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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
685/688

H-685 この辺りでトンネルの半分だろう


 斜路から北に2kmほど侵出したところで電動カートを停める。

 既に16時を回っているからなぁ。今日の作戦はここまでにした方が良さそうだ。

 1個分隊を警戒に残して、完成事務所に引き上げる。

 斜路からまたトンネルを進むことになるから、歩くだけでも30分近く掛かってしまうだろう。


「カートの柵の先にベンチを2段に並べましたし、その先にはクレイモアですからね。警戒に残した部隊の中でM14ライフルを装備した兵士にはHK69を渡してあります。グレネード弾は50発以上ありますから、何かあっても直ぐに逃げ出すことにはならないでしょう」


「確かに逃げるのが一番でしょう。でも逃げる前に、それだけのグレネードを放ってくれるならかなりのゾンビを倒せるでしょうね」


 シバタさんが残ってくれたから、スターライトスコープでゾンビを視認するよりも先にゾンビの接近を知ることが出来る筈だろう。

 ゾンビに不意打ちされることが無いから、余裕を持ってゾンビを迎え撃つことが出来るはずだ。それに戦闘経験豊富な軍曹がいるからね。状況判断は俺達よりしっかりと行えるに違いない。


 マスケットさんと雑談をしながら、隠匿階段を上って管制事務建屋のエントランスに出た。

 季節は冬だけど2月の半ばを過ぎているからね。エントランスの窓の外は夕日が雪原を赤く染めていた。

 朝は吹雪きだったんだけどなぁ。これなら、食堂に行くのも苦労しないで済みそうだ。


「ご苦労様! これから夕食なんでしょう?」


 指揮所の奥からエメルダさんが労いの言葉をかけてくれた。

 こっちに歩いてくるということは、一緒に夕食を取ろうということかな?

 エントランス出口で副官のカミラさんから防寒コートを受け取って羽織っている。

 外はマイナス気温だからなぁ。俺達は防寒服を着たままだから、このままエントランスの中に長くいると汗が噴き出るに違いない。

 外に出た途端、思わず襟元を合わせる。少し風があるようだ。かなり寒く感じるんだよね。


 5分も歩くと元格納庫の食堂に到着する。

 中は石油ストーブがいくつも焚かれているから、かなり暖かい。

 防寒服を脱いで、空いているテーブルの椅子に掛けておく。とりあえず席は確保したことになるのかな。

 さて、カウンターの列に並ぼう。

 今日の夕食は何だろう?


 ステンレスの間仕切りトレイに盛られた料理を持って先程のテーブルに戻る。一旦トレイを置いたところで、もう1度カウンターに戻り人数分のコーヒーを運んできた。しっかりと砂糖とミルクの入ったスティックを確保する。

 砂糖を使う人はあまりいないんだけど、ミルクは入れるんだよなぁ。

 ミルクを入れたらコーヒーの香りを楽しめないと思うんだけどね。まぁ、人様々だからあまり口には出さないようにしておこう。

 テーブルにはエメルダさんにカミラさん、俺とジョルジュさんにマスケットさんが同席する。

 先ずは食事だな。

 今日は鹿肉のシチューのようだ。近くで狩ることが出来たのかな?

 

「やはり食事は温かい物が一番ですね。コーヒーにカロリーバーでは士気が落ち込んでしまいます」


「トンネル内は案外冷えるからなぁ。それでも外よりはマシだと思うけどね。電動カートは役立つね。石油ストーブを運んだよ」


「火を焚くのは考えるところではありますが、休息時に温まれるだけでも兵士達は大喜びでした。それに何時でもコーヒーが飲めますからね」


 俺達の話を、うんうんと頷きながらエメルダさんが聞いている。

 やはり会議室で報告を聞くよりも、雑談を通して状況を聞きたかったのかな? 雑談には案外本音が出るからなぁ。


「トンネルの方は順調なんでしょう」


「もちろんです。どうやらトンネルの半ばまで到達したようですから、明日には地下施設の様子が分かるかと」


 マスケットさんの返答に笑みを浮かべている。

 到達は何とかなりそうだけど、帰るまでに1時間だからなぁ。明日は現地で夜を明かすことも視野に入れねばなるまい。

 それにゾンビ達がトンネルにいるという事は、どこからか入るルートがあるという事だ。さすがに管制事務所の隠匿階段を降りた基地の兵士だけではないだろう。軍服を着ているゾンビは倒したゾンビの半数ほどで後は私服だったし、子供達も混じっていたからなぁ。

 地下施設を介してトンネル内に潜んでいたとなれば、地下施設の規模がまだ不明ではあるけどかなりのゾンビがいないとも限らない。

 楽観視は出来ない状況だ。


「大尉は心配そうね?」


 俺が黙って食事をしていたからだろうか? エメルダさんが問いかけてきた。


「楽な戦場は無いと、海兵隊員になってからずっと教えられて来たからでしょう。『案外容易だった』とは終わってからの感想です。それまでは状況を常に見守り続けないと……」


 うんうんと頷いてくれる。

 言葉の意味を理解してくれたようだ。最後にカミラさんに顔を向けて頷いているぐらいだからね。


「それが分かる指揮官が少ないのが問題かもしれないわ。マスケットも現場で大尉の慎重さを学んで欲しいところだけど……」


「かなり過激なところもあるんですよねぇ……。ゾンビの群れに兵士2人を連れて誘い出すんですから……。場数の違いもあるんでしょうが、単純に慎重な指揮官ではないと考えております」


