再会
ついに出立の日がやって来て、何台もの馬車が連なり火山と騎士の国、ノースランドへと向かう。
まさかロゼッタを訪れた時とは違う顔ぶれでノースランドに行くことになるとは思ってもみなかった。
馬車だからそれなりに時間はかかったものの、旅は順調に進み、久方ぶりの祖国に無事たどり着く。
懐かしい旧市街・新市街を横目に進み、ノースネージュ城に到着すると、クライブ陛下とティア王妃殿下がお出迎えをしに来てくださっていた。
真っ白な馬車から降りたロザリア王女は、いつもよりゆっくりと、恐る恐る歩いていく。
それを見つめている王妃殿下も、どこか強張ったお顔をされている。
陛下と王妃殿下の前に立った王女様は、なぜか突然深く頭を下げだした。
「姉様!? どうされたのです、どこか具合でも悪いのですか?」
ティア王妃殿下はわたわたと慌てられ、混乱されている。
それもそうだろう。
ロザリア王女から、ずっとキツくあたられてこられたのだろうし、ここに民の目はないとはいえ、人前で頭を下げる王女様の姿など見たことがなかっただろうから。
本来なら、王族は威厳を守るため人に頭を下げたりはしない。
だがきっと、王女様にとってはそれよりも、妹に謝りたい気持ちのほうが強かったのだろう。
「ティア、本当にごめ……なさい。……ぃが、こんなに苦しいものだと思わなくて……貴女にひどいことをしてしまった……」
王女様とは距離があり、風が吹き付けているせいで、ところどころしか聞こえない。
それでも、これまでの行動をちゃんと謝られたことだけは、遠くにいてもしっかりと伝わってきた。
一向に頭を上げようとしない王女様の前で王妃殿下は屈みこまれ、王女様の両手に触れて優しく微笑まれた。
「姉様……。それはもう過去の事ですし、気になさらないでください。私はいまとっても幸せなんです。だから、どうか顔をお上げになってください」
「ティア……」
王妃殿下と王女様の二人は、きらきらとした涙を浮かべながら抱き締め合っていた。
長年のぎくしゃくした関係も、きっとこれで元通りになり、お二人は仲良し姉妹に戻ることだろう。
隣にいらっしゃる陛下も穏やかな表情で、ロゼッタの姉妹を優しく見つめていらっしゃったのだった。
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長旅で疲れただろうし、今日は自由行動ということになったらしく、王女様はティア王妃殿下の紅茶をいただいてから休まれることにしたようだ。
一人になった僕は、もう二度と来ることがないかもしれない城内をのんびり散策していく。
すると、ノースランドの大尉であるフランツ氏とオリバーさんに偶然再会した。
「おお、カイル! お前、同盟国の王族を救うなんて、お手柄じゃないか」
筋肉の鎧で覆われたフランツ氏が、バシバシと僕の背中を叩いてくる。
「ありがとうございます」
うう……かなり痛い。
もうちょっと手加減してくれよ、と、苦笑いを浮かべると、フランツ氏は嬉しそうに両口角を引き上げていた。
「籍を失ったのも、全て同盟国を救うためだったのだろう? 俺が国籍と軍籍を取り戻せるよう、陛下にかけあってやろう」
「え!? ええと、それは……」
これをありがた迷惑と言わずに、なんと言えばいいのだろう。
同盟国の王女に恋をした、だなんて言ったらまたとんでもなく長い説教をくらうことになるだろうし、かと言ってちょうどいい言い訳も思い付かない。
八方塞がりの状況に、どうしたもんかと頭を悩ませていると、ありがたいことに助け船が入った。
「フランツ。カイルはもう君の部下じゃないんだし、余計なおせっかいはやめておけ。カイルはいまも、戦いの真っ只中なんだから」
そう言ってくれたのは、オリバーさんだ。
さすがオリバーさん。話が早い。
「戦いの最中だと! それは加勢してやらねばな」
せっかくフォローをしてくれたのに、フランツ氏はこぶしを握りしめて、気合いを入れているような顔つきへと変わってしまった。
「ううむ、どうしたもんかね。何にもわかってなさそうだなぁ、これは」
オリバーさんは苦笑いを浮かべ、血気盛んなフランツ氏を眺めている。
フランツ氏は、思い込んだら一直線で、自分にも他人にも厳しく熱い男。
こうなってしまったら、もう下手に触らないのが一番だ。
「フランツ氏がわからないんじゃなくて、わかるほうがすごいんですよ。オリバーさん、相変わらず鋭すぎですから……」
何も話していないのに恋心を見抜くなど、そう簡単にできるものじゃない。
だけど、オリバーさんはにこやかな顔で首を横に振ってきた。
「いやいや。あんな目で見てたら、誰だってわかるさ。頑張れよ。コイツが余計なことをしないように見ておくから、存分に戦ってくるといい」
「ありがとうございます」
フランツ氏とオリバーさんが共にいる時に会えてよかった、と胸を撫で下ろしていると、オリバーさんが急に声のボリュームを上げて話し始める。
「カイルはフランツの訓練にも耐えるほど、しぶとくて諦めが悪いヤツでねぇ。お相手の方は、お覚悟をされたほうがよろしいだろうなぁ」
背後に視線を感じて振り返ると、廊下の奥に誰かがいたようで。
突き当たりの角を曲がってしまったのか、短い金髪の髪と薔薇色のドレスの裾が微かに見えただけだった。




