感じが悪いやつだ
更新が滞ってしまっていて申し訳ありません。
少しずつ再開していければと考えています。
☆これまでの簡単なあらすじ☆
臣下から嫌われ、女王からも次期女王失格の烙印を押されたロゼッタ女王国の王女、ロザリア。
自棄になって、依存性のある悪魔の葉『マバルの葉巻き』を吸おうとしていたところ、剣術指南で来ていたノースランド王国の大尉であるカイルが偶然通りかかり、カイルはロザリアの葉巻を奪い取る。
そこから二人は次第に話をするようになり、ロザリアも少しずつカイルに心を開いていくように。
一時は国も自分も狂わせても良いと考えていたロザリアだが「いつでも人は変われる」というカイルの言葉に勇気をもらい「次期女王として国のために生きる」と自分に誓いを立てていく。
カイルはそんなロザリアに惹かれていたのだが、身分差や国籍の違いから想いを伝えることができないまま、ロザリアは自国のためにシュタール王国の王子と政略結婚することを決めてしまう。
婚約の儀を終えれば、それを解消することはできなくなってしまう。
しかもその儀式の日は、カイルが国へと帰る日で……
不穏な空気を感じていたカイルは、国へ帰らず婚約の儀へと向かったロザリアを追いかけるのだが、その途中で侍女のエリィが倒れていて。
彼女は「新たな女王の誕生」「サウス王国の安泰」という不穏な言葉を聞いて、王女を追ってきた途中で襲撃されていた。
急ぎ儀式の場である女神の塔にカイルと部下が向かうが、すでに正体不明の敵が押し寄せていたのだった。
次から次へと迫りくる敵を斬りつけて、僕らはようやく三階にたどり着いた。
儀式の間は恐らく、金で装飾された一際大きな扉の向こうだろう。
急ぎ向かうと血のにおいが鼻をついてきて、一気に不安が沸き上がる。
確か、五階で婚約の儀を行う間、女王陛下が儀式の間で祈りを捧げるしきたりになっていて、護衛を許されているのもジェームズ中佐一人だったはずだ。
全員、無事だといいのだけれど……
勢いよく扉を開けて中を見渡すと、最奥の角でジェームズ中佐が血まみれになりながら戦っており、その背後には険しい表情を浮かべつつも凛と立つヘレナ女王陛下の姿があった。
広い儀式の間では、一人が斬ったとは思えぬほど大勢の敵が倒れている。
恐らく、中佐は女王陛下を守るため、獅子奮迅の活躍を見せていたのだろう。
突然の僕らの来訪に、女王陛下とジェームズ中佐、何十もの敵が動きを止めて、一斉にこちらを向いてきた。
「……貴方、ノースランドに帰ったのでは……?」
「カイル殿、どうして……」
女王陛下と中佐の問いかけに、にこりと微笑み口を開く。
「ロザリア殿下にお伝えし忘れたことがあったもので。それより、お二人とも無事で良かった……。ロザリア王女殿下とディーノ王子殿下はどちらに?」
「最上階だ。ここにいる荒くれ者たちは、陛下のお命が欲しいそうでね。ロザリア殿下を女王にさせるつもりらしい」
“くたびれたオッサン一人を相手に手加減してくれなくて、困っていたところだよ”と、ジェームズ中佐は乾いた笑いを漏らす。
くたびれたオッサン、ねぇ。一人でこんな人数斬り伏せておいて、よく言うよ……
その言葉を飲み込んで、ホッと安堵の吐息を漏らした。
冗談を言う余裕もあるのが何よりだ。
「ロザリア殿下を女王に据える……なるほど、つまり王女殿下はある意味一番安全、ってことですね」
僕の問いに、中佐はこくりとうなずいて剣を構える。
「ああ。まずはここを一掃しよう。手伝ってくれるかい?」
「もちろんです。ラキとジンバ、第一小隊は陛下の護衛へ向かえ!」
部下たちに指示を出すと、「はっ!」と短い返事と共に彼らは女王陛下の元へと駆け出す。
敵は部下たちを攻撃しようとしてきたが、それをするりと避けて駆け出し、すぐに陛下の元で防御の隊列を組むことができた。
「くそぉぉぉぉっ! お前たちのせいで、計画が台無しだ!」
一気に形勢をひっくり返され、筋骨隆々の男が目を血走らせて地団駄を踏む。
周りの男たちも憎らしげな様子で、中佐と僕とを睨み付けてきていた。
「だってこんな馬鹿げた計画容認できないですし、台無しにするしかないでしょう。もう諦めません? いまやめれば、命まではとりませんよ」
向こうのほうが人数では上回ってはいるが、戦力で言えば間違いなくこちらが勝っている。
