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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-665 訓練の仕上げと課題の対応


 オットーさんも一緒なのかなと思っていたが、どうやら兵站部門に向かうらしい。

 別れ際にドローンの最終仕様書を渡してくれたから、後でじっくり読ませて貰おう。

 互いに手を振って、エントランスを離れる。

 回廊を進んで、『S・F』と刻まれたステンレスの銘板が掲げられた部屋に入った。


 大きなテーブルには既に先客がいた。

 テーブル傍に進むと、エメルダ中佐に向って敬礼をする。


「長い休暇を頂きありがとうございました」


 俺の言葉に笑みを浮かべながら答礼を返してくれた。


「もっとゆっくりさせてあげたかったんだけど……。残り1カ月程で総仕上げをしないといけないわ。大尉の目に適うまでにしたいわね」


 軽く頭を下げて応えたところで、ネームの付いた席に着く。

 テーブルに着いているのは、エメルダ中佐と突入部隊を指揮するジョルジュ中尉にマスケット少尉。後方部隊のデビット中尉にエリソン少尉とエドソン少尉だ。それぞれ副官を伴っているから、結構な人数になる。


「サイカ大尉は副官無しなんだけど、マリアン少将が部隊の白兵戦指導があるから副官を派遣するのは無理だと断られたわ。さすがに大尉に副官がいないというのも考えてしまうから、バーネスト准尉を使って頂戴」


 部屋の隅にいた士官が、俺の傍に歩いてくると俺に向って綺麗に敬礼をする。


「バーネスト准尉です。よろしくご指導ください」


「サイカ大尉だ。こちらこそよろしく頼むよ」


 席を立って、彼に答礼をして言葉を交わす。

 俺が席に戻ると、バーネスト准尉が隣に腰を下ろしてバッグからメモを取り出した。

 俺はまともな士官ではないんだけど、バーネスト准尉はしっかりと士官教育を受けたみたいだな。


「それでは、訓練再開についてもう1度状況を整理しましょう」


 エメルダさんの言葉に、カミラ少尉が大型スクリーンを使ってこれまでの訓練状況とその評価の報告を始めた。

 長く続きそうだから皆がコーヒーやタバコを楽しみながら聞いているけど、スクリーンに注がれる目は真剣そのものだ。

 いよいよ仕上げだからなぁ。不足している訓練部分の底上げをしっかりとしないといけないと皆が思っているのだろう。


「……以上です。ここまでの訓練で、いくつかの課題が出てきました。1つは情報の可視化をどこまで行うか。2つ目は倉庫の中にある資材の中身の確認手段がない事。3つ目は地下空間でのゾンビラッシュをどこまで想定して対策を行うのか。4つめは地上でのゾンビラッシュ対策です」


「簡単な物から考えましょう。先ずは1つ目ね」


 エメルダさんの言葉に、カミラさんが小さく頷く。

 画像が切り替わり、情報の可視化に係わる課題の詳細説明が始まる。


 どうやらドローンの画像を、現場で確認する手段がないということになるようだ。

 ドローンの操縦は地上の指揮車に隣接したトラックで行われるから、指揮所のモニターでは確認できるけど、地下でゾンビを掃討する部隊に対しては指揮所からトランシーバーで要点を告げるだけになる。『百聞は一見にしかず』という言葉もあるぐらいだからなぁ。

 とはいってもモニターを担いでいくのでは荷物になってしまうだろう。それに電源だって必要だろうから嵩張ることは間違いないな。


「その打開策が本日届いたそうです。……これがその画像になるのですが、16インチのタブレットと専用の外部電源。タブレットは画像投影に特化してあるそうですから、他の使い方は出来ません。重量は外部電源を含めて2.5kgに収まっています」


 画像の拡大は出来るそうだ。画像を保管することが出来ないから、他の画像を見る場合は指揮所で行うことになるらしい。ちょっと画像が小さいけれど、数人で確認することが出来るなら十分だろう。

 他の士官達も頷いているから、後は使ってみてダメ出しだけで済むんじゃないかな。


「とは言っても荷物になるのよねぇ。バーネスト准尉に担いで貰おうかしら」


 思わず苦笑いが浮かんでしまった。ベーネスト准尉の本来の仕事がこれなのかもしれないな。ちらりと隣を見ると海兵隊ではないけれど立派な体格をしているからね。


「次は部屋の中身の確認ね? これも何かアイデアが出たの」


「ファイバースコープでの目視確認が提案されました。その手段ですが……」


 オットーさんの周りにはアイデアマンが揃っているなぁ。

 壁もしくは扉に直径1cmほどの穴を開けて、そこからファイバースコープを中に入れて確認するとのことだ。1千万画素で長さが10m。しかも照明まである。


「ドリルでの穴あけということになるんでしょうが、それでゾンビが集まることは?」


「ゾンビは震動に敏感ですから、反応はあるでしょうね。出来る限り振動や音を抑える方法を考えないといけません。それに集まってくるゾンビの方向はあらかじめ想定できるでしょうから、事前準備についても検討する必要があります」


 掘削か所に水や油を注ぎながらになるんだろうな。それを運ぶ方法も考えないといけないし、ファイバースコープだって軽いとも思えない。それに資材の中身がその場で確認できるのは少ないんじゃないかな。略称やバーコードだってあり得るだろう。現場で確認できた画像を指揮所に送って、再確認する手段がほしいな。


