表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
673/688

H-673 西に向かって建物内を掃討しよう


 コーヒーの良い香りで目が覚めた。

 壁の一角でブランケットに包まって寝ていたからなぁ。体を起こすとあちこちが痛いんだよね。

 ブランケットを丸めて、キャンピングカートに放りこむと、ビルの外に出て朝日に手を合わせ軽く頭を下げる。

 そんな俺の姿を警備兵が首を傾げて見てるんだよね。

 朝一番に東の峰々済む神に、作戦が上手く行くように祈る俺の姿は彼等には奇異な姿に見えるんだろうな。

 体が冷えない内にビルに戻ると、ジョルジュさんが俺に向けてコーヒーカップを見せてくれた。

 笑みを浮かべて近づくと、挨拶が終わらない内にコーヒーカップを渡してくれた。


「話には聞いていたが、本当に祈るんだな。窓から見ていたよ」


「どんな場所でも神に祈ることは出来ますからね。どんな場所でも神は俺達を見ていますから」


「耳痛い話だなぁ。最後に教会に行ったのは何時だったか忘れたよ」


「中尉が教会に行く姿が想像できませんね。バーに行く姿なら容易に想像できるんですが」


 マスケット少尉が、空いている席に座りながらジョルジュさんの副官からコーヒーカップを受け取っている。


「マスケットだって、そうなんじゃないか? まぁ、あの時のゾンビの群れを見たなら地獄があることだけは実感したんだがなぁ」


 あの夏の日のゾンビの群れを前に、軍は敗退に次ぐ敗退だったらしいからなぁ。

 その場にいたなら悪夢でしかないだろう。

 

「あの地獄の中をキャンプ地から自宅までホッケースティックでゾンビを倒しながら帰ったと言うんだから、驚くよりも呆れるよ。だけど、その逸話の持ち主が個々にいるんだからねぇ。アメリカはだいぶ狭くなった感じがするな」


「そうでもないですよ。俺にとってのアメリカはどんどん大きく見えていくんです。現在進行中のノーススター作戦が終了したとしても、要衝を線で結んだだけですからね。5大湖周辺や中央大地、フロリダやテキサスの西は手が届きません」


「ゆっくりと進めて行きたいところだが、そうもいかないからなぁ。方面軍の編成が行われるに違いないが、戦力が足りないんだよねぇ。末端の士官としては命令に従うしかないのが残念だ」


 戦力がかつての2割程度らしいからなぁ。

 少しずつ志願兵が増えているとは聞いているけど、すぐに前線で戦えるとも思えない。

 戦力の底上げについて一番頭を悩ませているのは本部長達に違いない。


「俺達に出来ることを、しっかりとやるしかありませんね。難しい話は上の連中に任せれば十分です。とは言っても……、いろいろと使われている気がするんですよねぇ」


 俺の愚痴に2人が笑い声を上げる。

 やはり便利に使われていると思っていたんだろうな。


「聞いた話では妻が2人もいるっていうじゃないか。その妬みもあるんじゃないのかい? マスケットもそろそろ身を固める歳だと思うんだがなぁ」


「その言葉をそのままお返ししますよ。若い連中の中には新婚もいるんですよねぇ。無事に伴侶の元に返してあげないといけません。サイカ大尉の部隊は歴戦に次ぐ歴戦ですが未だに犠牲者を出していないと聞きました。秘訣があるなら教えて欲しいところです」


「強いて言うなら、俺達の部隊のモットーが『命を大事に!』という事ですかねぇ。ゾンビと相対する場合には相手の攻撃範囲を常に念頭に置いて行動するようにしています」


 相手の攻撃範囲を明確にイメージ出来れば、自分の攻撃範囲をそれよりも少し大きくするだけで相手を刈り取れる。

 ゾンビが投射武器を持ち始めたから、案外面倒なイメージトレーニングになってしまっているんだよなぁ。


「ゾンビの攻撃範囲ですか……。あまり考えたことがありませんでしたが、これは考える必要がありますね」


 2人が顔を見合わせながら頷いている。

 そんな雑談をしている俺達の周りがだんだんと賑やかになって来た。

 朝食の準備が出来たのかな?

 レーションだろうけど、今夜は軍属の小母さん達が美味しい夕食を作ってくれるに違いない。


 朝食を頂いていると、バーネスト准尉が中佐達がもうすぐやってくると教えてくれた。

 中佐達は一足先にヘリで移動して来るとのことだ。

 橋頭保が出来たからね。現場指揮所を早めに作り基地の奪回を図りたいのだろう。


「現場指揮所は管制事務所に作るはずだ。案内を頼むよ。事務所に中佐が入ったら連絡してくれないか? それまではここにいるからね」


「了解です。監察官にも伝えておきます」


 准尉の言葉に俺達が頷く。

 別に伝えなくとも良いのだろうが、伝えてあげれば印象も良くなりそうだ。


「今日の作業は、中佐殿に簡単な報告をしてからで良いでしょう。それまでは斜路の状況を見守ることにしましょう。だいぶ奥で騒いでいるようです」


「ガラクタを揺すっているようですが、姿は見えませんでした。見張り場所もかなり堅固にしていましたね」


 あの後で更に強化したようだな。

 万が一にもゾンビが溢れるようなら、手榴弾をドンドン投げることになるだろうからなぁ。

 しっかりした造りになっているなら安心して投げられるし、ゾンビが簡単に乗り越えることも出来ないだろう。


 ベノムを降りたエメルダさんは管制事務棟に向かう前に、俺達が待機しているビルに足を運んでくれた。

 ジョルジュ中尉が、斜路の奥を覗いているエメルダさんに状況を説明する。

 うんうんと何度も頷いているから、斜路に積み上げたガラクタの奥がガタガタと揺すられているのを眺めていてもしっかりと耳に入っているんだろう。


「ここまでは順調ね。今度はこの斜路を水没させることになるんだけど、それはもうすぐやってくる部隊に任せられそうね。中尉の方は滑走路の南に並ぶ建物の掃除をしっかりと頼んだわよ。大尉も同行してくれるなら心強いわね。それで……、問題はこの住宅という事かしら?」