そこに気づいて退いてくれればと思い、剣を収めて提案したのに……
かえって筋肉男の火に油を注いでしまったようだ。
「多勢に無勢のこの状況見てから言えや! ひょろっこいモヤシ男が!!」
激昂した筋肉男が斧を構えて、こちらに襲いかかってきたのだ。
振りかぶられた斧をただただぼんやりと見つめ、呆れかえって言葉が一つも出てこない。
“状況を見ろ”は、こっちのセリフだし、何より人が気にしている体型のことをわざわざ言うなよ……
「とっとと死ね!!」
斧が振り落とされた瞬間、一歩踏み出し剣を抜いて思いきり振り抜く。
肉を断ち、最後にヒュッと風を切る音がして、ルビーのような血の玉が宙を舞った。
「人の忠告は聞いておけと、教わりませんでしたか?」
どさりと地面に倒れこんだ男を見下ろして尋ねるが、当然のことながらもう返事はなかった。
もやし男が、筋肉男を一刀で斬った姿が衝撃だったのか、辺りはしんと一瞬静まり返る。
だが、すぐに「一斉に女王にかかれ!」と敵の吠える声が響き渡った。
どうやら敵の中には理知的なヤツもいるらしい。
女王陛下の首をとったらその時点で敵の勝ちだし、わざわざ僕らと戦う理由なんかない。
目標を陛下に絞った彼の判断は、正しいものだと言える。
だけど。
「そんなこと……許すと思います?」
「まったく……さっきから無礼にもほどがあるなァ」
中佐と僕の言葉が重なり、僕らは同時に駆けていく。
そして、防御の隊列を組む部下たちの前へと飛び出した。
立ちはだかる僕らに、敵は一瞬ひるむ様子を見せたけれど、すぐに斬りかかってきて。
それをジェームズ中佐が一薙ぎで倒し、そのまま上から次の敵を斬りつける。
僕もそれを横目で見ながら、剣を振るって大男を突き刺した。
「感じが悪い奴だな」
敵が押し寄せて混戦しているというのに、ジェームズ中佐が呑気に呟く。
「何が、ですか!」
剣を振り上げて尋ねると、中佐はふんと鼻で笑ってくる。
「君は、私との腕試しで全力を出さなかっただろう」
腕試し……そういえば剣術指南の最中にそんなことをした記憶がある。
確か、引き分けで終わったはずだ。
「他国の方に実力を全てさらすと思いますか?」
ジェームズ中佐と背中合わせになって尋ねると、くつくつとこみ上げるような笑いが後ろから聞こえてくる。
「まぁ、正論だ」
部下たちの健闘もあって、あんなに大勢いた敵もあと三人というところにまで減らされていた。
――・――・――・――・――・――
最後の一人の呻き声を聞き、敵を一掃した途端、あれほど激しく戦っていたジェームズ中佐は、剣を杖のようにしてその場にへたり込んで項垂れた。
「はは……歳にはもう勝てんなァ」
部下たちに守られていたヘレナ女王は中佐の元に歩み寄って座りこみ、彼の手をとって口を開く。
「ジェームズ、ありがとう。貴方のおかげで私とロゼッタ女王国は生きながらえた」
「陛下、ありがたきお言葉……」
ジェームズ中佐は慌てて膝まづこうとしていたけれど、陛下によって止められた。
「それに、カイル。貴方にも礼を言います。今すぐ私をロザリアの元へ連れて行ってくれるかしら?」
娘が心配なのだろう。
女王陛下は、足早に扉に向かおうとしていたけれど、すぐにそれを止めた。
「いいえ、その頼みは聞けません。敵の狙いは貴女様のお命。早急に避難していただき、後は私とロゼッタの第一小隊とにお任せください」
「陛下、恐れながらカイル大尉の進言に従っていただければ、と」
ジェームズ中佐の言葉にヘレナ女王は渋々うなずき、「頼みます」と僕の手を強く握りしめてきた。
陛下の手は微かに震えていて、どれほどロザリア王女を心配しているのか痛いほどにわかってしまう。
「必ず無事にお連れいたします」
固く誓って扉を出ようとすると、後ろで人が倒れるような音がして振り返る。
そこには床に倒れ込み、悔しげな表情を浮かべるジェームズ中佐がいた。
「カイル殿、すまないが私はもう足手まといにしかなれそうにない……」
「中佐も、あとのことはどうか僕らにお任せください。ロゼッタ第一小隊、行くぞ」
マルク少佐より預かった小隊のメンバーに声をかけると、彼らは力強く返事をしてきて。
僕らは急ぎ、ロザリア王女とシュタール王国のディーノ王子がいる最上階へと向かった。




