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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
658/688

H-658 先ずは装備の統一という事らしい


 俺のプロフィールには海兵隊大尉、生物学研究所上級研究員とあった。士官学校卒業の年度が記載されていたけど、これってあの惨劇の年なんだよなぁ。ある意味名誉の卒業認定なんだろうけど、これが無いと尉官以上になれないらしい。ライル小父さん達も俺と同じなのかな? 士官学校なんて出ていないと思うんだけどねぇ。

 参加した作戦がずらりと並んでいるし、しっかりとシルバースターを授与されていることも記載されている。

 他の士官達と変わっているのは、俺には射撃試験のバッジが無いこと、それに海兵隊士官なら当然持っているべきマーシャルアーツのベルトの色の記載が無いことだな。

 さすがにこれはごまかしようがないということなんだろう。


「結構詳しい記載なんですね」


「次の更新時には、学位が記載されるわ。軍を止めてから就職口を探す時には役立つと思うんだけど……。でも、牧場を経営するんでしょう?」


「そのつもりで、ニック達といつも相談してますよ。七海さん達は小さくても農園を併設したいようでしたから、案外自給自足が出来るかもしれません」


「農園ねぇ……。多角経営と言えば聞こえは良いけど、中途半端な感じがするのよねぇ……」


 俺だってそう思っている1人だからなぁ。やはり夜逃げ確定なんだろうか?

 もう少し絞り込めないか、ニック達とよく相談しないとなぁ。


「農園といっても、小麦畑や野菜は無理ですよ。果樹なら何とかなりそうに思えるんですけどねぇ」


「品質を保つとなれば結構な仕事が出てくるんじゃないかしら。植物学の権威に少し聞いてあげるわ」


 それは助かる。だけど、牧場を開く場所の風土条件次第にも思える。色々と植えてみて一番生育の良い果樹を栽培するだけで済みそうにも思えるんだけどなぁ。


「サミーはアメリカを去るようなことはないでしょう?」


「故郷は俺の胸の中にありますから、そんなことはしませんよ。七海さんや橘さん達も同じでしょう。無線で何度も呼び掛けましたけど、全く応答がありません。小笠原で生存者を救出出来たのが奇跡に思えます」


「定期航路があっても、1週間に一度ではねぇ。でも、それで助かったのかもしれないわね」


 オリーさんの言葉に、小さく頷いた。

 席を立って窓際に向かうと、窓を少し開けてタバコに火を点ける。


 オリーさんは、おいしそうにお酒を飲んでいるけど、もう2杯目なんだよなぁ。

 酒もセーブして欲しいところだ。


「それで新たな部隊は何処に向かうのかしら?」


「実働は来年になるでしょうね。でも最初の作戦地は決定されていました。アメリカの最北、バンクーバー市から少し下がったところにある海軍基地です」


 地下施設の図面があるのにそれを使わないと話したら、少し驚いている。

 平面図が無い場所で作戦遂行が可能かを上層部が確認したいのだろうが、監察部隊が同行するというのは考えてしまうな。邪魔にならなければ良いんだけどねぇ……。


「生物学研究所からも、人間を派遣する予定よ。私が行けば一番なんでしょうけど、そうもいかないから、メイガン博士の所から助手を1人出すことにしたの」


 メイガン博士は解剖学の権威だから、サンプルの採取ということになるんだろう。ありがたい話ではあるんだけど兵士達と一緒で大丈夫かな?


「まさか女性ではないですよね?」


「今年20歳の男性よ。兵士並みに立派な体格をしているから、隣にサミーは並ばない方が良いわよ」


 今さらの話だから、ここは笑みを浮かべて頷いておこう。


「銃の訓練はしているんでしょうか?」


「射撃場に友人達と何度も通っているみたい。メイガン博士がショットガンをプレゼントしていたわ」


 ショットガンは結構使えるからなぁ。物陰に隠れなければ問題はないけど、兵士達の横には並んで欲しくないところだ。

 拳銃も用意しているだろうから、後方で軍属の小母さん達の手伝いをしていてくれれば良いんだけどね。

 明日の会議では、部隊の装備から話し合わないといけないだろう。

 必要な物は準備してくれそうだけど、あちこちの部隊から集まっているからなぁ。個人装備品の統一で紛糾しそうに思えるんだよねぇ……。

                ・

                ・

                ・

 オリーさんに統合作戦本部のビルに送って貰い、エントランスの受付で用向きを伝えると直ぐに会議室の場所を教えてくれた。

 約束の時間まで20分ほどあるから、エントランスのいくつかあるソファーに座ってタバコに火を点ける。

 俺と同じように、時間待ちをしている士官が数人いるんだけど皆佐官なんだよねぇ。尉官の俺には、やはり場違いに思えてしょうがないところだ。

 会議室はそれほど離れていないが、10分前になったところで席を立つ。

 エントランスの奥にある階段を上り、2階奥に続く回廊の最初の部屋が教えられた会議室だ。扉に『S・F』と表示があるのは、しばらくはこの部屋を俺達の部隊が使うことになるからだろう。

 ノックをして扉を開ける。部屋に足を踏み入れたところで姿勢を正して敬礼をする。

 すでにエメルダ中佐が席に着き、副官と何やら話をしているようだ。

 中佐が軽く答礼してくれたところで右手を下ろす。会議室のテーブルは資格ではなくて丸いんだよね。ネームプレートを確認して、俺の名が付いた席に腰を下ろした。

 窓が半開なのは、喫煙者が多いのかな?

