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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-682 ゾンビがトンネルを塞いでいる


 朝食を取っていると、俺の隣にバーネスト准尉がトレイを持って腰を下ろした。

 朝食のスープを飲みながら話しかけてくる。

 ちょっと行儀が悪いと注意されそうだけど、作戦途上しかも現場での朝食だからね。時間を無駄にすることはない。


「大尉の要求した電動カートが完成したとのことで確認してきました。トンネルの横幅に合わせて柵を展開できますから、他のトンネルでも有効に使用できそうです。柵の高さは2mですが、柵の横棒を使ってポリカーボネイトの盾を取り着けることが可能です。現在は4枚を並べていました」


「投射武器対策は是非とも必要だろうね。後は稼働時間だが、この寒さでも大丈夫なんだろうか?」


「通常なら数時間使用できるとのことですが、バッテリーは寒さに弱いですからねぇ。それでも2時間は稼働できるそうですし、予備のバッテリーを搭載したそうです。緊急用ですから30分程度しか持たないと言っておりました」


 それでも十分に思える。万が一の状況になったとしても後退が出来るという事だからなぁ。


「それで地下トンネルへのアクセスは?」


「昇降台の使用が可能です。工兵部隊の調査では最大荷重が2tとのことでしたから、西の攻略部隊も電動カートを使って柵を作るそうですよ。それに電動カートを使うことで資材を搭載したカーゴを曳いていけますからね。トンネル内の酸素濃度が地上と同じという事で小型の石油ストーブも運んでいくそうです」


 荷物が多くなるのは仕方がないという事かな。まぁ、トンネル内は地上に比べれば寒くはないんだが、それでも零度を少し上回るぐらいだからなぁ。小さくとも温まれるストーブがあるなら少しは兵士達もかじかんだ手を温めることが出来るだろう。


「電動カートを使うことで、前方への投光が可能になりました。とは言ってもそれほど大きなライトを使うことが出来ませんが、昨日よりはだいぶマシになると思います」


「ついでに、リトルジャックを3個程搭載してくれないか。 北に向かうトンネルはかなり長そうだし、その終点には大規模な施設があるだろうからね」


「すでに搭載しております。今夜ここに戻れないこともあり得るという事で、食料も2日分搭載してありますし、シュラフの搭載も終えました」


 その可能性もあるだろうな。そうなるとトランシーバーが届かないことも考えられるのだが、斜路を降りた場所にブースターを設置することは決定済みだ。


「出発予定時刻は?」


「0900時ですから、まだ30分も先です。管制事務棟のエントランスに集合ですよ」


 それならもう1杯コーヒーを頂こう。

 しばらく飲めそうも無いからなぁ。


 出発予定時刻の5分前にエントランスに入るとすでに大勢の兵士が集まっていた。 

 俺に気が付いたマスケット少尉が手招きしているから、足早に彼のところに向かう。


「時間通りですね。既に先行部隊を出発させました。先行と言っても昇降台から下ろした電動カートを北の柵の位置まで移動するだけですけどね」


「そういえば、柵はそのままだね。あれを南の広場まで移動しないといけないだろうな。電動カートの曳くカーゴに余裕があればベンチを数脚運んで欲しいところだ」


「柵の前にもう1つの柵という事でしたね。了解です。これだけ人数がいるんですから直ぐに終わるでしょう」


 マスケットさんは電動カートの移動が終了後に部隊を出発させるとのことだから、ここで一服しながら待つことにした。

 バーネストが石油ストーブに乗ったポットのお湯を使ってコーヒーを作り保温容器に入れている。

 たまにコーヒーが飲めそうだな。思わず笑みが浮かんでしまう。


 一服を終えてしばらくした時だった。マスケットさんにトランシーバーの通信が入る。


「そうか! 了解だ。前任部隊から警戒任務を引き継いでくれ。私達も直ぐに向かう!!」


 どうやら電動カートの移動を終えたようだ。

 傍らに置いたマーリンを担いで腰を上げる。

 マスケットさんに断って、バーネストを連れて一足先に出掛ける。

 隠蔽階段を降りて地下の通路に出ると、今度は斜路を降りて大きなトンネルに出た。

 昨日は南だったけど、今日は北だからなぁ。どんなゾンビがいるのか先に確認しておいた方が良さそうだ。


「あれが電動カートのようですね?」


「結構車高が低いんだなぁ。車輪の直径が50cm程だからからかな?」


 小型のゴーカートのような造りだけど、結構武骨な品だ。それ自体かなりの重量がありそうだから、ゾンビが柵を押すような事態になってもそれなりに持ち堪えられそうに思える。

 電動カートの後ろに2台のカーゴがあった。資材が山積みなんだけどシートで覆われているから何を持ってきたのか直ぐに分からないんだよねぇ。近づいてみるとシートがかなり濡れている。そういえば外は吹雪だったからなぁ。このままシートを畳んだら凍ってしまいそうだ。どこかに広げて乾かさないといけないんじゃないかな。


「マスケットさん。先ずはデュラハンを先行させましょう。バーネストはキャンピングカーゴにそのフレームパックを乗せて、通信とデュラハンの映像の監視を頼む。俺は集音装置を担当するよ」


