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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
684/688

H-684 トンネル内のゾンビは倒した後が大変だ


 鋭いホイッスルの音がトンネル内に響くと、ヘッドホン越しでも耳が痛くなるように響いていた銃声がピタリと止んだ。

 まだ耳鳴りがするんだよなぁ。とりあえずは一服してコーヒーを頂こう。

 バーネストが渡してくれたコーヒーを受け取って、壁に背を当てながら一口飲んだら……。

やはりという事か。キャンピングカートに乗せてある水筒の水で薄めて丁度いい感じだからなぁ。

  

 「どうにか凌ぎましたね」


 「これぐらいなら良いんですけどねぇ……。結構ベンチを乗り越えてきたゾンビがいましたね。もう1段先に設けるべきでした」


「ハハハ……。結果論ですが、それは次に生かせられます。行動結果の確認と次への反映、

何度も士官学校で教官が言っていた言葉ですが、現実にそれを行うとなると……」


 誰がどんな立場でPDCAのサイクルを回すことになるのか。

 俺は全員だと思っているんだけどなぁ。

 対外的にはエメルダさんが執り纏めるのだろうけど、現場の分隊長もそれを行って欲し

い。それをマスケットさん達仕官が纏めてエメルダさんに報告するなら、エメルダさんの報告書は現場重視の報告書になるに違いない。


「ようやく耳が元の戻ってきましたよ。先ほどまで耳鳴りがしていたんです」


「トンネル内での銃撃ですからね。私も似たようなものですが、さすがに耳栓の方が少

しはマシにという事なんでしょうね」


 ちょっと油断した感じだ。ここまで酷いとは思わなかったからなぁ。

 これもオットーさんに相談すべきかもしれない。案外良い方法があるかもしれないからね。


 耳が元に戻ったところで、電動カートの柵近くに足を運びトンネルの先の音を聞いてみた。

 今度はだいぶ小さいな。かなり離れているように思える。相変わらず声が重複しているが、統率型を聞き分けることが出来た。戦士型の声は聞こえてこない。次は少し楽になりそうだな。

 それにしても凄惨な光景だ。

 ゾンビはあまり体液を流さないけど、数が多いからなぁ。トンネルの床が体液で濡れている。青い体液なんだけどさすがに色は分らない。床が黒く見えるだけだ。


キャンピングカートに乗せたトランシーバーで、エメルダさんに報告をしているマスケットさんのところに足をはこぶ。

 俺を見て腕を伸ばした先にはベンチが置いてあった。

 座って待て、ということだろう。マスケットさんに小さく頷いてベンチに腰を下ろす。

 

『……了解です。移動開始前に再度大尉と相談します。以上!』


 通信を終えたみたいだな。俺と相談? というのは、このまま前進するのかを相談という事かな? でもその前にやることがあるんだよね。


「ゾンビを確実に倒したかをこれから確認します。1個分隊で2人1組で行いますが、数が数ですからねぇ。しばらくは掛かるでしょう。その間にトンネルの先を調査すべくデュラハンを動かしてもらえるよう依頼しました。腹にリトルジャックを抱えていますから、次の群れに遭遇したなら同じことが出来るでしょう。でも今度は、大尉はこの場にいてくださいよ」


「あの2人に任せるよ。でももう1人追加したほうが良いのかもしれないね。俺から1つ良いかな。このままゾンビをトンネル内に置いておくのは賛成できない。出来れば地上に移動して焼却したいんだけど」


「確かに、これは問題ですねぇ……。エメルダ中佐に対応を考えて貰いましょう」


 数が多いとなぁ。ゾンビは腐敗しないらしい。そのまま干からびてしまうとオリーさんが言っていた。倒して間がないならゾンビが共食いして始末してくれるんだけど、さすがにトンネル内で共食いを待つのはねぇ……。


「エメルダ中佐が、画像を見て驚いていたようですよ。倒したゾンビの始末は工兵部隊に任せるとのことでした。彼らの事ですから、機械を使って移動するのでしょう」


 案外強襲揚陸艦内にそんな機械があるのかもしれないな。ミサイルや砲弾を電動カートに積み込む際に使いそうだ。今どきのミサイルは結構重量があるだろうからなぁ。砲弾だって、1発ずつ積み込むのでは時間が掛るだろう。


 倒れたゾンビを壁際に寄せ終えたところでモニターを眺めると、蠢いていた位置を通り過ぎてさらに北に進んでいるようだ。モニター画像に右上の表示には斜路から1200m程の位置にいるようだな。地下施設の位置は基地から北東5kmほどにある森の地下と推測しているから、まだまだトンネルが続くのだろう。

 今の所、デュラハンから届く画像にはゾンビの姿がまるでない。

 マスケットさんが俺に顔を向けて小さく頷く。

出発させるという事だろう。俺も頷くことで答えると、マスケットさんが電動カートを進めるよう指示を出した。


「デュラハンがかなり先行していますから、ゾンビの姿を捉えたところで再び阻止線を構築しましょう」


「そうして、あの誘いということですね。さて、もう1人を選ばないと……」

 