「基地の外ですから我々の作戦の対象外ではあるのですが……」


「島の掃除という事になるなら、確かに対象外ではあるんだけど……。私達の部隊を使うのは考えてしまうわね。それに点在しているというのも厄介だわ。そして、このマリーナについては私も大尉の意見に同意するわ。地下施設が大規模であれば資材の搬入にトラックではなく船を使うことになるでしょうねぇ。とはいえ、現状で大きく作戦の修正を行いたくは無いわね。強いて言うなら、マリーナ方向から渡河施設へのアクセスが可能かどうかを早期に判断したいところだけど」


 地下施設の状況をどのように確認するかという事かな。

 現状の作戦では、基地内の地下トンネルから地下施設へドローンを使って状況調査を行うことになるのだが、マリーナ側に地下施設への出入り口があるなら、それを利用すれば調査を容易に行うことも可能だろう。

 もっとも、マリーナ側にある出入り口が簡単に見つけられて、しかも施錠されていないという事で初めて可能になる話になる。


「場合によっては……、という選択肢を持つことが出来たという事で満足しましょう。先ずは建物内のゾンビを掃討することが大事ですからね」


「そうね。それで良いんじゃないかしら。私は管制事務棟に現場指揮所を設けるわ。監察官達も貴方達のヘルメットカメラで状況を見守ることが可能でしょうから、私達のところに席を作ることにするわ」


 エメルダさんの言葉に、俺達が顔を見合わせて笑みを浮かべる。

 やはり後ろから見られるというのはねぇ……。変なプレッシャーを感じてしまうんだよなぁ。


「それじゃぁ、始めようか。……ヤン! こっちに来てくれ!!」


 エントランスの壁際で俺達の容姿を眺めていた兵士の1人が足早にやって来た。

 ジョルジュ中尉に敬礼をした兵士の襟章を見ると、軍曹だから俺と同行してくれる分隊長という事なんだろう。


「このビルの西から初めてくれ。大尉が同行してくれるから、分隊の日本人の実戦訓練になるはずだ」


「了解です。シバタ上等兵の耳は確かですよ。でも大尉が一緒であるなら心強い限りです。それでは大尉殿、出掛けましょう!」


 エメルダさんに敬礼をして、軍曹の後に続く。

 エントランスの扉近くに10人ほどが集まっているから、軍曹が呼び出されたのを見て直ぐに出発準備をしていたんだろうな。


「女性が2人いるんだ!」


「シバタは女性兵士です。護衛に伍長を付けましたが、伍長も女性兵士ですよ。とはいえ豪傑なんですよねぇ。シバタにちょっかいを出した不届き者の腕を折ったことがありました」


 シグさんみたいな人なんだろうな。俺も気を付けておこう。

 部下を前に軍曹が足を止める。

 俺を簡単に紹介してくれたんだが、例の逸話が一人歩きしているみたいだから失望した表情をする兵士もいるようだ。

 

「大尉殿が同行という事ですが、その装備で問題は無いんですか?」


「屋外とは異なるからね。どちらかと言うと室内戦闘に特化した兵装なんだ。それに厄介な相手が出て来たなら、副官のバーネストが対応してくれるだろう」


 隣の准尉が、真面目そうな表情でうんうんと頷いている。

 背中にフレームパックを背負った准尉の方が、どう見ても俺より頼りになりそうだからなぁ。


「大尉の逸話は皆も知っているだろう。噂は1人歩きして大きくなっているようだが、大尉の戦闘映像を見る限り頼りになる存在であることは間違いない。海兵隊のフォース・リーコンに所属しているぐらいだ。白兵戦能力は我等を凌ぐぞ。……それでは、西に向かって建物内の掃除を始める。状況確認はシバタ達に私と大尉が同行する。突入はアルファ、バックアップはブラボーだ。准尉はブラボーチームと行動を共にしてくれ」


 すでに分隊内の役割分担は終わっていたのだろう。軍曹の言葉に小さく頷くと、外に出ていく。

 その後に続いて俺達も外に出たんだが、今朝は結構冷えているなぁ。マイナス5度近くあるんじゃないか?


「先ずは、隣の建家ですね。資材庫のように見えます」


 長方形の平屋だが、長手方向に60mほどありそうだな。短い方でも30mはありそうだ。小さな格納庫にも見えるんだが、滑走路に面したシャッターの大きさは2つ合わせても10mほどのものが2面あるだけだ。

 出入り口は、東西と南側に1か所ずつあるが片開きの鉄製のドアだから人間専用と言うことなんだろう。


「ロックされていると面倒ですね」


「その時には、プラスチック爆弾を使います。ロックの破壊だけなら小さく手済みますからね。10面は破壊できますよ」


 高熱で焼き切るタイプの爆弾らしい。音は大きくないと言っているんだけど、それでも手榴弾位の音は出るんじゃないかな。

 軍曹が分隊の足を止めた。

 先ずは状況確認だな。

 俺達4人が先行して、東の扉に近付く。

 すでに集音装置のスイッチは入っているから、倉庫内からのゾンビの声が聞こえている。

 ドア近くに集まっているような厄介なんだが……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
現物を見たことはありませんけどプラスチック爆弾はなんだか粘土みたいな物らしいです。そしてヒモ状にして捏ねれば捏ねるほど効果があるんだとか。 ただし信管無しでは焚き火に放り込んでも燃えるだけなんだとか。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