゃない」
「あれからずぅっと疑問だったの。私、男色やボーイズラブってよく分かっていなくってぇ。だから今お勉強してるのよ」
侍女がテーブルの上に本を置く。
「ダーリンと領地を芸術の街にしようと思ってるからちょうどいいなって。それに敵についていろいろ知っておいた方が対策しやすいもの」
「へぇー、ナチュラルに男性同士が付き合ってるのね」
ブルックリンは積まれた本から一冊抜きだし、ペラペラと読み始める。
「読むの早っ!」
「ふふん、書類仕事で早くなったのよ~」
エリーゼも一冊渡されててめくってみたが、少々刺激の強い挿絵があったので思わず閉じてしまった。
「ボーイズラブも奥が深くって~。ハマっちゃうかも」
「え、クロエ。あなたほんともうすぐ人妻なんだから」
フライアは受け入れられないらしく、本を差し出されても手で押しのけている。
「これ以外にも芸術家の支援もスタートしていくのよ~。エリーも結婚するし、殿下との出会いのシーンとか絵にしたらいいと思うの。ほら、ゼイン様にスケッチは貰ったのよ」
クロエが得意げに見せてくる紙には池に入るアシェルと、袋を広げるエリーゼらしき人物が簡単に描かれている。
「ゼイン様、いつの間に……」
「あら、ゼイン様って絵が上手ね、意外だわ」
「でしょ? 画家に描かせたらナディアにも送るのよ~。あ、この本も送った方がいいかしら?」
「向こうの王太子に何言われるか分かんないからボーイズラブの本はやめときなさいよ」
散々婚約者のことをダーリンと呼んでいるからもう新婚のようにも思えるが、クロエの結婚式はまだなのだ。
結婚式を控えて幸せそうなクロエの様子にエリーゼ達も茶会ではつられてよく笑った。




