表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
676/688

H-676 戦士がいるけど初期型だ


 どうやら管制事務棟から伸びる地下トンネルの先にあるのは、管制指揮を継続するための指揮所という事になるらしい。エメルダさんの話では1個小隊規模の兵士が少なくとも3か月は籠城できるとのことだった。


「大尉の推測では、ゾンビが多くても50体という事かしら? となると、この西に延びるトンネルが気になるところね」


「このまま地下の掃討を行うのは少し危険です。このトンネルの先を確認してから行うべきでしょう」


ジョルジュさんの言葉に、エメルダさんが頷いている。

 慎重に進めるという事だな。俺も賛成だ。

 西に向かうトンネルは20mほど離れて2つある。破壊されるリスクを考えた結果なのかもしれないな。


 一番奥にある西に向かうトンネルにデュラハンを進めるよう、エメルダさんが指示を出した。

 ゆっくりとトンネルを進んでいくデュラハンの前方に、大きなトンネルが見えてきた。たぶん北に存在する地下施設へと続くトンネルに違いない。


「あら? この先のトンネルの位置は少し深いみたいね」


「地下の指揮所のトンネルとは緩い斜路で結ばれているようですね。……確認できました。マッピングでも1.5m程深くなっています」


 デュラハンが大きなトンネルに出た。

 大きいと言っても横幅は5mは無さそうだな。天井高さは3mほどだから、電動式のカーゴを使って資材運搬が出来るようにしたのだろう。


「さすがに右は後にしましょう。左なら滑走路に向かうはずよ」

 

 基地側の出入り口を探すという事かな?

 それよりも、少しゾンビの声が騒がしく聞こえるんだよなぁ。トンネル内だから遠くに声も良く聞こえるのだろうか。


「ゾンビの声が少し大きいです。デュラハンのドローンによる先行偵察を具申します!」


「了解! そういえば小さなドローンを積んでいるのよね。ジョルジュ! トンネルの南方を調査させて頂戴」


「直ぐに連絡します!」


 トンネルの天井付近をドローンが飛んでいくのが見えた。

 40インチのモニターが2画面になり、偵察ドローンのカメラが捉えた画像が写し出される。


「この先にある左手のトンネルは、地下指揮所に続くトンネルでしょうね。この先が問題ね……」


 左手に見えたトンネルを過ぎてもしばらくは何もない。まっすぐにトンネルが伸びているんだが、300mほど先に小さな広場が見えてきた時だ。

 近づいたドローンの赤外線ライトに照らされた壁が動くのが見えた。


「ゴキブリでしょね。ちょっと寒気がしました」


「それだけじゃなさそうよ。ほら……」


 20体ほどのゾンビがゴキブリを捕まえている姿は見えた。

 ドローンのカメラでゾンビ拡大して貰うと、やはり暗闇で動けるよう進化したようだな。


「通常型ですが、目と耳が特化していますね。それに指が異様に長くなっています。ゴキブリを効果的に捕らえるために進化したようです」


 手で掴むのではなく、長く伸びた指と爪で掬い取る様にゴキブリを捉えるのだろう。

 数体のゾンビが壁に腕を伸ばして大きく腕を振るっている。掬い取ると握るような形でゴキブリを逃がさないようにしているようだな。

「危険ではないという事か?」


「危険ですよ。そもそも危険でないゾンビなんていませんからね。少なくとも接近戦は避けた方が良さそうです。俺達よりも周囲が良く見えて音に敏感、その上あの指と爪ですからね」


「了解だ。今まで通りに離れて銃撃に徹するよ」


 ドローンが広場の先に向かおうとした時だった。突然統率型の声が大きく聞こえてくる。

 ドローンに気付いたという事かな。一度戻った方が良さそうだな。

 デュラハンの背中にドローンが戻ったところで、状況を整理しよう。

 

「大尉の推測では、あの先に統率型がいるという事ね。しかもトンネル内のゾンビの数はある程度偏りがあるという事かしら?」


「そんな感じに思えますね。あの先を確認できるなら基地側の出入り口を探すためにも有効でしょう。ですがその前に、先ほどの広場にリトルジャックを仕掛けてみませんか。集まるゾンビの種類を確認したいですね。それに少しはゾンビを削減できますよ」


