兵士失格
お待たせしてすみません。
改稿終了し、更新再開しています!
もしかしたら、また改稿するかもしれませんが今回ほど長く間を開けることはないと思います。
カイルの階級が変わったり、部下と共にロゼッタに来たり、と細かい部分を変えています。
もしお時間ありましたら、読み直していただけるとわかりやすいかもです。
ロゼッタの侍女や兵士たちに見送られた僕たちは、華やかな城下町を無言のまま進んだ。
この町を出ればもう、ロゼッタの王都に来る機会はほとんどゼロに等しいだろう。
「大尉。正気……ですか」
人通りが少なくなったのを見計らって、部下の一人が苦しげに顔をしかめて尋ねてくる。
「ああ。こうする他、ない」
そう言って足を止めると、部下たちは僕を説得しようと考えているのか、周りを取り囲み、まっすぐに見つめてきた。
「カイル大尉。お言葉ですが、事件の気配は掴めなかったのですよね。しかも、今日それが起こるという確証もありません」
強い目で見てくる兵士に向かって、首を大きく横に振った。
「いや、ある。僕がヤツならば、確実に婚約の儀の最中に事を起こす」
「おっしゃりたいことはわかります。ですが、もしも……もしも、儀式で何も起きなかったらどうするんです……?」
今度は、背が高く真面目な部下が、僕の前に立って見下ろしてくる。
彼の顔は青白くなっていて、不安げに歪んでいた。
「万一、咎められたら僕が全責任を取ると言っただろう。陛下にも事前に手紙を渡しているし、ぬかりはない。それに、誰にも面倒をかけさせるつもりはないと何度言えば」
「違うんです! 俺らが心配してるのはカイル大尉が……!」
一番いい加減だった部下が声を荒らげてきて、すぐに口をつぐんでいく。
きっと、そこから先は、口に出しづらい言葉だとでも思ったのだろう。
「……僕は、祖国よりも自分の心に従って生きることを選んだ兵士失格の男。軽蔑はすれど、心配などしてはいけないよ」
「ですが……」
食い下がる彼らに苦々しく笑う。
「それに、何もないのならそれが一番。間抜けな大尉が状況を見誤ったと、僕が処罰されるだけ。誰も死なず、僕以外には憎まれず、すべて平穏無事に終わるのが最上の結果。そう思わないかい?」
――・――・――・――・――・――
僕と部下たちは馬を預け、城下町の外れにある宿で待機することにした。
広い食堂に並んだ椅子に固まって腰かけ、その時が来るのをただじっと待つ。
食事どきではないからだろうか。
丸テーブルと木の椅子が並ぶ食堂には、僕ら以外には誰もいない。
外から聞こえてくるにぎやかな声を聞きながら、僕たちは女将さんが入れてくれたローズティーを飲みつつ、焦る心を必死に抑えつけていく。
気分を落ち着かせようと紅茶の匂いを嗅いでみるけれど、甘く華やかな香りに王女様の顔が自然と浮かんできて、完全に逆効果だ。
カップをソーサーに置くと、かちゃりと音が立ち、カップの中で波紋が広がった。
ざわつく心を抑えられずため息をこぼすと、突然扉が開いて、明るい声が耳に飛び込んできた。
「カイル大尉! 手紙、ようやく届いたよ!」
振り返ると、ふくよかな女将さんがにこりと微笑んでおり、真っ白な封筒を差し出してきていた。
「ありがとうございます」
急ぎそれを受け取って、すぐに中をあらためる。
金色の封を剥がしていくと、ノースランド国王クライブ陛下直筆の手紙が入っていた。
一文一文を目に焼き付け、噛み締めるように最後の一行を心の中で読み上げる。
『勝算があるのなら、迷わず進め。お前に敗走は似合わない』
淡々とした言葉があの方らしい、と思いながら、丁寧に手紙をたたんで胸ポケットに入れる。
「何と書いてあったのですか?」という部下の問いに微笑みかけて、口を開く。
「負けは許さん、と」
「負け? これは、勝ち負けの問題ではないのでは?」
首をかしげてくる部下に僕は首を横に振る。
「いいえ、ここからは全てが勝負です」
水面下で動いてきた相手と、王女様を守ろうとする者たちとの。
僕の立場と、僕自身との。
そして、王女様と、僕との。
何一つ負けるわけにはいかない。
僕は僕の信念のため、貴女もノースランドも両方失うことなんて、したくはないんだから。




