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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-677 さて、いよいよ本番だ


 リトルジャックの炸裂で、モニター画像が真っ白になる。

 再び画像が映し出されると、天井付近を前方に跳んでいくドローンが見えた。

 ヘッドホンを付け、ノートパソコンの音声スペクトルに注目する。

 ジャックの炸裂で少しゾンビの声が騒がしくなっている。だが統率型の声は……、これは会話か? ラッシュ時の断続する声では無いが、声に間があるんだよなぁ。トンネル内なら遠くまで声が聞こえるに違いない。

 集音装置の感度を上げると、統率型の声が途絶えると、小さく他の統率型の声が聞こえる。やはり会話だな。リトルジャックの炸裂という外乱をどこかに伝えているに違いない。

 その方向は……。トンネルの北と南の両方だ。南の声が大きいようだ。戦士型の声はやはり両方向ともに聞こえてくるし、南の方はかなり騒がしく聞こえるな。

 その他のゾンビはいるのだろうか?

 解析帯域を変えながらスペクトルを眺める……。他はいないようだな。デンバー空港と同じでゾンビの種類は3種とみて良さそうだ。


「情報収集を終えました。エメルダさんの方は何か追加することはありますか?」


「特に無いわね。デュラハンを戻して明日に備えましょう。それは工兵部隊に任せて、15分後に会議を開くわ。作戦の詳細を詰めないとね」


 15分で情報を纏めるのは、俺には無理だな。

 レディさんがいてくれたなら任せられるんだが、さすがに臨時の副官殿に任せるにもいかないし……。とりとめが無くなりそうだけど、俺がするしかないんだろうな。

 溜息を吐きながらタバコに火を点け、目を閉じて知り得た情報を確認する。

 簡潔に報告するなら問題なさそうだな。後は質疑に答えれば良いだろう。


 目を開けたら、俺に視線を向けて微笑んでいるエメルダさんに気が付いた。

 ずっと俺を見ていたんだろうか? 殺気が無いと気付かないからなぁ。


「難しい顔をしていたけど、気になることがあるのかしら?」


「そもそも小心者です。楽観するようなことはあまり無かった気がします。あの夏の日に、2階の屋根から駐車場に集まって来たゾンビを狙撃したことがありますが、どこからか屋根に上ってくる場所があるんじゃないかと気が気ではありませんでした。ゾンビを前に下状態で安全地帯はありませんよ。危険度が低い場所があるだけです」


「やはりトンネル内の掃討は難しいと?」


「見えないのが一番嫌になるところです。俺達の目をデュラハンが担ってはくれますが、万能ではありません。それに、地下指揮所までの掃討は少し人数が欲しいですね。少なくとも大きなトンネルに向かう2つの斜路には阻止具を置くと共に分隊を張り付けるべきでしょう」


 1個分隊の火力なら阻止具で足止めされたゾンビを倒せるだろう。戦士型もいるようだが数は多くなさそうだし、兵士達の半数がM14ライフル装備だからなぁ。狙撃兵並みの腕を誇ってくれるに違いない。


