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「さて、状況はどうだい?」
エリアスはルルの後ろにいつの間にかいた白衣の女性に声をかける。女性はルルの肩を押さえて座らせると、持っていた紙をパラパラめくる。
ゼインは背中がヒヤリとした。気付かなかった。いや、気配がしなかった。王家の影だろうか。
「ブレスレットがどこから来たかは知らないのか、全く言いません。こちらに来て数か月は『どうしてこんなことに』『こんなはずじゃなかったのに』と泣くばかりでして。食事は三食、睡眠も泣きながら6時間は取っていたので大丈夫そうでしたが」
「へぇ、僕よりも寝てるんだね」
この人、睡眠時間6時間より短いのか。意外と仕事をしているのかもしれないとゼインはエリアスを一瞬見直す。
「ここ最近は日中泣くことなく、与えられた雑用をこなしています。早く終わった場合でも追加で仕事をする、他の人に指示をあおぐことはせず研究施設の勤務の終了時間までボーッとしていますね。寝る前は『ずっとこんな生活が続くのかしら』と不安げに泣いています。これまで病気などは特になく、食欲も落ちていないようです」
「ふぅん、そっか」
白衣の女性の声は平坦であるものの、報告の中身には若干の棘を感じる。
エリアスは用意されたイスにゆっくり腰かけると、ルルをじっくり観察していた。
「ねぇ、ブレスレットの手がかりは話す気になった?」
「わっわたし、ほんとに何も……知らない……」
「あ、僕のことは覚えてくれてるかな? 一度だけ会ったよね」
「お……王太子……デンカです……」
ルルは緊張のあまり泣きそうになりながら受け答えをしている。
「報告をいろいろ聞いてるけどさ、実際にまた会ってみて君にはガッカリだよ」
ゼインから見るエリアスはいつも通り、キラキラした微笑みを浮かべている。だが、口から出る言葉が表情と合っていない。
アシェルはというと壁際で興味なさそうに傍観している。さすがに図鑑は馬車の中に置いてこさせたので持っていない。
「ブレスレットの力はあれど、5人の令息を手玉に取ってたからもっと強かで計算高い子かと思ってたんだ。様子見のためにせっかく王都から離れた研究施設に送ってあげたのに。なんで自分は有用だと、使える存在なんだとアピールしないのかなぁ。もしかして自分は被害者だから悪くない、誰かに助けてもらえると思ってる?」
エリアスの輝かんばかりの笑顔とは裏腹のセリフにルルはとうとう泣き出してしまった。首を横に振っているがエリアスの言葉のどの部分を否定したいのだろうか。
「ねぇ、ゼイン。泣いて会話にならないから壁かテーブル殴ってもらっていい? びっくりしたら涙も止まるでしょ。彼女に頼むとテーブル壊れちゃいそうなんだよね。彼女、アシェルによく付いててくれたからさ。ちょっとでも私情が入っちゃったらテーブルや壁が大変」
彼女というのは白衣を着た女性のことだ。アシェルによく付けていたからルルのこともよく分かっているし、うんざりして報告に棘があったというところだろうか。
それよりも自分は女性より非力だと思われているのだろうか……と少し顔を顰めかけたが、エリアスの表情を見てゼインは思いとどまる。
なるほど、これは珍しい。分かりにくいが、エリアスはキレている。
笑顔で怒るタイプほど面倒なものはない。




