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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-661 クリスマス休暇が始まる


 ゴルフ場のクラブハウスにある地下室を使っての訓練は、ドローンと聴音担当者の格好の訓練になったようだ。

 6本足だからデュラハンの階段昇降も問題ないし、小型ドローンによる先行偵察もうまく行っている。

 とはいえちょっとした課題が判明した。

 デュラハンの偵察は部隊から離れても、内蔵した光ファイバーケーブルで情報伝送を行えるのだが、小型ドローンはそうはいかないんだよねぇ。

 単独では2つも角を曲がると信号の送受信が一気に低下してしまう。とりあえずは使えるんだけど、もう少し先まで飛ばしたいところなんだよなぁ。


 そんな話を、状況を検分に来たオットーさんに話したら、すぐに解決策を考えてくれた。


「ブースターをデュラハンに搭載しましょう。重量の増加は1kgにも満たないですよ。それでもう少し先まで調査範囲を伸ばせます。地上部隊と駆逐部隊との情報伝達は、やはり無線では無理でしたか……。有線という手もありますが、数チャンネルが使えるブースターを持参しました。内臓バッテリーで3日間の連続使用が可能です。距離が長くなれば、さらにブースターを置くことで対応できます」


 バッテリーはカートリッジ型だから簡単に着脱できるとのことだ。予備のバッテリーもブースターの数だけ用意してきてくれたから、地上の発電機を使えば連続運用が出来る。


「そうなると、デュラハンの燃料が1つの課題という事になりますね」


「燃料電池ですから、それは仕方がありません。バッテリーを使うとなれば重量が2倍近くになってしまいます。昔のような燃料電池の連続運用ではなく,間欠運用が可能ですから待機状態を作ることで運用時間を伸ばすしかありませんでした」


 連続運上時間が3時間だからなぁ。燃料の補給を行えば、また直ぐに使えるから我慢するしかなさそうだ。


「ところで次の依頼は無いんですか?」


「強いて言うなら、ニューヨークで使ったあの爆弾を運ぶドローンですね。さすがにあれだけ大きな代物は必要ありませんが、出来れば300㎏ほどの焼夷弾を坑内奥深くに運べるものが欲しいですね。それとオットーさんの伝手を頼っての飛距離の小さなロケット弾の方はどうなっているんでしょうか?」


「飛ばないロケットと言うのが面白かったのか、友人が色々と実験していますよ。最初は『こんな武器を軍が要求してきたのか?』と首を捻っていましたけどねぇ」


 その時の情景を思い出したんだろう。オットーさんが軽く笑い声を上げる。


「真面目な奴ですが、遊び心もあるんです。どんな兵器になるか私も楽しみではあるんですが、まさかあれをこの部隊で運用すると?」


「運用は地上部隊ですよ。ゾンビが大量に生息している場所に、接近しての状況観察を行う時がままありました。囲まれた時はグレネード弾を連射して群れに空隙を開けての脱出でした。脱出時に使うだけですから前方300mほどに着弾して脱出路を作ることが出来ればありがたいです」


 俺の言葉をジッと聞いていたオットーさんが、最後に大きく頷いた。

 メールではそこまで詳しく記載していなかったからなぁ。


「友人にどの様に使うかを教えますよ。連装にするのはそういう理由があったんですね。それと爆弾運搬専用のドローンは、ニューヨークで使った簡易型の機能を更に絞って小型することで対応可能でしょう。それは私が考えます。大きさは?」


「直径1mを越えないこと。それに自力で階段の昇降が可能であること。目的位置をあらかじめ設定したなら、その位置に爆弾を設置して戻ることが可能であること……」


 操縦者がいなくとも自律行動が出来るドローンであることが望ましい。焼夷弾ではなく高性能爆薬を使うことで地下トレンチを広範囲に埋没させることも出来るだろう。トレンチの先が塞がれるなら、水没させるのは案外楽になるだろうからね。


「やはりオットーさんに来ていただいて助かりました」


 打ち合わせが終わったところで互いに握手を交わす。

 これも使って欲しいと、新たに集音装置と音声スペクトラム解析装置さらに音声映像装置が合体した装置を渡してくれた。フィールドテストというのかな? 作戦終了後に使い心地を報告して欲しいと頼まれたんだよなぁ。

