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屋敷に入ると、夫婦が迎えてくれる。
奥まった部屋に案内され、カーペットをめくり床にはめこまれた扉を開ける。
ゼインは自分がやろうと手を出しかけたが、楽しそうなエリアスに止められてしまったため仕方なくエリアスの動作を見ていた。
扉を開けると狭い階段があり、一人ずつ下りていく。階段の先には長い廊下が続く。
「長いですね……」
「だってヒミツの研究施設だからぁ」
ゼインが思わず漏らした言葉に、語尾にハートマークがつきそうな口調でエリアスは答える。
「何ですか、その口調。頭悪そうですよ」
「あはは。ゼインはほんとに容赦ないね。これから会う子が前にこんな喋り方してたからさ、合わせてあげるのが優しさかなって思ってちょっと練習。え、そんなドン引きって顔しないでよ」
「知りませんでした……これがドン引きと言うんですか……」
言い合うゼインとエリアスの横でアシェルは呑気に欠伸をしながら歩いている。
「そんなスチュアートに初めて会った時みたいな顔しないでよ」
「それってスチュアート殿下に対してシレっとひどいこと言ってますよね……」
「アシェルも思うよね? ゼインってばひっど~い」
エリアスの口調にゼインの眉間のシワが増える。
「兄上、近くに池があったので帰りに寄ってもいい?」
「え、こんな時でもカエルなの? 別に終わった後なら池でもどこでも寄っていいよ。でも、アシェル。君にも関係あることなんだからもうちょっと興味持とうね?」
「兄上もネコを捕まえる? 何匹かいたし。あれと話をするなら終わった後に気分転換がいるかなと」
「あーそっちかぁ。いるかも」
「決めるのってストレス溜まるからね」
兄と弟で進む会話。
ゼインは先ほどの言動を少しだけ反省した。反省と言ってもその辺の小石よりも小さく……自分の小指の爪の白い部分くらいだが。
エリアスはおちゃらけた言動があるものの、れっきとした王太子だ。彼に割り振られた仕事の中で一番重要な決断はもちろんエリアスが行っている。
中には国民の生活がかかった大きな決断もある。その重みはゼインでは理解できないものだろう。
そしてその大きな決断をするストレスのバランスを取るために行われるのが、城の中庭でのネコの捕獲劇ということなのだ。
ここまで整理したが、ゼインにはストレス発散にネコの捕獲へと走るエリアスがイマイチ理解できない。ギャンブルや女遊びよりは良いのは分かっている。
「兄上が学園生の時、ネコは捕まえていなかったけどあの頃は何をしていたの?」
「あの頃は橋の視察に行くことが多くてね。建設途中の橋の上で酒を飲んでたよ。あと橋の上で寝っ転がってた。いっつもトファーに怒られて連れて帰られてたよ」
ゼインはさっきまでちょっと反省しようかと思っていたが、やっぱりやめることにした。アシェルは池に入っていくが、エリアスも色々やらかしているようだ。そもそも学園生の時点で酒を飲んでいい年齢ではない。
長い長い白い廊下を歩き終わり、扉を開けるとまたそこにはたくさんの部屋の扉が見える。
「さて、ここだよ」
エリアスは一つの扉の前で立ち止まった。
「割り振られた仕事はきちんとやってるみたいなんだけどね。それと反省してるかは別問題だからね~」
部屋に入ると、一人の女性が弾かれたようにイスから立ち上がる。ゼインはあまり思い出したくないが、赤茶色のウェーブした髪を見て嫌でも思い出した。
ルル・ハドスン、いや今はただのルルが震えながら立っていた。




