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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-667 もう1人の日本人は、ホイストで降下させるようだ


 2月18日0930時。俺達は2機のC-130ハーキュリーでドーバー空港を飛び立った。プロペラ機だからなぁ。大陸横断を行うことが出来ないから、デンバー空港で燃料補給を行ない、バンクーバー飛行場に到着したのは7時間後の17時近い時刻だった。直ぐにオスプレイで強襲揚陸艦アメリカに向かう。

 作戦開始は明後日の20日だから、バンクーバー冬景色を眺めて過ごすことになる。

 揚陸部隊の乗船区画に移動して、割り当てられた士官用個室で装備を下ろす。身軽になったところで夕食が始まるまでの時間を士官室の窓際の席でのんびりとコーヒーを楽しむことにした。

 数組あるテーブルで尉官達がカードゲームをしている。艦内温度は20度前後だから、皆軽装だ。窓の外は真白な冬景色だから、作戦当日はかなり寒そうだな……。


 夕食を終えると、士官室でワインを1杯。

 火照った体をシャワーで冷やし、ベッドに入る。

 明日は副官達が忙しそうだな。

 

 俺に付けてくれた副官の、バーネスト准尉にはアルミフレームのバックパックを背負って貰うことにした。

 少し出力の大きなトランシーバーと、途中に置くブースターを搭載し、床に降ろしても立てることが出来るから16インチのモニターを取り付けてある。重量は15kg越えてしまったけど、苦も無く担いでいるんだよなぁ。

 そんな姿を見ると、俺の副官というより現場指揮所の通信兵に見えてしまう。。

 

 翌日。8時に起床して甲板に出ると、甲板を使ってランニングをしている兵士達がいた。

 彼らの邪魔にならないよう甲板の端に立つと、前方に見えてきた島に向って両手を合わせて軽く頭を下げる。

 それにしても、かなり寒いな。

 ランニングしている兵士達は上着を着ていないんだが、風邪をひかなければ良いんだけどねぇ。早々に艦内に入ると食堂に向かう。


 俺達は揚陸要員の区画に居住しているから、強襲揚陸艦の兵士達と食堂が別になる。

 俺達は肉体労働者という事なんだろうな。朝食からして盛り良いんだよね。

 少しで良いと言ったんだけど、「そんなことでは良い働きが出来ないよ!」と小母さんに言われてしまったからなぁ。

 溢れんばかりの肉料理を朝から食べることになるとは思わなかった……。


 適当な席を見つけて食事を始めると、「おはよう!」と俺に声を掛けテーブル越しの席に着いたのはジョルジュ中尉だった。

 とりあえず挨拶を交わしたところで食事を始めたんだけど、俺に声を掛けてきたのは明日の作戦について指示を受けたかららしい。


「という事は、俺と一緒に先行するという事ですか!」


「そうなんだ。さすがに海兵隊が何時も先行するというのもねぇ。我々陸軍だって、それなりの技量はあるよ。今回はラムダ軍曹達5人も一緒だ。彼のところにいるサイト―上等兵の能力を確認する意味もある」


 サイト―上等兵は陸軍に入隊してまだ1年にも満たないらしい。子供の頃にアメリカに帰化したらしいから入隊問題は無かったようだが、元日本人という事で例の訓練を受けてゾンビの声をある程度確認できるまでになったそうだ。


「とはいえ、実戦に出るのは初めてなんだ。訓練では護衛兵士に囲まれてゾンビの声を遠くに聞いたことはあるようだが、ゾンビに近接するとなるとどこまで冷静でいられるか分からないからなぁ」


「自分達の耳となる存在を育てるのは大事ですよ。集音装置や音声スペクトラムアナライザーの開発も進んでいるようですけど、ゾンビの進化に合わせるとなると後追いの形になります。それに現場であまり機械に頼りたくはありませんからね」


 俺の話に笑みを浮かべているんだよなぁ。

 俺と同じで現実主義という事なんだろう。開発できればありがたいけど、それを待つことなく実行に移せる人物という事かな。


「耳は良いと思うよ。今年22歳だけど、友人達と一緒にミュージシャンを目指していたらしいからね」


「なら期待できそうです。それで兵士としての技量は?」


「新兵より少しマシというところだね。陸軍の新兵訓練を半年ほどさせたようだ。軍曹が古参を隣に付けているよ」


「それなら彼も安心でしょう」


「彼じゃないぞ。彼女だ。出来れば後方に置いておきたいところだけど、こんな状況だからなぁ」


 女性だったんだ! 

 軍内部の男女差別はあまり無いからなぁ。


「午後に簡単なブリーフィングをしたい。第2会議室に1300時で良いかな」


「了解!」と答え、どうにか食べ終えた朝食のトレイを戻しに向かう。

 コーヒーカップを2個持って席に戻り、中尉の前にカップを1つ置いた。


「ところで、先ほどサイトーを新兵より少しマシと言っていましたが、彼女はヘリボーンをしたことがあるんですか?」


「ヘリボーンの訓練は、その後の選抜で行われるんだ。機甲部隊にヘリボーンは必要ないだろう?」


 そう言う事か。配属された部隊の特殊性に応じて更に訓練が加わるという事だな。

 だとすると、彼女はヘリからどうやって降りるんだ?


