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はぁとゼインは軽く息を吐いてエリアスの座るテーブルに近付く。
近付いても、ルルという少女は俯いてグズグズ泣いているだけだ。
仕方がない。本当に仕方がない。
彼女を殴れと言われていないからいいだろう。
ゼインは拳を振り上げて、テーブルに叩きつけた。
あまりに驚くと声が出なくなるというのはこういうことだろう。
ルルは驚いてイスから落ちかけたが、白衣の女性によって支えられ無事だった。
「はいはい。僕とお話の続きをしようね~。あ、また泣くのはやめてね。根性で泣き止んで。そのくらいできるよね?」
エリアスはパンパンと手を叩きながら相変わらずの笑顔だ。
冷酷さを軽薄さで包むとこんな風になるんだろうな。エリアスの表面の軽薄さに騙されそうになるが、彼の中身はそこはかとなく黒い。
「君の今後をどうするかが悩ましいんだよね~。今回ここに来た本題はこれなんだ。君はこれからどぉしたい? 『ずっとこのままなのかしら』って不安で独り言で出ちゃうくらいなんでしょ?」
ゼインはエリアスがルルの声真似をしたのを聞いて吐き気がした。チラリとアシェルを見る。アシェルは他人事なのか、つまらなそうに欠伸をかみ殺している。
「お、お母さんと……平和に、ヒック。く、暮らしたいです……」
ルルは泣きそうになりながら必死に答える。
「えぇ~。4組の婚約を壊しておいて自分だけは平和に暮らしたいのぉ?」
「あ、あの時は……舞い上がってて……学園の中だから……お姫様気分を味わってもいいかなって……」
「でもぉ、平民でも相手がいる異性にはあんなに近づかないでしょ? 5人の令息が自分に侍ってて少しもおかしいと思わなかったぁ?」
エリアスがわざと馬鹿っぽい喋り方をしている。学園にいた頃、男子生徒を前にしたルルを真似ているのだ。今のルルはこんな喋り方はしていない。無意識でぶりっこしていたのか、わざと作っていたのか。その喋り方をわざわざするとは、とても嫌味な人だ。
「み、みんな……婚約者の……悪口言ってたからっ。不満があったのかなって」
「う~ん、でもさぁ。客観的に見たらおかしいって思うよね? それとも自分が令息の婚約者たちより優れてるとでも思ってたぁ? 思ってたなら具体的にどこがかなぁ? 教えて欲しいなぁ」
「そっ、そんなことは……最初は婚約者いるって知らなくて……でも、悪い事したとちゃんと思ってて……」
側で聞いているゼインでさえ、心を若干抉られそうになる。しばらくこんなやり取りが続いてゼインはゲンナリした。
会話を聞いていても、ルルは学園の頃は予想外に上手くいって天狗になっていただけのように思える。平民から男爵家の令嬢になり、学園に入ったら爵位が上の見目の良い令息達が仲良くしてくれたならしょうがないのかもしれない。
ゼインも天狗になりかけたことはある。姉達に容赦なく伸びた鼻はへし折られたのだが。自分は案外恵まれた人間だったのかもしれない。特別であることを当たり前だと錯覚しないでいることは非常に難しいのだから。
ただ、彼女はあまりにも無知だった。そして自分のことが可愛いだけの人間だ。反省をしているようでしていないところにそれが出ている。
領民のためだとか、他人のために動くことはきっとあり得ないだろう。他人の痛みにも鈍感、というか察することができないようだ。
「う~ん、まぁいいや。で、ブレスレットはお祭りの屋台で占い師に貰ったんだよね? 他に思い出したことはない?」
エリアスはいい加減、あのバカっぽい喋り方をやめたようだ。
「毎年、行ってたお祭りで……あの占い師は初めて見たから……。他には心当たりはないですっ……」
「そっか。分かった。他に思い出したことがあれば施設の誰かに伝えてね。今日はもういいよ。残ってる作業に戻ってね」
ルルはまだ何か言いたそうにしていたが、エリアスはさっさと立ち上がる。
優しい言い方に聞こえるが、ゼインには完全に拒絶しているようにしか聞こえない。
アシェルは壁際で立ったまま寝そうになっていた。