「状況に応じて慎重にも大胆にもなれる……。ある意味理想的ではありますが、そんな指揮官が実際にいるんですねぇ……」


 ジョルジュさんが感心した表情で俺を見てるんだけど、そんなことはないんだよなぁ。どちらかと言えばその場しのぎが多いようにも思えるし、レディさんに説教されることも度々だったからねぇ。


「副官が苦労しそうね。今回は准尉だけど、それは我慢して貰うしかないわね。マリアン少将の話では堅物の少尉を副官にしていたらしいけど、出産で代理の副官が海兵隊マーシャルアーツのインストラクターと言うんだから感心を通り越してしまうわ。2人だけでゾンビを倒せそうね」


「数体なら倒せますけど、群れは無理ですよ。自分の限界を把握することは兵士の務めですし、指揮官ならば隊員の限界も知るべきでしょう。俺の部隊の半数はゾンビが現れてからの海兵隊員ですし、たまに生物学研究所の博士達も同行することがありますからね」


 俺やエディ達は戦いに参加するとしても、七海さんやパット、それにオリーさん達までいるからなぁ。部隊の戦闘レベル的にはかなり下になると思うんだけど、それにしては現場が多すぎるんだよなぁ。


「耳痛い話ね。でも分らなくは無いわ。私も可能な限り部隊員のプロフィールには目を通しているし、雑談している兵士に混じって話をすることも度々だもの」


「それは個人を知るという事ですか?」


 ジョルジュさんが、飲みかけていたコーヒーカップをテーブルに戻しながら問いかける。


「私なりの部下を知る手段という事になるわね。こうして食事をしながらの会話でも、貴方達を知ることが出来るわ。それによって作戦を遂行するために、どこまで無理が出来そうかが少しずつ分かってくるの」


 最後の言葉に、俺達が互いに顔を見合わせる。まだまだ温い作戦という事なんだろう。

 できれば最後まで温い作戦になって欲しいところなんだけどなぁ……。

                 ・

                 ・

                 ・

 指揮官全員を集めた会議が始まったのは20時を過ぎてからだった。

 全体的に見れば順調そのものだ。

 南の住宅地に続くトンネルの水没はすでに俺の身長を越える高さにまでなっているらしい。このまま斜路まで周防没させて終了という事だから、明日の朝には終わるだろう。

 基地の建物に潜むゾンビの掃討も順調とのことだ。1個分隊を派遣して北の森にあるかもしれない隠匿格納庫を捜索した結果では、F-35Bが6機格納された施設を見つけたそうだ。

 しっかりと施錠されていたからゾンビも潜んでいなかったらしい。整備はされていたんだろうけど、あれから5年以上たっているからなぁ。果たして飛ばせるんだろうか?

 北に延びるトンネルの状況はジョルジュさんが報告してくれた。特に補足することもない。


「明日は、まだ残っている施設とトンネルになるわね。さすがにあのトンネルを水没させるのは無理があるでしょうから、工兵部隊はトンネルの封鎖計画を立案してくれないかしら。エドソン少尉達は使った消防車の整備をお願いするわ。でも海水を使うと、そこまで清掃しないといけないの?」


「消防車に錆びは厳禁ですよ。必要に応じて消火を海水で行うこともありますが、その度に細部まで水洗いです。これを適当に済ませると後が大変ですからね。人命を守る以上、さぼるようなことは出来ません」


 彼らの矜持に関わるという事か。それだけ消防車の普段の点検と整備は大事だという事なんだろうけど、いざという時にバラしていたら困ると思うのは俺だけなんだろうか?


「それならしっかりとお願いするわ。基地の消防車も使えるなら持ち帰って構わないという事なんだけど?」


「1台頂いていきましょう。工作車両なんですが、電動工具等がかなり搭載されています」


 工兵部隊が欲しがりそうだな。

 エドソンさん達は工兵部隊と一緒に行動うしているから、案外車両の融通も視野に入っているのかもしれない。

 

「それなら私達も、電動カートを頂いていきましょう。あれはトンネル内でかなり役立ちます。今回の作戦でダメ出しを行えば他のトンネルにも使えるでしょう。台数は3台欲しいですね」


 ジョルジュさんも使えると判断したようだな。

 確かに色々と都合が良いことは確かだ。出来ればもう少し小さな車両も揃えて置くべきだろう。今回のような大きなトンネルは案外少ないんじゃないかな。

 

 コーヒーを飲み終えたところで、トレイを片付け食堂の端のt-ブルに移動する。

 ここは軽く一杯という連中が集まっているんだよなぁ。20時から明日の打ち合わせがあるから、さすがにワインを飲むことは出来ないがココアなら問題ない。

 甘いココアを軍属の小母さんに作って貰い、一服しながら頂く。

 目の前のテーブルでは数人がボードゲームに興じている。モノポリーの拡大版だな。

 勝負が付くのはかなり先なんだろうけど、すでに破産寸前の兵士がいるんだよねぇ。

 運が悪いというしかないんだが、戦闘時にもそうなんだろうか?

 もしそうなら、この基地の教会に行って真剣に祈ってほしいところだ。


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― 新着の感想 ―
ここで不運を出し切ったと考えれば。
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