 マスケットさんの呟きを聞いた兵士達が、たちまち群がってくる。

 全て自薦なんだよなぁ。

 やってみたいのかな? ちょっと危険なんだけどねぇ。


「分かった、分かった! まぁ、君達なら誰でも出来るということなんだろう。だが、君達の中から選んだりしたら他の兵士から私がキツイ目で見られそうだからなぁ。公平にクジ引きにするぞ。それなら候補者全員にチャンスがあるからな」


 途端に賑やかになってしまった。

 さすがに当選者を1人に出来ないように思えるんだけどなぁ。それに次点にバーボンでも進呈するのも面白そうだ。確か俺の荷物の中に小瓶が入っていたはずだ。


「大尉殿! デュラハンがゾンビを捉えました。斜路から2000m付近です。此処から

800m程先になります」


 バーネストの声を聴いて、直ぐにマスケットさんとキャンピングカーゴの後方に移動する。

 荷台の背面に取り付けたモニターに、しっかりとゾンビの姿が映っているんだが……。


「これは蛍光ライトが光源では無さそうだね」


「蛍光ライトの光源よりも遥かに小さいのですが、トンネル壁面自体が発光しているようです」


 そう言う事か、それでゾンビの姿が良く見えるんだな。光源は小さいんだが壁面全体が光源になるんだからなぁ……。そうなるとこれは、発光生物のコロニーもしくは光を放つ苔が時制しているということになるのかな。

 ヒカリゴケという植物を聞いたことがあるけど、こんな場所に自生するとは考えられない。これもまたメデューサの進化に関係しているに違いない。とりあえずサンプルを確保しておこう。


「数は少なそうですね……」


「20体に満たないようです。この先をデュラハンで探らせたところでどうするか決めましょう」


「このまま進めそうではあるが、その先にゾンビがいると面倒だということですね。了解です。ここでしばらく待ちましょう。丁度昼時ですから、兵士達に昼食を取らせますよ」


 腕時計を見ると12時を過ぎている。

 マスケットさんの『大休止!』という声に兵士達が笑みを浮かべてキャンピングカーゴから炊事道具を取り出して直ぐにお湯を沸かし始めた。

 トンネル内は結構冷えるんだよねぇ……。熱いスープにビスケットの食事だけでも香辛料の効いたスープだから体の中から温まるに違いない。


 皆がコーヒーを自分のカップに注いでいるけど、俺はバッグからココアを取り出した。オリーさんが試験管内に1カップ分のココアパウダーと砂糖に粉末ミルクを詰め込んでくれたんだけど……。何となく怪しい薬に見えてしまうんだよね。

 試験管の中身を全てシェラカップに入れて、お湯を注いでスプーンでかき混ぜる。

 出来上がったココアを一口飲んでみると、……うん! 俺好みの良い味だ。ココアはこれでないとな!


「大尉はココアですか! さすがに私は卒業ですね」


「本来なら、コーヒーなんだろうけどねぇ……。俺には少し濃すぎるんだ。それに、甘い物は正義というぐらいだからね」


 俺の言葉に、近くにいた女性兵士達が笑い声を上げているんだよなぁ。

 あまり兵士らしくない人物に思われたかな? まったくその通りではあるんだが……。

 ココアを片手にモニターを眺める。

 スープが出来たなら准尉が運んで来てくれるだろう。それまでは俺がモニターの番をしていよう。

 デュラハンは既に斜路から3kmを越えて進んでいるようだ。

 ブースターの搭載数は1つだけだから、そろそろ制御限界に近いんじゃないかな。

 途中で出会ったゾンビの群れはトンネルの壁際をゆっくりと進みデュラハンには全く興味を示していないようだ。

 生体と機械をどうやって見分けているんだろう?

 やはり哺乳類であるなら体温ということなんだろうが、魚やカエル、それにワニまで襲っているからなぁ。

 獲物の識別方法はやはり気になるところだな。


 准尉に、デュラハンの小型ドローンを使って先行偵察を強襲揚陸艦に依頼して貰う。

 トンネルのほぼ中間付近の筈だ。

 このまま、途中のゾンビを蹴散らしてデュラハンのいる位置まで前進しても良さそうだな。

 だがその前に、やはり少し先まで調べておこう。


 昼食を取って皆がコーヒーを再度楽しんだようだ。

 時計を見ると13時半を回っている。

 マスケットさんが電動カートの前進、それに柵に数人の配置を告げた。

 このまま進めばあのゾンビと遭遇するだろう。数が少ないから柵のすぐ後ろを歩いている兵士達の銃撃で倒せるに違いない。

 よく見ると兵士の直ぐ後ろにサイトーさんの姿がいる。

 ゾンビを確実に倒したかを判定するのだろう。兵士の後ろだから危険性は少ない筈なんだが、緊張しているんだろうな、たまに躓いているぐらいだからね。

 これも良い経験になってくれるだろう。

「前方にゾンビ!」


「了解。およそ20体だ。距離100mで電動カートを停止する。停止したなら各自の判断で銃撃してくれ!」


「「了解!!」」


 さて、しっかりとヘッドホンを押えておこう。

 通常型ばかりのようだ。あまり苦労せずに前に進めそうだな。


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