デート
「クライブ陛下も“全て承知の上”って、どういうことなの?」
ロザリア王女は混乱したようで、どこか不安げな表情を浮かべている。
そんな王女様を落ち着かせようと、穏やかに微笑みかけた。
「陛下には、当時わかっていたこと全てをお伝えしています。サウスの商人が不穏な動きを見せていたことも、婚約の儀で何かよからぬことが起こる可能性があることも、僕が王女殿下に惹かれていることも、全てです」
「そういうことなら、国籍も取り戻せるんじゃないかしら……? また、王国兵に戻れる、かも……」
たどたどしく提案をしてくる王女様に、僕は首を横に振った。
「僕はもう、ノースランド王国兵に戻るつもりも、ロゼッタ女王国兵になるつもりもありません。僕が一番欲しいものは何か、お伝えしましたよね」
「……っ、だけど……私は……」
王女様は苦しげに表情を歪ませ、ドレスのスカートをぎゅっと握りしめていく。
「殿下、僕に少しも気持ちがなければ今、ここで別れを告げてください。ですが、少しでも悩む余地があるのならば……二ヶ月後、告白の返事をくださいませんか」
しばしの間沈黙を守っていた王女様だが、震える声でぽつぽつと話し始める。
「お願い……あと少しだけ考えさせて頂戴。すぐには、決められないことだから……」
「ありがとうございます。いまはそのお言葉だけで十分です」
フラれずに済んだことに安堵の吐息を吐き出し、にこりと微笑む。
だが、王女様は難しい顔をしたまま視線を落としていて。
これ以上悩む姿など見たくはなかったため、声のトーンを明るく変えて話しかけた。
「ところで、先程の贈り物の件ですが」
「ええ……」
「ティア王妃殿下は、紅茶がお好きでいらっしゃるようです。もしよろしければ、また城下へお出掛けにいきませんか? 今度は中佐の了承を得られたらにはなりますが」
「ありがとう。ぜひお願いしたいわ」
僕の提案に王女様はやっと顔を上げてくれて、花が開くようにふわりと微笑んでくれた。
――・――・――・――・――・――
ジェームズ中佐にロザリア王女を城下に連れ出して良いか尋ねたところ、すぐに上官にかけあってくれて、外出許可をもらうことができた。
スコットから聞いた話によると、中佐が「自分も護衛をしますので」と上官伝えたところ、「この国最強の男がついていれば安心だ」と二つ返事で了承されたらしい。
ロゼッタで最強……やっぱりあの人は末恐ろしいなと、苦々しく笑った。
城下町に出る当日の朝「せっかくのデートを邪魔しちゃ悪いから、遠くから見ているよ」と、ジェームズ中佐は言ってくれたけど、デートだと思ってくれているのなら監視するのも止めてほしい。
だけどまぁ、仕方ないか。
また誰かに襲われないとも限らないのだから。
ため息を深く吐き出して城門前で待っていると、ロザリア王女が僕を呼ぶ声が聞こえてくる。
振り返ってみて、驚きのあまり言葉をなくしてしまった。
前回は下流貴族のドレスを着ていた王女様が、今回はなんと町娘の格好をしていたのだ。
「カバンなんて持ち慣れないから、違和感があるわね」
とか王女様は話しているけれど、僕からするとカバンどころか安物の髪留めも、色あせたスカーフや細い足首があらわになったスカート丈も、ぺたんこの靴も全てが違和感だらけだ。
「王女、殿下、どうしてそのような格好を……?」
「たまにはいいでしょう? 軽くて動きやすいところが、とてもよくて気に入ったわ」
ダンスをするように王女さまが回ると、短い髪とスカートがふわりと浮き上がる。
白い首すじと細くて滑らかな足がよく見えてしまい、完全に目の毒だ。
「カバン、持ちますんで貸してください」
このままじゃ中佐が見ている前で手を出しかねないため、王女様のカバンを持って手を塞ごうとしたのだが、王女様は頬を膨らませてツンと顔を背けてきた。
「嫌よ、せっかく自分のカバンを持てたんだもの。中に何を入れようかエリィと考えるのも面白かったんだから」
まったくこの人は、大人なんだか子どもなんだか。
くすりと微笑んで、隙を見てカバンを奪い取った。
「デートの時は、男が重いものを持つものなんです」
「そういうものなの?」と王女様は首をかしげていたけれど、はたと何かに気がついたようで、慌ててカバンを奪い取ろうとしてきた。
「カイル、これはデートじゃないでしょう!? 早く返しなさい!」
ひょいとカバンを持ちかえて盗られないように手を上げていくと、王女様は躍起になって下手くそなジャンプを何度も繰り返していて。
あまりの可愛さに笑いが止まらなくなってしまったのだった。




