11
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回からは珍しい3人組が登場。
ゼインは相変わらずの苦労人です。
「はぁ……どうして私まで来る羽目に……」
ゼインは嫌そうな顔を隠しもしない。
「だって~、トファーが愛しの婚約者に会いに行っちゃったからさ」
トファーとはエリーゼの兄・クリストファーのあだ名である。エリアスしかこのあだ名で呼ばないので、あだ名と言っていいのかは疑問だ。
「あれだけ放置しておいて何が『愛しの婚約者』ですか。ふざけないでください。他の側近を連れてくればいいのに」
「いろいろ仕事があってみんな手が離せないからゼインにも来てもらったってわけ。母上だって何考えてるのか分からないしさぁ。あの人がエリーゼちゃんをいびるかもしれないからアートも連れてこれなかったし」
「はぁ……」
馬車の中でゼインのため息は止まらない。エリアスはそんなゼインを見て楽しそうだ。
「ほんとにゼインって遠慮がなくていいね。今からでも遅くないから俺の側近にならない?」
「なりません。死にたくないので」
「えぇ~。なになに、ゼインは結婚願望とかあるの? だから死にたくないの?」
「あなたの元で働いたら過労死一直線です。結婚願望はありません」
「えー、まだ誰も死んでないよ。それに、結婚願望がないなんてもったいない。ゼインって良い旦那さんになりそうだよ?」
「まだ、でしょう。まだ誰も死んでいないだけで側近の方々は毎日死にかけではないですか。それに、良い旦那になる可能性が高いのと結婚願望があるかどうかは別の話です」
「大丈夫、みんな仕事熱心なだけだから」
「そういうのが一番怖いんですよ」
「そろそろ落ち着く予定なんだけどな~。なぜか問題がいろいろ出てくるんだよ。ねぇ、それよりアシェル。図鑑ばっかり読んでないで。久しぶりに一緒の視察なんだから図鑑読むのやめよう? おにーさまとお話をしよう」
「あなたが無理矢理一緒の視察にしたんでしょうが」
エリアスと一緒の空間にいるストレスでゼインの口調が乱れる。その横でアシェルは優雅に図鑑を閉じた。
「そういえば、今日の視察ってどこへ?」
「アシェル~、説明したはずだよ! 今回の視察は研究施設だよ!」
「自然豊かな場所としか覚えていなくて。この図鑑に載っている珍しいカエルがいるかもしれない」
アシェルは図鑑を持って嬉しそうにしている。その様子を見てゼインのストレスはどこかへ行ったようだ。彼の眉間のシワが減ったことがそれを物語っている。
「いやいや。アシェル。真面目にやろうね。視察だからね。それにさ、残してきたエリーゼちゃんは心配じゃないの?」
「心配は心配だけど、侍女長に頼んであるから」
「あー、侍女長ね。王妃付きの侍女が一人体調を崩しているから侍女長が誰か送り込んでくれたと思うよ」
「侍女長ならどうにかして潜り込んでくれると思うけど。それに王妃付きの侍女が体調不良なのは兄上が何かしたでしょう。毒?」
「やだな~、今回はさすがに毒にはしなかったよ。健康な人がある分量以上を摂取すると体調を崩すお薬だよ。猫アレルギーだったし、あのあと微熱が出ても疑われにくいからね」
この人、ネコをわざわざ捕まえて王妃のところまで持って行ったのはそういう理由もあったのか……とゼインは感心する。かなりの人でなしだ、と。
「でもアシェルが臣籍降下したら侍女長も辞めて公爵領に付いて行っちゃうんでしょ? いいなぁ。ゼインといい、侍女長といい、アシェルって結構人望あるよね」
「侍女長は自然の多いところで両親と一緒に住みながら働きたいって言ってたからね」
「まぁそうなんだけどさぁ。あ、そろそろ到着するよ」
こんなんで視察は大丈夫なのかというゼインの心配をよそに、馬車は一見平凡な屋敷の前で停車した。