「それなら、このチャンネルに大尉のトランシーバーを合わせてください。トランシーバーを介してデュラハンの集音装置の音を聞くことができます」


 準備が良いなぁ。笑みを浮かべてバーネストに頷くと、教えられたチャンネルに合わせてヘッドホンを着ける。

 ヘッドホンを着けると耳が冷たくないからね。兵士達が慌ただしく作戦開始の準備をしているのを見ながら、マスケットさんと壁際によって眺めながらタバコの火を点ける。


 ジョルジュ中尉が俺達に手を振って、南に向かって部隊を進めていく。

 後2つ昇降台があるんだが、ジョルジュさん達の事だから午前中にケリを付けられそうだ。


 軍曹が俺達の所にやって来た敬礼をする。慌てて答礼したんだがマスケットさんのようにうまく出来ないんだよね。とって漬けた感じがするんだろうな、俺を横目で見ていたマスケットさんが苦笑いを浮かべている。


「準備完了です。何時でも行けます!」


「今、デュラハンが出掛けたところだ。どれほど進んでいるんだ?」


 マスケットさんの問い掛けに、「300m程先です!」とバーネストが応えている。

 結構進んでいるな。

 だけど、ヘッドホンからはゾンビの声があまり聞こえてこないんだよなぁ。昨日は遠くの方で声が聞こえていたんだが、移動したのだろうか?


「ゾンビの姿は見えるかな?」


「全くです。100m進むごとに蛍光ライトを発射しているんですけど……」


 蛍光ライトの淡い光でもスターライトスコープを使えばそれなりにゾンビの姿を見ることが出来る。少なくともデュラハンから100m先にはいないということになるのか……。


「前進しましょう。先ずは300m程進んで、再びデュラハンの偵察結果を確認しましょう」


「慎重に、でも確実に……、ですね! 了解です。……軍曹出発だ。ゆっくりと進もう」


 軍曹が敬礼をすると、直ぐに電動カートに向って行った。

「出発!」の号令は軍曹の声だな。直ぐにウイィィーンというモーター音を立てて、ゆっくりと電動カートが前進を始めた。電動カートは右寄りの位置を進んでいる。結構横長の柵なんだが、それほど苦も無く進んでいるようだ。

 よく見ると、左の柵に下部に車輪が付いていた。あれがあるから柵が傾かないのだろう。

 柵に取り付けたポリカーボネイトの盾の後ろに兵士が1人ずつ付いている。M4カービンにM203グレネードランチャー付きだ。彼らの後ろを歩く兵士はM14ライフルだな。この構えなら戦士型が出て来ても柵を超えることは出来ないだろう。


 300m程前進したところで、電動カートが停止する。

 直ぐにバーネストが曳いてきたキャンピングカートまで足を運び、デュラハンの写す画像を見る。


「まだ姿を現しませんね……」


「さすがに此処まで来ると、さっきよりもゾンビの声が大きく聞こえるんだが……。それでもかなり小さいことは確かだ。ところでデュラハンの制御はまだ大丈夫なんだろうね?」


「斜路を降りた場所にブースターを1つ取り付けてありますから、しばらくは大丈夫だと思います。出発地点から1km進んだところで、デュラハンに搭載したブースターを天井に取り付けるとのことでした」


 まだまだデュラハンのコントロールに問題はないということなんだろうな。

 とはいっても、あまりにも昨日と状況が異なる様に思えてならない。

 

「この右上の数字は出発地点からの移動距離の筈だ。現在200m程先行しているようだが、トンネルが緩やかなカーブをしているみたいだな。出発時は真北に進んでいたんだが、今は少し東に向かっているよ」


 それが原因で先行するデュラハンが見えないのだろう。此処から見える蛍光ライトは1本だけだ。200m先を進んでいるなら2本目が見える筈だからな。


「小型ドローンを飛ばして貰おう。デュラハンから300m先を確認して欲しい。なんか嫌な予感がするんだよね」


「予感は、経験の積み重ねで起こると聞きました。准尉、直ぐに強襲揚陸艦に依頼してくれないか」


 予感という言葉を聴いて笑い出すかと思ったんだが、マスケットさん的にはそうではないらしい。

 それ程ゾンビとの戦いの経験は無いんと思うんだけどなぁ……。案外俺の気の迷いかもしれないんだよねぇ。


「飛立ちました! ……こちらのモニターを見てください。同じ16インチですけど、用意することが出来ました」


 キャンピングカートの湧くに引っ掛ける様にしてもう1つのモニターをバーネストが用意してくれた。

 結構移動速度が速いなぁ……。そんな思いでモニターを見ていた時だった。

 何かが蠢いている!

 直ぐに小型ドローンが蛍光ライトを落としたのだが、何かに飲み込まれるように蠢く中に消えていった。

 それでもほのかな明かりでスターライトスコープが捉えたものは、おびただしい数のゾンビだった。


「ドローンを戻してくれ! ゆっくりとデュラハンを動かしてリトルジャックを近くに仕掛けよう。その後は後方まで戻した方が良さそうだな。リトルジャックを仕掛け終えたら、南に50m位置で一旦停止。以上だ!」


「いましたね……。大尉の勘は正しかったということですが……」


「出来ればこの場にいたいところだが、あの頭が問題なんだ。焼夷弾といっても良いからな。どこまで下がる必要があるのか、まだバーネストが通信中だが、それが終わったなら強襲揚陸艦に確認して欲しい」


「了解です!」


 さて……、問題はあの数とゾンビの種類だな。

 デュラハンの集音装置から聞こえる声がだんだんと大きくなっているんだが、声が重なって上手く分別出来ないんだよなぁ。

 強襲揚陸艦でゾンビの声の音声スペクトルを解析して貰おうかな。

 俺も小型の解析装置は持っているから、少しは分かるかもしれないけどやはり正確に越したことはない。


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