「片方の斜路は閉鎖しても良さそうね。最終的には水没させるつもりだけど、それには出入り口を全て明らかにする必要があるわ」


「変な場所からわんさかゾンビが溢れだしかねませんからね。溢れるとしてもその場所を明確にして対処しませんと……」


「それは、少し先になりそうだね。滑走路の南にある建屋の掃討はまだしばらく続きそうだ。それに基地の周辺にも住宅があるんだよなぁ」


「点在しているし、事前に調査した結果ではジャックに集まるゾンビが10体にも満たなかったそうよ。空港の警備に徹すれば問題無さそうね」


 問題ないというよりは、後送りなんだろうな。

 工兵部隊もいるんだけど、住宅地へと続くトンネルの水没を明日から行うだろうからなぁ。そっちの対処も考えないといけないだろう。


 深夜の会議はエメルダさんから明日の作業の確認が主になる。

 地下の指揮所は引き続きマスケット少尉の部隊で行うが、ジョルジュ中尉の部隊から1個分隊を待機させるとの事だ。

 住宅地に向かう地下通路の水没に係わるゾンビの備えは1個分隊になってしまうが、それは工兵部隊でバックアップすると指示が出る。


「いよいよ水没させるんだけど、ポンプ車は2台で足りるのかしら?」


「海水を使います。後で水洗いが面倒ですけど、この状況では仕方がありません。移送距離が長いですから、さすがに1台では足りません。途中に1台を挟んで中継を行います。それと基地の消防署に3台ほど消防車がありましたから、工兵部隊が整備してくれるとのことでした」


「上手く行けば作業時間が2倍になるってことね。それは期待しましょう。注水前に再度ガラクタを積み上げて欲しいわ。こっちに飛び出したならちょっとしたラッシュになりかねないでしょうね。住宅地の方は入り口の建物を破壊しているようだけど、案外ゾンビが這い出す隙間があるんじゃないかしら」


 爆弾で建物を破壊してはいるんだけどねぇ。地下通路の出入り口の状況までは外部から分からないんだよなぁ。とはいえゾンビが出てこれないなら良いんだけど、出て来るようなら強襲揚陸艦から攻撃して貰うとのことだ。案外出てくるのを期待して待っていそうだな。

 明日の作業を皆で再確認し終えたところで会議が終わる。

 エントランスの端にマットを引いてブランケットで体を包んで目を閉じた。

 明日も忙しくなりそうだ……。


 エントランスのざわめきで目が覚めた。

 俺が体を起こしたのを見たのだろうマスケット少尉が手招きしている。

 苦笑いを浮かべながら身を起こし、ブランケットとマットを畳みキャンピングカーゴに放り込んだ。

 とりあえず外に出ると東の峰に手を合わせた。タバコを取り出して火を点けたけど、やはり朝は冷え込むんだよなぁ。

 防寒服を着ていても、身を切るような寒風で体が縮んでしまう。

 空港だからなぁ。風邪の通りが良いんだよねぇ……。


 早々にタバコを携帯灰皿に投げ込んでエントランスに戻ると、エントランスの暖かさに思わずホッとして笑みが浮かぶ。

 マスケット少尉の所に向かうと、直ぐにコーヒーのポットを渡してくれた。

 シェラカップを取り出し、角砂糖を2個入れてコーヒーを注ぐ。たぶんかなり濃いだろうから近くにあったペットボトルの水で薄めて先ずは一口。

 それでも結構濃いんだよなぁ。これを砂糖も入れずに飲むんだから、どんな味覚をしているんだろうと考えてしまう。


「相変わらずの甘党ですね。それで今日ですが、私達の部隊が主力になります。1個分隊を2つの連絡通路に張り付けますが、地下トンネルの南北が見えないのが一番の問題です。小型ドローンを操縦できる工兵を借り受けましたから、定期的に監視させます」


「そのドローンには、集音装置は無いのかな?」


「生憎と高感度カメラだけです。スターライトスコープではありませんが、赤外線領域にシフトしているそうですから、ぼんやりとゾンビを見ることは出来るでしょう。300g程度なら荷物を運べると言っていましたから、蛍光ライトを南北にいくつか落としておこうと思っています」