 エメルダさんの手元にもガラスの灰皿が置かれているんだが、すでに何本かの吸い殻がある。エメルダさん自体がヘビースモーカーという事なんだろうか?

 3分も経たずに、次々とノックの音がしてテーブルの席が埋まっていく。5分前には全ての席が埋まったのは、やはり士官教育がしっかりと出来ているからなんだろう。

 そんなことに感心していると、コーヒーセットを乗せたワゴンを女性兵士が押して入って来た。

 俺達の前に、マグカップが置かれる。砂糖とミルクは? との問いに砂糖を2つ要求したのが面白かったのかな。

 エメルダさんの副官が顔を下に向けて笑いを堪えながら肩を震わせている。


「さて、定刻になったわ。今は小さな部隊かもしれないけど、1年もしたら倍になりそうな仕事が待っていることは確かね。これから部隊創設に当たって色々検討していくことになるんだけど、早めの決定が必要な事項を幾つかまとめてみたわ。会議の進行は副官のカミラ大尉に任せるわね。でも会議を始める前に、マリアン少将が建物内どころか地下施設に潜むゾンビの掃討まで行って未だに負傷者を出さない、とまで話してくれたサイカ大尉に地下施設のゾンビを駆逐した時の話を聞いてみたいわね」


 経験を共有したいという事かな?

 地下施設と言っても、多くはビルの地下室なんだよなぁ。一番大きな場所はデンバー空港の地下だったけど……。


「少し過大な評価を受けているようですが、地下施設と言っても多くはビルの地下室です。一番来な地下施設はデンバー空港の地下街でした……」


 地上戦との装備の違いや、進むべき方向だけでなく全周の警戒等について話をする。


「…そんな風に行動してゾンビを倒して行ったのですが、それで得た知見は銃声が大きく聞こえること、それにスターライトスコープは思った以上に視野が狭い事でした。ゾンビの数が少ないと判断した際は、通常のライトを使っていたぐらいです……」


「地下ならそうなるんでしょうね。銃声はサプレッサーで少しは抑えられるでしょうけど、無音には出来ないわ。暗闇も問題ね。サーモグラフィはゾンビが体温を持たないから意味が無いという事なんでしょう。個人装備の統一だけでも面倒に思えるわ」


「とはいえ、前例があります。サイカ大尉、君はどんな装備で挑んだんだい? 君が関わった戦闘報告を読むと、変わった装備をしているように思えてならないんだが」

 

 問い掛けてきたのは、ジョルジュ中尉だった。他の士官達も俺に視線を向けて頷いている。

 だけど参考になるのかなぁ……。


「戦闘服等は海兵隊の標準装備です。ヘルメットは特注品です。これは音声映像装置からの画像を投影するバイザーと集音装置の指向性マイクロホンそれに両耳にヘッドホンを付けるためです。それ等の制御装置は胸の大きなポケットに入れてあります。それほど重量はありませんから、戦闘行動に支障があったことはありません。次にライフルですが、100mを越えると途端に射撃のせいで気が悪くなるところがありまして……、用意して貰ったのは357マグナムを使うレバーアクションのマーリンです。当然銃口にはサプレッサーを取り着けることが可能です。サイドアームは地上戦であるならパイソン、建築物内であればP-38を使用しています。本来ならベレッタなのでしょうけど、ダブルカラムマガジンの拳銃は俺の手には大きすぎるんです。暗がりなら拳銃やライフルの銃身に小型のマグライトをテープで取り着ければ十分ですが、これは後方で戦友達がライトで俺達の先を照らしてくれるからです。それ以外には……、1.5m程の棒が結構役立ちます。部屋の中にゾンビが数体だけなら殴り倒せますし、倒れたゾンビが2度と起き上がることが無いように頭部を破壊するのにも使えますからね」


 大まかな話を終えたところで、飲み頃になったコーヒーを一口。

 マリアンさんが教えてくれたのかな? 俺の好みにぴったりの味だ。


「ゾンビを殴り倒していたと聞いたことがあるけど、そんな使い方をしていたのね。全く海兵隊の技量には驚くわ。私達のところも訓練に取り入れるべきなんでしょうね」


「我等はそこまでの技量はありませんよ。ゾンビを棒で殴るなんて、銃弾が無くならない限りそんな指示は出来ません」


「あの夏の終わりは、まだハイスクールに在学中でした。サマーキャンプ中に騒動に巻き込まれたんですが、友人達とホッケーのスティックを振りまわして帰宅した次第です。あの頃はゾンビゲームが流行していましたからね。ゾンビは頭を殴ればいちころという変な先入感があったんです。そんな理由で今でも棒を使うことは多いんですが、この部隊の兵士にも装備させたいですね。棒で突いて確実に倒したかを確認できますし、先端に小さなフックを付ければゾンビに触れることなく移動することも出来ます」


 なるほど……、という顔をして頷いている。

 シンプルな武器ほど応用が利くからねぇ。


「面白そうね。常に全員に装備させるまでは考えられないけど、用途や行動次第では利用できそうに思えるわ」


「ゾンビに振れるのを嫌がる兵士が多いですからね。確かに利用できそうです」


 これは採用かな? 俺の話を聞いて少しは脳裏に暗闇での戦闘光景を浮かべることが出来たのだろう。次々と個人装備の提案が出てくる。

 戦闘服やヘルメットは陸軍で統一しても問題は無さそうだな。それでもスターライトスコープは装備するらしい。俺には炭鉱夫が使うヘルメットのライトの方が有効な気がするんだけどなぁ……。


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