「彼女はホイストを使って下ろす。午前中にそれを何度か練習させるよ」


 ホイストもあるんだが、さすがに兵士を一気に下ろすことなど出来ないからなぁ。

 1人なら、それでも十分かもしれない。

 だけど将来的にはヘリボーンの訓練は必要だろうな。


「俺の後に、直ぐ下ろしてください。出来れば同時でお願いしたいところですが、古参兵氏が同行するのなら、俺の後に続くのが古参兵士になるでしょうからね」


 サイト―の降下に間に合わせるという事だね。了解だ。それ程先に下ろすという事は……、サイカ大尉の行う先行調査を彼女に教えてくれるという事で良いのかな?」


「教えると言うと語弊がありますが、最初に降り立って行う調査を実践させたいですね。出来ればその調査結果を最初の状況報告としたいところです」


「その場で補足する教導者という立場を取るという事かい? かなりの大任になりそうだけど……、いずれそうなるという事なら、隣に頼れる人物がいた方が良いだろうな。是非ともお願いするよ。中佐には私からその話をしておくけど……」


「そうですね。今回の作戦は部隊の実戦訓練でもありますから、エメルダさんも頷いてくれると思います。ですが首を振るようなら、俺が主でサイト―を従として訓練をすることにします」


 サイト―さんがどんな人物か分からないけど、兵士に志願するぐらいなら結構積極的な人物に違いない。その場での判断を自信をもって即答できるなら良いんだけどなぁ。


 朝食が済むと、俺達は飛行甲板下の格納庫に向かった。

 本来ならF-35Bがならんでいるんだろうけど、今は端の方にヘリが数機置かれているだけだ。少し天井は低いけど広さだけなら体育館を超えているんだよなぁ。

 それを利用して、クロスボウの訓練をしているようだ。さすがに俺と同じような弓を使う兵士はいないようだな。クロスボウよりも連射が効くから何人かチャレンジして欲しいところだ。


「ジョルジュ中尉! どうです。だいぶ当たる様になってきましたよ」


 訓練を見ていた軍曹が俺達に気が付いたんだろう。嬉しそうな顔をして教えてくれた。

 2人が30m程離れた同じ的を目掛けてボルトを放つ。

 バシン! と良い音がするのは後ろのベニヤ板が原因だろう。直径30cmほどの的に2本とも突き立っているからゾンビの頭部を粉砕できるに違いない。

 たまに1本が外れるけど、それでももう1本は的に命中しているから十分な訓練サイカと言えるんじゃないかな。


「あれほど当たるのか?」


「まぁ、スコープ付きですし、距離が30mですからねぇ。私でも7割は当てられますよ。中尉殿も練習してはどうですか? しっかりと人数分のクロスボウを受け取っていますからね」


「大尉は弓だったね。それなら俺もそうするかな。これでもハイスクール時代は地区大会に出たんだぞ」


 そんな少尉の話に皆が、ホォ……と感心した声を出している。ここはしっかりと見せて貰おう。軍曹が席を立って、カートの中からアーッチェリーの弓と矢を取って来てくれた。

 タブという弦を弾く指を保護する道具を少尉が受取ながら、弦の張り具合を確認している。


「こっちが大尉用の弓なんですけど……。これで良いんですか? どう考えても弓が真直ぐに飛ばない気がするんですが」


 持ち手の上下で弓の長さが異なるからなぁ。まぁ、始めて見たら誰もがそう言うんだよねぇ。


「これで良いんだ。何せ弓の大きさが俺の身長を超えているだろう。中間部分を持ったら邪魔になりそうだよ」


「そんなもんですかねぇ……」


 軍曹の呆れた声が聞こえてきたけど、まぁ、結果を見れば分かるだろう。

 少尉と一緒に的を狙って矢を放つ。

 ハイスクールの経験はしっかりと残っているようだ。12射して6本が的を捉えている。

 少尉の援護も期待出来そうだな。

 さて、今度は俺の番だな……。


「全く、全ての矢を的に当てるんだから、感心してしまうよ」


「散々野ウサギ狩りをしてきましたから、それが生かされているんでしょう。この帽子もそんな成果の1つですからね」


 寒いから、アライグマの帽子を被っているんだけど、結構この中だと目立つんだよなぁ。

 まぁ俺の戦闘スタイルには合っているんだけど、実戦ではどうしようかな?

 ヘルメットを被ることになりそうだけど、できればこの帽子で作戦に臨みたいところだ。


 軍曹の隣のベンチに腰を下ろして、再開したクロスボウの訓練を眺める。

 女性兵士が俺達にコーヒーカップを渡してくれたから、ありがたく礼を言って飲んでみたんだが……。途端に首が横に向くほどの苦さだ。

 腰のバッグから角砂糖を取り出して2個放り込む。しばらくすれば溶けるだろう。

 こんな苦い代物を、おいしそうに中尉達が飲んでいるんだよなぁ。

 俺にはとても出来ないことだ。


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