 今も使っている装置もオットーさんの試作品なんだが、スぺクトル表示のセグメントがさらに細分化されている。周波数帯も、低音領域、音声領域、超音波領域の3つを瞬時に選ぶことが出来る。ゴーグルのようなヘッドセットに指向性マイクとヘッドホンがついている。音声映像はゴーグルに映るとのことだ。

 明日は訓練施設に出掛けて試してみよう。

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 部隊が全員セントジョージ・アイランドのゴルフクラブハウスに滞在しているから、夕食後はクラブハウスに併設された会議室に士官達が集まり、1日を振り返る。

 デュラハンを使っての地下室訓練を開始したから、今夜は士官達がいつもより活発な報告をしてくるようだ。

 工兵部隊を指揮するエリソンさんも、周辺監視に小型ドローンを使い始めたようだからなぁ。まだ操縦が不慣れではあるが、十分監視を補うことが出来ると報告してくれた。

 消防部隊を率いるエドソンさんは、クラブハウス近くにあった自衛消防隊の消防車の整備とその後の放水までを行ったようだ。寒い季節にご苦労様だと感心してしまう。


「消防隊は普段から消防車の保守に努めているのはどこも同じです。直ぐにエンジンを掛けることが出来ました。作戦目的地近くの消防署を調べているところです」


 向かう先の消防車を積極的に使うという事かな? それなら消防車の輸送台数を減らすことが出来そうだ。

 最後にジョルジュさんが地下室での訓練の様子を報告してくれた。

 エメルダさんも様子を見に出掛けているから状況は知っているんだろうけど、他の士官達にも知らせておくべきだろうからね。


「あの変わったドローン、デュラハンはかなり使えますね。ドローンの集音装置から伝送される声を聴音担当がしっかりと聞くことが出来ましたし、扉越しのゾンビの確認も普段通り行えます。

 小型ドローンは、デュラハンから300m程度の範囲で状況確認が出来ます。見通しが悪くても200mは確実です。聴音装置での位置特定は出来ませんが、存在を確認できるだけで十分でしょう。位置の特定は高感度カメラで行うことが出来ますからね」


「暗闇という環境は、かなり兵士の精神を消耗するようです。ゾンビとの距離が遠ければ、小型のライトを使わせたいと考えます」


 小さなキャンドルライトの明りだけでも人間は安心感を得るようだな。

 だが、ゾンビに人間のいる位置を知らせることになりかねない。その対処方だが……。


「部隊のいる前方に丸太を2本転がすだけで、ゾンビを足止めできますよ。俺達がゾンビのいる場所で夜間を過ごす際に行っていた簡易な阻止具なんですけどね。ゾンビは階段が苦手ですから」


「なるほど……。通路幅の丸太を担ぐぐらいなら兵士の苦にならんだろう。それを前方に置くだけでゾンビの接近を遅らせられるなら銃撃での狙いも正確になるはずだ」


「ガラクタを並べるだけでも効果が期待できそうですね。地下室が続くようなら通路の分岐もあるでしょう。その時に利用できそうですよ」


 応用は色々あるからなぁ。

 丸太2本では足りないだろうと、持ち込む本数の議論を始めたようだ。


「それで、トレンチの方はどうなってるのかしら?」


 エメルダさんが俺に顔を向けて問いかけてくる。丁度コーヒーを飲んでいたところだったから、慌ててマグカップをテーブルに戻し状況を説明する。


「今日届いたメールには、製作を始めたとありました。年明けには届くと思いますが、数は1体だけです。いきなり実戦に投入することになりそうです」


「試作品の試験を実戦で行うということね。距離的にはそれほどなさそうだから、上手く行かなかった場合の対策を考えて欲しいわ」


「エリソンさんに状況を伝えて協力を得たところです。芝刈り機を改造して爆弾を運びます。搭載する爆弾は2Kg程度になりそうですが、トレンチが崩落するまで何度でも運べば良いはずです」


 俺の話を聞いて、エメルダさんがエリソンさんに視線を向ける。


「出来そうなの?」


「それほど難しくはありません。直ぐに工兵達が資材を集めてきましたからね。有線誘導の爆弾運搬装置、第3帝国のゴリアテに似た兵器となるでしょう」


「他にも応用が出来そうね。最初は爆弾運びだけになりそうだけど、その後も期待したいわ」


 笑みを浮かべて頷いている。

 ゴリアテはキャタピラ駆動なんだけど、今回作っているのは8輪駆動の代物だからなぁ。踏破性を考えての事だろうけど、キャタピラの方が良かったんだろうか? 