「作戦が始まる前に、トンネルの南北にリトルジャック運んで貰える。ドローンで状況をみられるなら、リトルジャックを上手く使えそうだね」


 危機管理が上手く出来そうだな。

 今日は俺もマーリンを担いでいこう。至近距離ならマーリンが一番だ。

 8時になったところで、マスケットさん達と軍属の小母さん達が開いた食堂に向かう。

 先ずは腹ごしらえだ。今日の昼食はカロリーバーになりそうだけど、夕食はたっぷりと食べられるからね。


 作戦開始は9時丁度だ。

 マスケットさんが2人の軍装と最後の確認をしている。

 副官のバーネスト准尉とキャンピングカーゴに積まれた荷物を眺めているんだけど、結構色々と積みこんでいるんだよなぁ。

 その中で一番目立つのは、ポリカーボネイト製の盾だった。10枚近くあるんじゃないかな。


「連結できるようにしてあるそうです。投射武器を持たないとは言っても、ゾンビを足止めすることは可能でしょう」


「実戦運用という事だろうね。足止めはあのテーブルも使うんだろうな」


 折り畳み式のテーブルが数個傍に置いてある。邪魔になるならなんでも良いんだが、持ち運びを考えての事だろう。よく見るとベンチまで置いてあった。

 コンクリートの床に直に座るより遥かに良い。それに横倒しすれば良い足止めにもなる。案外テーブルよりも利用価値が高そうに思えるな。


 9時5分前にマスケット少尉が部隊の点呼を確認する。

 その横をデュラハンがゆっくりと隠匿された階段室に向かって動いて行った。

 誰だか知らないけど、頭の爆弾にマジックで目を描いた奴がいる。

 アニメのような大きな目だから、気が付いた連中から失笑が漏れているんだよね。

 まぁ、ユーモアを忘れない国民だという事で納得しよう。


「出発だ!」


 シバタさんと一緒に先頭になって進む。

 ライトは軍曹とバーネストが持っているから、俺はマーリンを構えながら階段を降りていく。

 今のところは、遠くで通常型ゾンビの声が聞こえるだけだ。先ずは南北に連なる斜路まで進み、斜路の監視部隊が準備を整えたところで地下指揮所までのゾンビを掃討していくことになる。

 上手く行けば半日程度で済むだろうが、北の地下施設へと続くトンネルにいつゾンビの群れが現れるか分からないからなぁ。

 ゆっくり、確実任務を遂行していこう。


 階段を降りたところでシバタさんが通路の奥を集音装置で探り始めた。

 さすがにどの部屋にゾンビがいるか間では分らないけど、少なくとも最初の部屋である警備詰め所には昨日の調査でゾンビがいないことが分かっているからね。遠くから聞こえるゾンビの声は兵員室より奥になるんだろうな。


「ゾンビの声は遠くから聞こえるだけです。全て通常型です!」


「了解。大尉殿も同じだから、次に進もう。……こちら先遣部隊、通路にゾンビは確認されず。声が遠くに聞こえるが通常型と推定。以上!」


 軍曹がトランシーバーでマスケット少尉に伝えると、階段の上から足音が聞こえて来た。

 ゾンビ掃討部隊だな。キャンピングカートやテーブルなどは、最後の部隊が運んでくるのだろう。


 アルファ部隊が全員揃ったところで、警備詰め所まで進んでいく。

 俺達の後方10mほどの位置をブラボー部隊が続く。

 詰め所前に来たところで、ドア越しに部屋の中を集音装置で探る。

 やはりいないみたいだな。軍曹に視線を向けると俺に気付いて顔を向けてきた。

 小さく頷いて扉を指差すと、軍曹が2人を扉の横に立たせてタイミングを計る。

 やおら扉を開くと、軍曹達が中に踏み入った。

 直ぐに軍曹が扉から顔を出して、異常無しと告げてくれる。


 しばらくはここが最前線の指揮所になる。

 後続の連中が階段を降りてくると、すぐにマスケット少尉が駆けこんできた。


「ここまでは異常無しです。通路にはゾンビが見えませんが、この先の部屋には間違いなくゾンビがいますから注意してください。扉から出てくるようなら狙撃するしか無さそうです。部屋の確認は斜路の措置が済んでから行います」


「了解だ。斜路の先のトンネルにデュラハンがいる。モニターで確認できるはずだ」


 トンネル内の様子を見てから始める方が無難だろうな。

 バーネストが背負っているフレームパックを下ろしてもらい、背面に付けた16インチのモニターでトンネル内を確認することにした。


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