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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-664 クリスマス休暇が終わった


 キャシーお婆さんからソバ粉を頂いて、ティーピーの中で蕎麦ガキを作って食べていると、すぐにエディが興味を示して何を作っているのかと問いかけてきた。


「『蕎麦ガキ』という名の料理なんだ。食べてみるか? こうやって、少し削り取ってから、この醤油に付けて食べるんだ」


 直ぐにポーチからフォークを取り出すと、言われるままに口に入れた。

 不思議な表情をしながらも、どうにか飲みこんだようだ。コーヒーを飲んでもまだ首を傾げている。


「初めての食感だ。しょっぱくて辛いのは俺好みではあるんだけどね」


「それなら、俺も……」


 エディの様子をうかがっていたニックが俺の皿にフォークを伸ばす。

 エディと同じように首を傾げているんだよなぁ。


「似たものをどこかで食べた記憶はあるんだが……。味が全く違うんだよなぁ。ところで、これって栄養があるのか?」


「パンよりはあるんじゃないかな。お湯さえあれば簡単に作れるから重宝するとお祖父さんが教えてくれたんだ」


 さすがに蕎麦ガキだけで一食とすることは出来ないだろうけど、小腹が空いた時には丁度良いんだよね。

 蕎麦粉はタッパーに入れてあるから、部隊に戻っても食べられそうだ。


「それで狩りには、もう出掛けないのか?」


「明後日には出発だろう。さすがに今期はこれで終わりだね。たぶん夏前後には陸上艦隊に戻れると思うよ」


「全くあちこちに出向くんだからご苦労としか言えないな。だけど無事に帰って来いよ。ニックだけでは人生がつまらないものになりそうだ」


 昔からの友人みたいに接してくれるんだよなぁ。

 戻ってくるとも! と言いながら隣のニックの肩を叩く。

 そんな俺達のところに現れたのはライルお爺さんだった。俺にフォルスターに入ったP-38を手渡すと、ティーピーの焚火越しに腰を下ろす。

 ニックがマグカップに入ったコーヒーを手渡すと、カップを手元に置いて焚火の薪を取り上げパイプに火を点けている。


「銃弾は全て強装弾に替えておいたぞ。後で1ケース予備を渡しておく。あの戦士型を見たからなあ。さすがにパラベラムでは荷が重いじゃろう。2割程強化されているが、発射時の反動はさほど変わらんはずじゃ。サプレッサーを付けると威力が落ちるんじゃが、それは諦めるしかないじゃろうな」


「室内の掃討に使えれば十分です。それに44マグナムのライフルも用意して貰えますからね。そのまま頂いてくるつもりです」


 ライルお爺さんから貰ったマーリンは陸上艦隊のフクスに搭載しているからなぁ。新たにレバーアクションのライフルを貰えそうだから、それは山小屋に置いておこう。


「それにしてもM14とは……。初めて見る兵士もいるんじゃないか? 半自動で使うなら狙撃銃に持ってこいの代物じゃ。案外良い選択かもしれんな」


「猟銃でも良さそうなんですけど、ボルトアクションですからねぇ。半自動のショットガンもいくつか用意するとのことでした。後方は自衛武器という事になるでしょう」


「自警団の連中はスラッグ弾を使う時もあるようじゃな。あれなら100m程離れたゾンビにも対応できるが、通常はダブルオーバッグじゃ」


 直径6mmほどの弾丸が9個だからなぁ。どれか1つでも頭部に命中すればゾンビを倒せるだろう。サプレッサーが使用できないのが残念だけど、多数のゾンビを相手にするならショットガンが一番合っている気がするな。


 焚火を囲みながら、今季の狩りを振り返る。

 エディ達は鹿を3頭し止めて、その内の1頭を使って燻製を作ったようだ。さぞかし兵站部隊の小母さん達が喜んでくれるに違いない。

 俺の狩った野ウサギは、自警団の小母さん達に毛皮と一緒に分配されたようだから持ち帰ることが出来ないんだよね。

 研究所にお土産に持たせようかと思っていたんだが、それはマーカスさん達がし止めた野ウサギを使うようだ。

                  ・

                  ・

                  ・

 デンバーを飛び立ったのは、1月10日の事だった。

 山小屋にカミラさんからドーバー基地に戻るよう連絡を受け、グランビーの駅舎で皆の見送りを受けての出発だった。

 レディさんまで来てくれたけど、隣のレーヴァさんと寄り添った姿はかつてのレディさんからは想像が出来ないんだよね。

 一緒に生物学研究所の所長も同行するのかと思っていたんだが、どうやら仕事があるらしい。

 そういえばグランドジャンクションに大学を作る動きがあったからなぁ。下見という事なのかもしれない。

 ゾンビのおかげで世界が変わってしまったけど、全て元に戻ることはないだろう。だけど少しずつ人類の文化を取り戻しつつあるようだ。

 やはり大統領閣下は偉大だという事なんだろう。それに閣下を取り巻く人達も優秀であることは間違いない。

 オーロラや汐音、それにもうすぐ生まれてくる子供達の為にも頑張らないとな……。


 ドーバーに到着すると海兵隊の駐屯する建物に向かう。

 石作りの5階建ては少し古く感じるけど、中は結構豪華なんだよなぁ。尉官以上であれば宿泊できるとのことだから、エントランスで宿泊の手続きを済ませ4階の個室に向かった。

 セミダブルのワンルーム。シャワールームまで付いている。

 明日は戦闘装備でシルバーフォックスの部屋に向かうから、制服は用意していない。

 このまま食堂に向かうことになるけど、同じ海兵隊なら文句を言われることもないだろう。44マグナムのマーリンを背負っていなければ十分じゃないかな。

 一服しながら時計を見ると、すでに19時を過ぎている。

 受付で貰った宿泊者用のパンフレットには夕食は20時半までと書かれていたから、食事をして今日は早めにベッドに入ろう……。


 翌日の目覚めは8時半だった。

 シャワーを浴びて着替えを済ませると、朝食を取る。

 さすがに昨夜と違って食堂は混んでいたけど、空いた席を見つけて食事を始めた。

 戦闘服姿の士官達もちらほら目に入る。

 これから任務に向かうのかな? 制服を着た連中は同じテーブルを囲んで談笑しながら食事をしている。なんの話なのか気になるけど、たまに笑い声を上げるところを見ると雑談ということなんだろう。

 さすがに作戦内容の話では笑いだすようなことは無いだろうからね。


「相席させて貰うよ!」


「どうぞ。もうすぐ席を立ちますから気にしないでください」


 テーブル越しに座った士官は俺と同じ戦闘服姿だった。

 これからどこに行くのかな?


「初めて見るが、どこから来たんだい?」


 戦闘服の階級章は大尉だった。階級が同じという事で遠慮なく聞いて来たんだろう。レーヴァさんより少し年上に見える2人は、さすがに海兵隊だとすぐわかる容姿をしているんだよなぁ。こんな人達ばかりだから自分の容姿に自信がなくなるんだよね。


「元は海兵隊ですが、今はマリアン少将の指揮する陸上艦隊に所属しています。統合作戦本部直属の新たな部隊が昨年末に出来ましたから、そこへ出向中なんです」


「あれか! 私も参加したかったんだが……」


「屋内戦のエキスパートたちを集めたと聞いたぞ。さすがにお前ではなぁ……」


 同僚が苦笑いを浮かべながら呟いているところを見ると、接近戦は時ではないという事なんだろう。だけど大尉なら前線に出る機会はあまり無いんじゃないかな。統率力と判断力があれば十分に思えるんだけどねぇ。


「鼻に斜めのナイフ傷を作るぐらいだ。君なら十分に活躍できると私は思うよ」


「これはナイフ傷ではないんです。グリズリーに遭遇して出合い頭のパンチを避け損ねた傷なんですが……」


 オリーさんが言った通り、顔の傷がしっかりと残ってしまった。

 熊の爪は鋭いからね。確かにナイフ傷に見えなくもない。


「まさか! ……あの逸話の本人か。海兵隊の鑑にもなりそうな話だったんだが、本当にナイフでグリズリーを倒したのかい?」


「出会い頭でしたから、とっさにパイソンで3発放ったんです。そこまでは記憶があるんですが、次に気が付いた時には今の妻の膝の上でした……」


「それで妻を得ることが出来たなら、アル! やはりナイフ戦の腕を上げるべきなんじゃないか?」


「妻を得る前に、真珠の門をくぐりそうだ。どう考えても私には無理だよ」


 真珠の門……? どこにあるんだろう? 後でニックに聞いてみよう。

 コーヒーを飲み終えたところで、2人に頭を下げて食堂を後にした。

 

 カミラさんが伝えてきた出頭時刻は10時だ。

 まだ1時間近くあるから、部屋に戻らずそのまま統合作戦本部まで歩くことにした。

 距離は2km近くあるようだけど、風は穏やかだから防寒服を羽織ればそれほど寒くはない。去年手に入れたアライグマの帽子を被って七海さん手織りのマフラーを首に巻く。

 並木道の新雪に足跡を付けながら周囲の建物を眺めるのは気分が良いな。

 古い町と聞いてはいるけど、その当時からこの基地はあったのだろうか?

 どう見ても軍の建物に見えないんだよね。

 石作りの豪華な構えが、何となく財を成した貿易会社の建物に見えてしまうんだよなぁ。


 統合作戦本部に近付くと、エントランスで警備する兵士の鋭い視線を感じてしまった。

 この冬空に時代物のライフルを背負い、歩いて移動するような物好きはいないのかもしれない。

 ここまで来る途中、誰にもすれ違わなかったからなぁ。

 気にせずに警備兵の前まで行くと、氏名と階級それに用向きを伝えた。

 そうでもしないと、持っているM4カービンを突き付けられそうな表情だったからね。

 俺の言葉に厳しい表情を和らげると、エントランスの扉を開けてくれた。

 ありがたく頭を下げて中に入ると、まるで南国に来たかのようだ。

 防寒服を脱いで腕に抱え、エントランスでコーヒーカップを受け取り窓際のソファーに腰を下ろした。マーリンをソファーに立て掛けたところで、先ずは冷たくなった体を先ずは温めよう。


 タバコに火を点けながらエントランスに足を踏み入れた士官に視線を向けると、オットーさんだった。

 手を振る俺に機が付いたのだろう。片手を上げて副官に何かつぶやいている。副官が頷くのを見たところで、オットーさんがやって来た。


「久ぶりだね。試験結果の報告はありがたく受け取ったよ。それなりに対処したつもりだ。今日はその報告にやって来たんだ」


「色々と注文を付けて申し訳ありません。あそこまで作って頂けると、さらに機能を追加したくなるんです」


「それだけ完成度が高いと評価してくれたという事だろう? だから仲間達も何とかしてやろうと頑張っていたよ……」


 副官が運んできたコーヒーを受け取って、軽く頷きながら礼を言っている。

 オットーさんの副官は女性なんだけど、レディファースト的には問題はないらしい。受付の女性兵士が厳しい視線を向けることもないんだよなぁ。

 俺とどこが違うんだろう? 同じことを俺とレディさんがやったなら、厳しい視線にさらされることは確実だからね。


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