 一通り報告を終えたところで、雑談が始まる。

 今夜の話題は騎兵隊に関わることが多いようだ。

 軍内部からも、騎兵隊に憧れる連中が多いらしい。とは言っても、現在の騎兵隊は自警団と元軍人達が母体で作った組織だからなぁ。

 

「やはり制服と乗馬での移動に憧れてという事なのでしょう。砦を作って周辺のゾンビを倒していると聞きましたよ」


「PR画像が結構出回っているからだろうな。軍の方もPRを上手くやらないと志願者が減ってしまいそうだ」


「映画館で映画を映す前に、そんなPR画像を流すようですね。中にはハンサムな奴もいるみたいでファンが出来つつあるようですよ。来年には軍の撮影隊がやってくるように活躍したいですね」


 民間人にもある程度の情報を知らせるべきかもしれない。前線で俺達がどのようにゾンビと戦っているかを知らせるのも軍の務めに思えるんだけどなぁ。

そういう意味もあるのかもしれない。統合作戦本部から撮影部隊がやって来るとのことだ。

 新たな軍の創設に関わる訓練という事で、興味を示したに違いない。

 できれば、新規隊員への教育訓練にも使えるように編集して欲しいところだ。

 陸上艦隊へも打診しているらしいんだが、マリアンさんが相手だからなぁ。撮影部隊の隊長もどうしたら撮影許可を得られるかと考えているに違いない。

 結構おもしろいことが好きなところがあるから、きちんと話をしたなら案外簡単に許可してくれると思うんだけどね。

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 クリスマスまで、あと1週間というところで部隊が休暇に入る。

 ずっと訓練続きだったから、兵士達がその知らせを食堂で聞いて大騒ぎになったほどだ。

 去年までは年末年始をドーバーで過ごしていたんだがさすがに今年はお役御免という事らしい。エメルダさんがきちんと報告すると言っていたぐらいだし、本部長からドーバーに残れとの指示も無かったからね。

 軍が用意してくれた小型ジェット機でデンバーに帰ることになったのだが、オリーさんオーロラの外に生物学研究所の所長とヤンセン博士達が一緒だった。

 ロッキーの冬景色を堪能したいとのことだけど、ヤンセン博士は野ウサギ狩りを楽しむつもりらしいんだよなぁ。ミランダさんがジト目でヤンセン博士を睨みながら教えてくれた。


「ミランダさんに真っ白な野ウサギの帽子をプレゼントしたいという事でしょうね。俺がし止めた野ウサギの帽子を以前お渡ししていますけど、やはり自分でし止めた野ウサギを……、という事だと思いますよ」


「そうかしら? 自分本位なところが少しあるんだけど……。それなら許せるわね」

 

 せっかく結婚したんだから、あまり家庭内に波風を立てるのも問題だな。

 ティーピーで酒盛りをしながら、その辺りの話をヤンセンさんにしてみよう。

 

 デンバー空港に下りると、夕暮れに発車する記者に乗ってグランビーへと向かう。グランビーは深い雪の中だ。エンリケさんの運転する雪上車に乗って山小屋へと移動する。

 途中で所長達を病院隣の宿舎へと案内したんだが、雪の中で焚火を作ってマーカスさん達が待ち受けていた。


「ヤンセンさん達も楽しいクリスマスを過ごしそうですね」


「そうだな。仲間で集まってのパーティも楽しいんだが、本来クリスマスは家族単位で静かに行うものなんだ。デンバーだと教会に行くことになるんだが、さすがにここではなぁ」


「教会でクリスマスのミサがあるの。山小屋ではライルお爺さんが聖書の一節を読んでくれるんだけど、サミー達はいつも夢の中なのよねぇ」


 そんな行事をしていたんだ! まぁ、俺の場合はキリスト教徒とは言えないから問題は無さそうだけど、ニックやエディの場合はまずいんじゃないかな?

 パット達に無理やり起こして貰って参加させた方が良さそうだな。


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― 新着の感想 ―
まぁサミーに関しては異教徒ですから問題無いかと思います。 「ジャパニーズ シントウ」という視点で見れば、全ての宗教の神は八百万の神の一柱ですからこちらも問題無い。
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