 リトルジャックだからなあ。あまりゾンビを倒せないだろうけど、それは数を増やせば良いことだ。

 先ずはこの先のゾンビの状況を確認しないと……。


「作動時間30分。作動停止15分後に炸裂でよろしいですか?」


「それで十分でしょう。集まる数と種類、遠くから聞こえるゾンビの声が確認できれば十分です」


 リトルジャックを仕掛けにデュラハンが動き出した。

 さて、今までに分かったことを頭の中で確認しながら、カミラさんが淹れてくれたコーヒーを楽しもう。


「設置終了! リトルジャックの作動は2200時丁度です。2230時に作動停止、2245時に炸裂します!」


「了解。この画像はデュラハンからの画像かしら?」


「そうです。炸裂5分前に、連絡トンネルに移動するそうです」


 それまでは集まってくるゾンビを映してくれるのだろう。かなりの望遠なんだろうけど、リトルジャックに設けたLEDライトのおかげで結構よく見えているな。

 ドローンのセンサー類についてはオットーさんが厳選してくれたに違いない。


「それにしても、この広場は何なんでしょうね?」


 マスケット少尉がモニターを眺めながら呟いた。

 ハイスクールの教室より少し大きいぐらいの部屋だからなぁ……。


「長いトンネルだから、資材の確認場所なのかもしれないわね。案外休憩所かもしれないわよ。ほら! ベンチがいくつか置いてあるわ」


 ベンチの傍にはインターホンもあるようだ。多目的に使える広場と言うことかな?

 軍はたまに分けの分からない物を作ることがあるからなぁ。とはいえ建設時には何らかの目的があったに違いない。

 リトルジャックの作動まで15分ほど時間がある。

 今の内に、コーヒーを準備しておこう。

 ヘッドホンを外して、紫煙を燻らせながら作動の時を待つ。

 皆がジッとモニターを見つめていると、ヘッドホンからブザーの音が聞こえてきた。

高周波を捉えて可聴領域まで遷移する仕組みなのだが、ブザーにもかなり高周波成分があるみたいだな。


「集まって来たわ!」


「形状は通常型のようですね。耳と目が進化しているのは、建屋内にいたゾンビと同じですね」


 統率型と戦士型の声が聞こえていたんだが、果たして戦士型はやってくるかな?

 20分ほど経過しても、あまりゾンビが集まらないようだ。30体にも満たないのは少し意外に感じてしまう。

 リトルジャックではあるがブザー音はジャックと遜色ない筈だ。となると、トンネル内のゾンビの数がそれほどでもないということになるのかな……。


「あれは!」


 ジョルジュ中尉が大声をあげてモニターを指差した。その先にいたのは、間違いなく戦士型だ。


「初期の戦士型ですね。足の数が4本で腕意外に触手が一対。手に持っているのはパイプのようです」


「装甲を持ったゾンビでは無いという事ね?」


「はい。でも動きが素早いですし、ゾンビは力がありますからね。出来れば狙撃で倒したいところです」


「1体とは限らないだろうな。それで、対処法は狙撃しかないのかい?」


「グレネード弾も使えますよ。それに、あの形状ならまだ急所が明確です。頭部破壊で確実に倒せます。移動力は高いんですが、まだ通常型の短所を持っています。ちょっとした邪魔物を間に置けば一気に近付いてくることはありません」


 兵員室のベンチを2個運んで転がせば十分だろう。その後ろからM14で狙撃すれば倒せるはずだ。

 とはいえ、リトルジャックの炸裂後には、倒れたゾンビの頭部に銃弾を撃ち込んでおいた方が良さそうだな。

 倒したと思って、噛みつかれでもしたら面倒だ。


「今夜トンネル内の掃討を始めようなんて考えていませんよね?」


「そうね。炸裂後の状況を確認して明日の備えることにしましょう。明日は地下指揮所まで掃討したいわ。この広場のあるトンネルは早く手も明後日で良いでしょう」


 焦らず確実に……、と言うことだな。

 それなら、モニターを眺めながら準備品を再確認しておこう。


 2230時、タイマーがしっかりと仕事をしてくれたようだ。ブザーが止まったところでヘッドホンを付け、ノートパソコンの画面に映るゾンビの声のスペクトルを確認する。デュラハンが捉えた映像は皆に任せよう。


「やはり30体に満たないわね。戦士型が2体いるけど、さすがに統率型がいるかどうかは区別できないわ」


「統率型は広場にはいないようですね。前と同じように遠くから聞こえてきます。30体の中に戦士型が2体ですから、6%強という事になります。100体では6体ですよ」


 少し数が多いように思えるんだが、初期型の戦士だからなぁ。

 上手く処理してくれたなら兵士達が自信を持ってくれるだろう。


「それを少ないと見るか、多いと見るか……。私は多いと見るべきだと思うわ。でも対処の方法は、サイカ大尉のやり方ならそれほど難しくは無さそうね」


「邪魔物を間に置いて、狙撃でしたね。キャンピングカートも役立つでしょうし、阻止具の運搬も出来ます。数が多ければグレネードランチャー……。まだ尻尾を巻くには早そうですよ」


 エメルダさん達が、モニターを食い入るように眺めながら話している。

 情報を取り終えたところでヘッドホンを外し、リトルジャックの炸裂を待つことにした。

 炸裂後に再度小型ドローンを飛ばしてもらい、トンネルの南北方向のゾンビの声を聞けば今日の仕事が終わりそうだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