H-650 マリアンさん達は次の作戦を考えているようだ
結構ヤバイ生物だと思っていたんだけど、どんなものにも欠点が1つはあるという事なんだろう。
それにしても水への耐性が脆弱だとは思わなかったな。
所長の話では、この先どのように進化するか予想することは難しいとのことだったが、メデューサが逆進化を起こさぬ限り現在の耐性が維持されるだろうとの事だった。
「逆進化?」という言葉にマリアンさんが首を傾げている。
俺も詳しくは分らないけど、人間が恐竜になって魚へと進化の逆を辿るという事なんだろう。
「私達の進化がこれまでと違って、先祖に戻っていくという学説があるの。クジラがその良い例かもしれないけど、所長の話からすれば更に先祖に戻る感じね。ほとんど単細胞から多細胞へと変化する時代にまで遡らないと、根本的な水への耐性が変わることは無いように思えるわ」
「そんな進化は進化とは言えないように思えるけど?」
「だから逆進化なの。環境条件に適合するための進化は必ずしも前向きとは限らないという事になるんでしょうね」
マリアンさんとオリーさんの話は、聞いているだけで頭が痛くなるなぁ。
我関せずの表情で俺達を見ているニックさんが羨ましく思えてきた。
改めて何倍目かのコーヒーを受け取って、ナタリー嬢に笑みを浮かべて小さく頷いた。良い娘さんに育っているみたいだな。さぞかしエンリケさんが手放したくなくなるに違いない。
「サミー君もそう思うの?」
急にマリアンさんが俺に矛先を向けてくるから、コーヒーを吹き出すところだったぞ。
「さすがに逆進化がそこまで進むとは思えません。ですがこれからの進化によってある程度の耐性を持つ可能性がありそうです。具体的には体液を漏らさぬため皮膚を硬化させる、体液が漏れ出したならその漏れを塞ぐような防御機能の追加、ある程度の体液漏出を前提とした余剰体液の貯留……。これらは今後の進化でも考えるべきでしょう。とはいえ現状を考慮するなら、メデューサの循環系も酸素をある程度必要としていますからトレンチ内を水没させれば呼吸が出来なくなることも確かです」
「逆進化せずとも、ある程度の耐性を持つことが出来るという事ね。でも呼吸が出来なくなればそれはメデューサの生体活動を停止できるなら都合が良いわね。やはり水攻めが1番と言うことになりそうね」
「とはいえ、1つ大きな課題もあるんです。水攻めを行った後の確認手段がありません。ニューヨークの地下鉄構内を探査しゾンビのコクーンを焼却するためのドローンを開発した航空宇宙軍のオットー中尉に、状況を伝えて調査用のドローンの製作を依頼してはいるんですが、まだそんな代物が出来るかどうかの返事をもらっていないんです」
うんうんとマリアンさんが頷いて聞いているんだよなぁ。
リッツさんは、機嫌の良さそうなマリアンさんに疑問の目を向けている。
「結構! すでに先を考えていたのね。なら後はリッツ達の作戦次第という事になりそうね。ヤンクトン市とダム湖南岸の発電所はレーヴァ大尉に任せておけば十分でしょう。サミー君はしばらく待機して頂戴」
「了解です!」
さて、これで会議は全て終わったかな?
引き上げようとする俺に、マリアンさんから少し残るように言われてしまった。
なんの話だろうと改めて席に着くと、リッツ中佐がモニターに画像を映し出しながら話を始めた。
どうやら陸上艦隊の再編成をするようだな。
編成表をしばらく見ていたんだけど……。テキサスやラングレーが入っていないぞ!
マリアンさんに顔を向けると、俺の驚いた表情が面白かったのか吹き出しそうな表情をしているんだよなぁ。
「気が付いたようね。テキサスは気に入っているんだけど……。さすがに大きすぎるわ。デストロイ部隊を拡充することで旗艦の孤立化を防げるなら、大型コンテナの長距離輸送トラックを改造することで、総重量を100t以内に収めることが可能よ。テキサスの機能を3つのトラックに分散することになるけど、そうすることで州間高速道路を無理なく利用できるの」
「このテキサスは用済みという事ですか?」
「大都市攻略用に特化するという事になりそうね。それはデンバーで試せるでしょう?」
ウイル小父さんが大喜びしそうだな。ライルお爺さん夫婦は搭乗するに違いない。出来れば子育て後の七海さん達も便乗して欲しいところだ。テキサスなら、たとえ大規模ラッシュが発生したとしても対応できるだろう。
「すると次の狙いはヒューストンになりますね」
「大陸中央部を鉄道と河川でリングを作ればゾンビの掃討に弾みが付くと思うんだけど……」
マリアンさんの言葉に、マリアンさんに顔を向けて笑みを浮かべた。
互いに笑みを浮かべている俺達を見て、リッツ中佐が呆れているんだよなぁ。編成計画の話を中断してコーヒーを飲んでいる。
「ヤンクトンに新たな砦を作って後に陸上艦隊の編成帰るとなると、1個中隊規模の増援が必要に思えるのですが?」
「やはり増援は必要なのよねぇ……。2個小隊では無理かしら?」
「それだと、陸上艦隊の規模が小さくなってしまいますよ。ヘリはドローンで代替できるでしょうけど、砲撃力が足りなくなるようでは問題です。ダラスはかなり厄介な都市になりそうです」
ダラスだけではないからなぁ。テキサスには結構大きな都市があるんだよねぇ。
「リッツ、もう少し検討しないといけないようね。大都市を避けてヒューストンという手もあるけど、やはり無視することは出来ないでしょうね」
「サミー君。1つ考えて欲しいんだが、ヒューストンから1千km圏内での航空支援があるなら、大規模増援を必要とするかな?」
んっ! そういえばヒューストンの攻略時に飛行場を1つ手に入れていたな。
そこからの航空支援という事になるなら、燃料を機にすることもなさそうだ。
F14とA-10が数機あるなら十分な航空支援が期待できる。
「陸上艦隊への増援ではなく、クロード大佐への増援という事ですね。それなら俺の心配は無くなります」
「落とす爆弾は用意できるのかしら?」
「海賊達が、次々と運んでいるようです。さすがにヒューストンにはC-130を使った航空輸送になりますが、とりあえず100tも運べば十分でしょう」
Mk,81爆弾で数百というところか……。それだけあれば、デンバーから南進できそうだな。
「来春には、デンバーを発ちたいわね。夏はメキシコ湾でセーリングをしたいわ」
マリアンさんの前向きな話を聞いてリッツさんが溜息を漏らしている。
トップがそんな考えなら、末端の兵士も大喜びしそうだ。俺は泳げるけど、エディ達は泳げないんだよなぁ。良い機会だから泳げるようになると良いんだけどねぇ。
既に南進ルートはリッツさん達が幾通りも検討しているんだろうな。
個人的にはダラスを避けるか否かが興味あるところだ。
「さすがに夏には到着できないと思いますが?」
「あら? サミー君の言葉とも思えないわね。早めにヒューストンはケリを付けたいわ。ヒューストンを全て瓦礫に変えてもね」
今頃クロード大佐達が、それを遂行しているんだろうな。200mmの榴弾砲が2連装だからなぁ。最大射程が20kmもあるし、あれからだいぶ経っているからねぇ。ヒューストンに目ぼしい目標物が無くなっているんじゃないか。
「クロード大佐が頑張っているんですよね」
「たっぷりと砲撃をしているそうよ。砲撃を終えた区画はコイン機で手製のナパーム弾を落としているらしいわ」
嬉しそうに話しているんだけど、1つの大都市を潰したってことなんだよなぁ。
この先も有名な都市を破壊することになるんだろう。
かつての街並みはしっかりと記録されているのだろうか?
生存者の中には、そんな都市を故郷にしている人達もいるだろうからなぁ。単に潰すのではなく、その記念碑も考えると良いかもしれないな。
「リッツ、サミー君の意見でコースが決まるかしら?」
「航空支援を加味するということで、ダラス経由で計画書を再検討します」
リッツ中佐の言葉にマリアンさんがうんうんと頷いているけど、俺の意見でそうなったとも思えないんだよなぁ。
ほとんど決まっていた計画書を俺にリークしてくれたのかな?
「ところで……、双発セスナの水上機化を進めていたのですか?」
「ヒューストンの空港で整備兵達が頑張ってくれていたみたい。双発が3機。乗客が8人とのことだから200kg程度の手製ナパーム弾なら3発搭載出来るわ」
ダラスに北にある湖近くを借りの拠点にするんだろうな。
105mmと155mmの大砲もあるからねぇ。ヤンクトン市の砲撃は、その訓練になるのかもしれない。
「ダラスを破壊するとなると、小型のノイズマシンを10km先に運べるドローンが欲しいですね」
「海軍のドローンを改良させましょう。少し大きいからフクスに搭載出来ないかもしれないけど、フクスでカーゴを曳いていけば? 重量100kgは無かったはずよ」
後でリッツさんにドローンの仕様を教えて貰おう。
今使っているような多目的ドローンと同じように操縦できるなら、ジュリーさん達も喜ぶんじゃないかな。
・
・
・
テキサスから帰ると、オルバンさんをシグさんがテントに呼んだ。
ヤンクトン市のゾンビ掃討はレーヴァさん達が行うと説明すると、ちょっと驚いているんだよなぁ。
「我々は、控えということになるんでしょうね。地下施設となれば、少し装備を見直しておきましょう」
「お願いする。さすがに新人はドローン対応ということにして残しておこう」
シグさんの言葉にオルバンさんがしっかりと頷いているのは、まだまだゾンビ相手の近接戦闘は早いと思っているのだろう。地上戦なら一緒に出掛けても良いだろうけど、暗闇の地下施設では少し荷が重すぎるだろうからなぁ。




