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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
642/688

H-642 ジャックに集まるゾンビの数がかなり多い


 州道15号線を北上し、ウエイン町の手前1kmほどを左に曲がって砂利道を進む。

 見渡す限り、雑草に覆われたかつての農園だ。

 西に20kmほど農道を進めばノーフォーク市からヤンクトン市に延びる国道81号線に到達する。北に進路を取り、50km先にあるのがヤンクトン市だ。


「後は真直ぐ北上するだけだな。2時間も掛かるまい。時刻は8時を過ているが、トマホークの着弾予定時刻は0900時だ。少し手前で一時停車して炸裂の巻き添えにならんようにするぞ」


「橋の手前10km程度で良いでしょう。レーヴァさん達への連絡をお願いしますよ」


 ハッチのガンポートから周囲眺めるのを止めて、テーブルに広げられた地図に視線を移す。

 GPS誘導ということだから、道路に着弾することはないだろうけど、なるべく危険は避けた方が良いだろう。

 今日これから行うのは、橋の手前の林焼き払う事と、ヤンクトンのジャックを仕掛けて様子を見ることだからなぁ。日暮れまでに終わらせるには十分な時間がある。


 トマホーク着弾予定時刻の20分前に車列が止まる。

 シグさんがカウントダウン始めて、「ゼロ!」を告げた時、前方に紅蓮の炎が現れた。

 数本のトマホークの弾頭はサーモバリック弾だからだろう。ナパーム弾とは違って広範囲に炎が広がりキノコ雲まで上がるんだからなぁ。


「森林火災を引き起こしてくれたから、レーヴァ大尉達の仕事が少し楽になったかもしれんな」


 俺と一緒にキャビンのモニターで着弾の様子を眺めていたシグさんが呟いた。

 確かに燃えてはいるんだけど、思った程ではないんだよなぁ。

 元々の開発目的が、ジャングルにヘリポートを作るためだと聞いたことがある。火災は副次的なもので、着弾地点の林は綺麗に吹き飛んでいるのかもしれないな。

 倒された木々を燃やすのは案外手間かもしれないぞ。



「出発は0915時、それまで様子を見ましょう」


「了解だ。連絡するぞ!」


 温くなったコーヒーを飲みながら、もう1本タバコに火を点ける。

 周囲は荒地が広がっているだけだ。すっかり雑草に覆われてしまっているけど、丈の短い雑草だからゾンビが接近したなら直ぐに見つけられるだろうし、集音装置から得られた音声スペクトルを見ても、ゾンビの声はバックグラウンドに埋もれたままだ。


 前進時刻になったところで再び車列が動きだした。

 目的地まで10kmだからなぁ。直ぐに到着するだろう。

 ゆっくりした速度で国道を北上する。左右の林の奥はまだ燃えているけど、道路近くの木々は被害を免れているようだ。これを燃やすのがレーヴァさん達の役目という事なんだろう。


「見えてきたぞ! あれが目的の橋だ」


「結構立派な橋ですねぇ。陸上艦隊で通れないのはテキサスのような大型車両だけという事なんでしょうけど……」


 向こう岸まで200m程ありそうだな。

 車列が止まったところで、素早く集音装置でゾンビの声を聞く……。

 聞こえるのは前方だけだ。とはいえかなり距離が離れているから向こう岸の市内からという事なんだろう。道路の左右、後方共にゾンビの声は聞こえてこない。


「周囲にゾンビは確認できません。作業を開始しましょう!」


「了解! ……こちら3号車。周囲にゾンビはいない。作戦を開始する。繰り返す……」


 シグさんがトランシーバーで作戦開始を告げると、ジュリーさんがヘッドセットを使いながら慌ただしく4号車とドローン発進の準備を始めた。

 ガンポートから動くものを見たので近寄って外を覗くと、ゲームで良く使ったことがあるロケットランチャーを担いでいく兵士の姿が見えた。

 あれで焼くのか! エリアボスを倒すのによく使っていたけど、現物もあるんだな。


「ロケットランチャーを担いで後方に移動していましたよ。威力の程度は分りませんが、ゲームではよく使っていたんですよねぇ」


「今までは倉庫で埃をかぶっていた代物だ。私はゲームをしたことが無いんだが、あんな兵器を使って行うのか?」


 しばらくすることが無いから、シグさんに昔エディ達と遊んでいたゾンビゲームの話をする。

 結構真剣に聞いているんだよなぁ。やりたいのかな?


「レディがサミー達には下地があったと言っていたが、そう言う事だったのか……。案外使えるかもしれんな。射撃にしても軍では腹を狙うよう指導する。だがゲームではヘッドショットという事なんだな……」


 ゲーム開発者の思惑なんだろうけどね。ゾンビは腹を数発撃っても倒れない時があるからなