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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-663 七海さん達がケーキを作ったらしい


 毎年行われるクリスマスは、早朝に教会で行われるミサから始まるようだ。

 俺が教会に行くことは無いから、七海さんと一緒に山小屋のリビングで焚火を囲むことになるんだよね。

 汐音はキャシーお婆さんが連れて行ったし、オーロラはオリーさんが一緒だ。

 普段は賑やかな山小屋に七海さんと2人でいると寂しく感じる。

 七海さんがココアの入ったカップを両手に持ち俺に肩を預けているんだが、横顔は何処か寂しそうだ。故郷の京都を思い出しているのかもしれない。


「異教徒だけど、キリスト教を異端とは思わないんだから、来年は汐音達と一緒に行ってみる?」


「それも何度か考えたことはあるんですけど……。やはりクリスマスのミサは信者の中では特別な行事なんだと思います。汐音はしっかりと信者になっていますから……」


 敬虔な信者の中に、中と半端な存在がいるというのは確かにおかしな話だ。特別な行事が無ければ、俺達だって教会に向かう時だってあるからね。

 まぁ、皆が帰って来たなら賑やかな1日が始まるんだから、もうしばらくは2人で過ごすことになるだろう。

 それに、俺達が山小屋に残っているからこそ、リビングを温めておけるからね。

 皆が出掛ける時には雪が舞っていたからなぁ。帰って来たなら子供達が焚火の周りに駆けてきそうだ。


 七海さんが俺の方から体を戻したところで、カップを手元に置いて焚き木に薪を追加する。ヨイショ! と立ち上がると、牧ストーブにも薪を2本投げ込んで戻ってきた。

 七海さんが、おかしそうに俺を見ながら両手を口元に当てているんだよなぁ。目が涙目だから笑いたいのを必死で抑えている感じがするんだよなぁ。


「おかしなところがあるのかなぁ?」


 自分の姿を見渡してみたんだけど、ボタンの掛け違いもしてないし、ジーンズのチャックだってしっかりと閉まっているんだよね。


「さっき立ち上がる時に言ったでしょう。『ヨイショ!』って……。ライルお爺さんだって言わないですよ。それに、その掛け声は亡くなったお爺さんが座布団から立ち上がる時の声にそっくりでした」


 日本人の特徴なんだろうか? だけど、声に出すと動きやすいんだよね。これって条件反射なのかもしれないな。とはいえ、学生時代にはそんな言葉は出さなかったからなぁ。それだけ俺が歳を重ねたということになるのかな? それはちょっと考えてしまうから、少し気を付けていよう。

 クリスやパットにも笑われそうだからね。


 昼食前に、皆が雪上車で帰ってきた。全員が雪上車に乗れるわけではないから、大きなソリを曳いて行ったんだけど、ソリにはビニルハウスのような屋根を付けてあったんだよね。あれなら少しは寒風を避けられるだろう。

 ガヤガヤした一行が山小屋に入ってくると、案の定子供達が焚火の周りに集まってきた。俺達が立ち上がって席を譲り、七海さんは薪ストーブの上に乗せたポットを持ってダイニングに向って行った。皆に熱いコーヒーを配るんだろう。

 俺は薪ストーブにベンチに移動して、エディ達と合流する。


「サミー達がいてくれるから、直ぐに温まることが出来るよ。自警団の人達は、帰宅してから暖炉に火を入れるんだからなぁ」


「キリスト教を否定する気持ちはさらさらないけど、厳密に信徒とも言えないからね。信仰上の重要な行事であるなら、やはり敬虔な信者で行うべきだと思うよ。俺達は、キリストの生誕を祝うパーティに参加できれば十分さ」


「今年もサミーの期待は叶えられると思うよ。メイ小母さん達のケーキの競作に今年はパット達もエントリーしたみたいだからね」


 ニックの話では、七海さんやオリーさんまで参加したらしい。さすがにキャシーお婆さんの腕には適わないだろうけど……、それより安心して食べられるかどうかが問題に思えてきた。


「良いか……。絶対に褒めるんだぞ! そうすれば、お前達の願いも喜んで聞いてくれるだろうが、万が一にも貶そうものなら一生恨まれるんだからな」


 ライル小父さんの言葉に、ビリーさん達が真面目な表情で頷いているんだよなぁ。俺達は不安げに顔を見合わせるだけだった。


 暑いコーヒーを飲み始めたところで、子供達の讃美歌の歌が始まった。

 今日1日は、皆で歌やダンスで楽しむことになりそうだ。


 晩餐はエディ達がし止めた鹿のステーキがメインだった。いつも通りベリーウエルダンのステーキを見て、ニックが溜息を吐いているんだよね。これは個人の問題だから多めに見て欲しいところだ。

 何時もより食事の時間が長いのは、デザートのケーキが5つも出てきたからだ。子供達と一緒に俺が目を輝かせていると言って、ジュリーさんが大笑いしているんだけど気にしないでおこう。

 キャシーお婆さんが切り分けてくれたケーキを順番に頂く。ニックの2倍はあるケーキの分量はいつものことだ。

 皿に乗ったケーキの大きさの違いにエディが呆れているんだけど、エディは甘い物が苦手なのかな?

 何個目かのケーキが切り分けられ、最後に出てきたのが問題作のようだ。

 ニックとエディがジッと俺に視線を向けるのは、俺でケーキの味を確認してから頂こうという魂胆が見え見えなんだよなぁ。

 急に鋭い視線を感じる。視線は七海さん達からだった。一口食べたら、何らかの批評をしないといけないのかな?

 絶対に『不味い!』と言ってはいけないとライル小父さんから忠告されているんだけど、さすがにどうしようもない不味さなら思わず口に出てしまいそうだ。

 コーヒーで口の中をさっぱりさせたところで、ケーキにフォークを差すと切り分けずにそのまま口に運ぶ。


「ゴクリ!」と誰かが唾をのみ込む音が聞こえてきた。

 それ程脅威があるとも思えないんだが……。がぶりと大きく口を開いてケーキを口に含む。途端に甘い味が口に広がり、中に入っていたブランディ―漬けされたドライフルーツが上手く調和してくる……。

 かなりの腕なんじゃないか? さすがにメイ小母さん達の様なふんわり感は無いんだが、普段にでも作って欲しいぐらいだ。


「かなり美味しいよ。味が俺には丁度良いね。ドライフルーツを漬け込む時間を長くすればしっとり感がもっと出るんだろうけど、そうなるとこれを食べると二日酔いになりそうだ」


「そうか? それなら……」


 そんなことを言ってエディ達がケーキの端を切り分けて食べ始めた。

 直ぐに目を大きく開いて、クリス達に親指を上げているところを見ると、エディ達も満足したようだな。


「やはり漬け込む日数が短かったという事かしら。でも初めてにしては上出来だわ」


 メイ小母さんも、合格点を出してくれたから次も作ってくれるに違いない。

 さすがにアルコールが入っているから、子供達にはクッキーが別に作られていたようだ。

 ジュースを飲みながらクッキーを平らげた子供達が、自発的にシャワー室へと消えていった。

 もう9時を過ぎているからね。プレゼントを楽しみにしているんだろうな。


 子供達が消えたところで、小母さん達がクリスマスツリーの下に子供達の名前を書き込んだプレゼントの箱や包みを置き始めた。

 最後に数を確認しているのは、貰えなかった子供がいないようにとの配慮だろう。


 これから後は大人達の酒盛りだな。焚火の周りに集まってワインを飲みながらギターやバンジョーの演奏、それに歌が始まる。


「そうだ。忘れない内に……」


 ウイル小父さんとライル小父さんに葉巻の箱を手渡し、メイ小母さんやキャシー小母さん達にイヤリングの包みを渡す。

 受け取った小母さん達が、皆頬にキスしてくれるんだよなぁ。焚火に戻ってきた俺の顔を見て皆が大笑いを始めた。エディ達まで俺の顔を見た途端に吹きだしたから、慌ててナイフを引き抜いて刀身を鏡代わりに覗いてみたら……。

 急いでジーンズのポケットからバンダナを取り出してゴシゴシと拭き取った。

 まったく、未だに悪戯好きで困ってしまう。


「そのままにしておけば良かったのに! 毎年恒例でしょう? そろそろ慣れても良いと思うんだけどなぁ」


 オリーさん達がワインを飲みながら、顔を見合わせて笑っているんだよねぇ。

 そうは言っても、日本人の感性はそのままだからなぁ。七海さんも俺と同じ思いなんだろう。ちょっと笑顔が引き攣っているからね。


「サミーには感謝しかないな。俺は色々と悩んだ末に……、空港の本屋で見つけたレシピ本だからなぁ」


「それでも笑みを浮かべて受け取ってくれたんだろう? 要は心がこもっていれば十分だ」


 そんな事を言っているウイル小父さんは何を贈ったんだろう? 後学のために後で教えて貰おうかな。

 

 辛い任務も今夜は忘れて飲み明かそう。

 明日は二日良い確定だけど、ゾンビも冬はおとなしいからなぁ。       

                ・

                ・

                ・

 クリスマスが終わると、次は年越しだ。

 年越し蕎麦を食べたいところだけど、無理を言ってメイ小母さん達にパスタを作って貰った。

 細く長く生きられるようにだから、これで代用しても問題ないだろう。

 何故に今夜は? という質問に、日本の習わしを説明して納得してもらう。

 そんな話をしたら、ライルお爺さんが蕎麦の粉を来年は用意してやろうと言ってくれた。

 アメリカでも作っているらしいんだが、いったい何に使うのかと首を捻ってしまう。

 

「今度来る時には、婆さんに頼んでやろう。案外少しはもっているのかもしれん。それなら明後日には食べられるぞ」


 ライルお爺さんの話によると、ガレットやパンケーキの材料になるらしい。蕎麦の粉でねぇ……。どんな味に仕上がるんだろう?


「サミー。あまり期待するなよ。あれは小麦の代用食という感じだからな。日本では確か。このパスタのように作ってスープの中に入れるんだったな」


「食べ方は色々とありますよ。もし粉が沢山あったなら、俺も1品作ってみましょう。簡単な料理ですけどね」


 雑貨屋で見つけた調味料に七色トウガラシがあったんだよね。粉末醤油も見つけてあるから、あの料理を作ってあげよう。


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― 新着の感想 ―
いや…サミーが作ったら砂糖だらけにならないか心配で。
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