 疑問や要望が次々と出てくる。

 その内容を書きとっているのはジョルズ中尉の副官だ。今回の書記を務めているみたいだな。


 昼食を挟んで、午後も会議が続く。

 どうにか装備品の要望書が纏まったんだが、地上でのゾンビラッシュが起こる予兆を捉える方法は汎用ドローンにて統率型ゾンビの発する間欠的な声と、それに呼応するゾンビの集合を確認する手段しかないんだよね。


「もう1人日本人を強請るしか無さそうね。音声スペクトルでも分かるということだけど、先程の話では、私達には判断しきれないわ」


「ラッシュが始まる1時間前にその予兆を捉えることが理想ではありますが、ゾンビの移動速度はラッシュ時でも時速4kmに達しません。それまでに地下施設の掃討部隊を回収できれば問題は無いのですが、場合によってはラッシュを早めて意図的な方向にゾンビを動かすということも可能です。その方法は……」


 ノイズマシンとジャックを使ってラッシュを起こし、意図的な方向に移動する方法を簡単に説明する。


「とはいえ問題があることも確かです。ノイズマシンの重量が100kgを超えていますから汎用ドローンでの移動が出来ないんです。ノイズマシンの小型化もしくは汎用ドローンよりも大きな搭載能力があるドローンが必要になるでしょう」


「ヘリを使ってノイズマシンを設置したのは、そういう理由があったのね。さすがに直ぐに作れるという事にはならないでしょうけど、ピュージェット湾に停泊する強襲揚陸艦に依頼すれば問題無さそうね。ノイズマシンは何台必要かしら?」


「オークハーバー市のどこかにゾンビが集まるでしょうから、州道20号線沿いに南に向かって仕掛けていくことになります。設置するノイズマシンの間隔を1kmにすれば最低でも3台は欲しいですね。5台用意して頂けるなら、俺達が作戦を開始する前にゾンビラッシュを起こしてオークハーバー市のゾンビを半減できると考えます」


 俺の言葉に、エメルダさんが笑みを浮かべているんだよなぁ。

 ヘリを使ってノイズマシンを設置するだけだから、事前に海軍もしくは海兵隊に依頼するつもりなのかな?

 それならと、ある程度ゾンビがオークハーバー市から南下したところを砲爆撃で一気に始末する事も可能だと話しをすると、ついに笑い声を上げているんだよなぁ。


「海軍に頼んでみるわ。ゾンビを一気に始末出来るなら喜んで協力してくれるわよ」


 あの夏に日に肉親を失っていない兵士はいないんじゃないかな?

 人口の95%程を失っているからなぁ。その恨みを少しでも解消できる機会があるなら、喜んで手伝ってくれるということなんだろう。


「あらかじめラッシュを起こすことで、ゾンビの生息数の推定も可能です。でも、ラッシュを起こす前にジャックを仕掛けて市内のゾンビの密度を確認しておきたいですね」


「意外と慎重なのね。カミラ、そのパターンはあったかしら?」


「ジョルジュ中尉の提案で、事前準備の1つとして計画が作成されています。必要なジャックもその計画書に従って準備済です」


 用意したジャックの数は10個ということだから、統率狩りやノイズマシンの補器としても使えそうだな。

 作戦の事前行動をしっかりとシミュレーションしているようだから現場で困ることは無さそうだ。ジョルジュ中尉は石橋を叩く士官に違いない。


「さて、それでは作戦決行日までの期間は訓練に励むことになりそうね」


 訓練を繰り返し行うことで建屋内や地下室、地下トレンチの掃討もだいぶうまくこなせるようになってきた。

 出来れば近くの建物で実際のゾンビを相手に訓練したいところなんだけどなぁ。

 統合作戦本部の考は小規模な実戦訓練を行うより実益を兼ねて、ゾンビがたむろしている基地の奪回だからねぇ。

 さすがに俺達が作戦を実行する前に市街地と基地の居住区を砲爆撃してくれるだろうけど、それでどれだけゾンビを駆逐出来たのかは、現地に行ってジャックを仕掛けてみないと判断できないからなぁ。


散会になったのは、16時過ぎだった。

生物学研究所に向って歩いていると、俺の横にハンヴィーが止まり後部座席の窓から顔を出したのはマスケット少尉だ。


「乗って行きませんか? 宿舎に戻るんでしょうけど、その前に夕食を取りましょう」


「ありがとうございます」


 俺の返事で後部座席の扉が開いた。急いでの離婚むと、マスケット少尉の隣の腰を下ろす。

 マスケット少尉の副官は、ライル小父さんのような体格の持ち主だ。軍曹だから海兵隊で一番の働き手に違いない。


「宿舎の食事は悪くはないですよ。さすがに牛肉はめったに出ませんが、鹿肉には困っていないようですね」


「始めて鹿狩りに行った時の銃の腕が未だに尾を引いているんで、皆が誘ってくれないんですよ。同じ部隊の連中がクリスマス前に2頭し止めましたから、晩餐は豪華でした」


「確か、山小屋で休暇を過ごしていたと聞きましたが?」

 

 乞われるままに、山小屋の暮らしを話すことになった。

 どうやら、ずっと都会で暮らしていたらしい。訓練で色々な場所に出掛けたらしいけど簡易宿舎での寝泊まりだったようだからなぁ。

 学生時代もキャンプはしなかったらしいから、山小屋暮らしに憧れているのかもしれないな。


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