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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-647 課題は2つだけど、その1つが大きんだよなぁ


 朝方の4時過ぎに砲撃を終えて、市内の状況を区域ごとに確認していく。

 ドローンでの目視結果と集音装置から得られたゾンビの声を確認するのだが、ドローン2機を使っても終わるまでに3時間近く掛かってしまった。

 歩く朝食を取ってジュリーさん達はキャンピングカーゴで仮眠を取り、俺達はフクスのベンチで横になる。

 シグさんに無理やりフクスに追いやられたんだけど、シグさんとクロムさんはマリアンさん達が来るまでは休まずに状況報告書を作るとのことだった。

 副官は苦労するということが良く分かる。

 とりあえず3時間程眠らせて貰おう……。


 体を揺すられて、目が覚めた。

 ベンチに横になったままで大きく体を伸ばして体を起こし、外した装備品を付けてキャビンを出る。

 指揮所にしているテントに向かうと、直ぐにコーヒーカップを渡されたのは、まだ眠そうな顔をしていたからかな?

 一口飲んでみると、途端に首が横を向く。

 そんな俺を見て笑みを浮かべているニコルさんは、同じコーヒーを飲んでいるんだろうか? そうだとしたら、味覚障害なのかもしれないな。角砂糖を2個入れて水筒の水で薄めることで、どうにか飲めるまでになった。


「いくら何でも、濃すぎませんか? 体を悪くしますよ」


「少し濃かったかもしれんが、朝はそれぐらいが丁度良い。水で薄めて飲んでいるのはサミーだけだぞ。それに砂糖を切らしたらどうするんだ?」


「しっかりと予備を用意してありますよ。出来れば2度目のコーヒーが良いですね。それなら俺でもどうにか飲めるんですけど」


「海兵隊は貧乏ではないぞ! パーコレーターで2度目の抽出等論外だ」


 シグさんの言葉に、とうとうニコルさんが大笑いを始めた。

 確かに貧乏くさい話なんだけど、嗜好品というだけあって個人差を尊重して欲しいんだよなぁ。


「ハハハ……。朝から笑ったのは久しぶりだね。サミー君の嗜好は分からなくはないんだけど、案外流れでそれを我慢する人が多いと聞いたことがあるな。それでクロム達が状況を纏めてくれたから、サミー君も1度読んでくれないか。朝方の通信では、陸上艦隊が動き出したそうだ。午後には到着することは間違いないからね」


「了解しました。報告に向かうのは俺だけでよろしいでしょうか?」


「そうだね。さすがに副官を休ませないといけないだろうな。私とサミー君。それにドレッド大尉で十分だろう。レーヴァ大尉達には引き続き橋を護って貰うよ」


 咥えタバコでノートパソコンに表示した報告書を読みながら、補足を朱記で記載していく。上手く纏められているんだよなぁ。俺にはこんな報告書を書くのは無理だと感心しながらどうにか読み終えた。


「課題がいくつかあるんだが……」


「大きくは2つ。1つはヤンクトン市の掃討を行う際に、まだ残っているゾンビの数が想定を上回ること。もう1つはダム湖北岸の地下に潜むゾンビの対処方法ですね」


 俺の言葉にニコルさんが小さく頷きながら溜息を吐く。


「最初の課題は、何とかなるだろう。始める前に航空支援を受ければ十分に思える。問題はその次だ。宗教団体の地下施設、弾道弾迎撃ミサイルの隠匿基地、さらには地下に設けた軍用発電所……。地表からは広がりが全く見えないんだよねぇ」


「少なくとも迎撃ミサイルの隠匿基地と軍用発電所は図面があるんじゃないでしょうか? さすがに統合作戦本部にも内緒ということはないように思いますけど」


「問い合わせてはいるんだが、返事が無いんよなぁ。あれば助かるんだけどねぇ」


「マリアンさんから再度依頼して貰いましょう」


 俺の言葉に笑みを浮かべる。マリアンさんだからなぁ。強引に手に入れようとするのが目に浮かぶんだろうな。


「国土が広く、そして何をするとしても他人に迷惑を掛けなければ、それを取り締まることもない……。そんな人達が結構いたんですね。俺もそんな米防衛機構の下部組織に助けられたんですが」


「そう卑下することはないよ。あの夏の終わりには、そんな民間組織がそれぞれの信念を持って動いてくれたことは確かだからね。そんな組織があることは分かっていたんだが、連絡を取ろうとしなかったことを今でも悔やんでいるよ。だが、民間防衛組織なら大きな問題はないだろう。運よく残った民間組織が中心となって、自警団を組織しているよ。さすがに軍の管轄下に置いているけど、宗教団体はねぇ……」


 現代の十字軍を組織しようなんて考えないのかな?

 アメリカにはキリスト教徒以外の宗教を信じている人達がいるようだから、教団の人達も動けないのかな? 大統領夫人の話では教会にやってくる人達が増えていると言っていたから、この騒ぎで宗教に目覚めた人達も多いに違いない。


「中にはテロを計画するような教団もいたんだ。とはいえ計画だけではねぇ。厳重注意で終わってしまうだろうし、そんなことをしたなら隠れてしまうからなぁ。それに弾圧は殉教になりかねないからねぇ。取り締まりが難しいと聞いたことがあるよ」


「とは言っても、ゾンビの巣窟になっているようでは困ります。終末思想を持ち、それを乗り越えようとする財力があった教団の本拠地やコロニーを調査した方が良いのかもしれません」


「終末思想はキリスト教だけではないんだよねぇ。確か仏教もそうなんじゃなかったかい?」


「そうですよ。でも最後の審判はありません。56億7千万年の後に次の仏が現れて俺達を救ってくれることになっていますからね」


「いやに具体的だね。でもそんなに長生きは出来ないから私達は救われないのかな?」


「魂を救ってくれるんだと思いますよ。最後の審判はありませんから、皆で天国に行けるはずです」


 俺の話を聞いて笑みを浮かべる。

 そんな宗教を信じていても戦をするんだからねぇ。まったくもって人間は業の深い存在だ。


「日本人は特定の宗教を持たないと聞いたことがあるんだが?」


「なんでも取り入れる性格なんでしょうね。クリスマスやハロインまで祝いますよ。もっともお祭りとして俺達は感じているでしょうね。深い意味を理解しないで騒ぐんですから」


「スイート・イズ・ジャスティス……だったかな。オリー博士が。サミー君をそう評していたよ。それも面白い話だね。サミー君がクリスマスを楽しみにする理由だと聞いてリッツが目を丸くしていたよ。人様々ということが良く分かる話だし、皆がサミー君に親しみを持つ理由はそれなんだろうね」


 座右の銘として石に彫り込み、山小屋の入り口に転がしておこうかな。

 案外、頷いてくれる人もいると思うんだけどなぁ。


昼過ぎに俺達にレーションを配ってくれたジュリーさんが、陸上艦隊の様子を教えてくれた。

どうやら50kmほどまでに近付いているらしい。

大部隊のコンボイだからなぁ。1時間では到着できないかもしれないな。


「受け入れ態勢は出来ているんでしょうか?」


「抜かりなく副官が行っているよ。此処に寄らず、真っ直ぐ後方に向かったらしい。シグ中尉も一緒だ」


 ちゃんと食事を取っているのかな?

 ちょっと心配になってきたが、そこは軍人ということなんだろう。1食抜く位なら問題ないだろうし、少し遅れてもジュリーさんがちゃんと準備しておくに違いない。


 そんな心配をしている俺の所にジュリーさんが駆けてきた。

 息を調えながら報告してくれたのは、一足先に俺達をテキサスへと周到させるための迎えを出したらしい。


「やはり詳しい話を早く知りたいということだろうね。私から副官達に連絡をしておきます。後の指揮はレーヴァ大尉に任せるよ」


 レーヴァさんなら、問題は無さそうだ。将来は特殊部隊の指揮官になるんじゃないかな。実績はしっかりと積んでいるし、奥さんはレディさんだからねぇ。前線指揮官として活躍してくれるに違いない。


 レーションを食べ終えてコーヒーを飲んでいると、遠くからエンジン音が聞こえてきた。

 どうやら迎えが来たらしい。

 少し離れた場所に車を止めたらしく、エディとニックが1人の士官を案内してくれた。


「ニコル中佐とサミー大尉でしょうか? マリアン少将からの招集指示がありました。私と同行願います」


「了解だ。直ぐに向かうよ」


 そう言って立ち上がる中佐を見て急いでバッグを持って席を立つ。さすがにマーリンを持って行かなくとも良いだろう。サイドアームのパイソンを下げているからね。

 足早に車へと向かう士官を小走りで追いかける。

 止まっていたのはハンヴィーだな。エンジンは掛けたままだったようだ。

 後部座席の乗り込むと助手席に乗り込んだ士官が出発を運転席の兵士に告げる。

 直ぐに動き出したハンヴィーから、ストライカーの屋根に乗ってメガホンで指示を出しているシグさんの姿が見えた。

 100台近い車両だからなぁ。かなり大きな空き地を用意しないといけないだろう。


 やがて見えてきた巨大な陸上艦がテキサスの雄姿だ。

 2階から下ろされたタラップにハンヴィーが近づくと、停止することなく下ろされたラップに飛び乗ることになった。

 スリルを感じるには少し速度が遅いんだけど、ニコルさんはちょっと尻込みしてるんだよなぁ。

 それでもどうにか飛び乗ると2階のテラスに上がり、中に入って3階に繋がる階段を上る。

 指揮所の大きなテーブルに着いていたマリアンさんに俺達が敬礼をして到着を告げると、答礼の後に笑みを浮かべて席に着くよう促してくれた。


「やはりサミー君は頼りになるわね。報告はニコルにお願いするわ」


 椅子を引く音がしたので隣を見ると、オリーさんが俺の隣に腰を下ろしている。サンディーは自分達のブースにいるみたいだな。何か一生懸命にキーボードを叩いているんだけど、オリーさんは手伝わなくて良いんだろうか?


「それでは……」


 カバンからノートパソコンを取り出したニコルさんが、テキサスのネットに繋ぐと大型モニターに画像を表示させながら状況説明を始めた。

 マリアンさんの隣でリッツ中佐も厳しい視線をモニターに向けている。何となく次は私だと言いたい表情をしているんだよね。


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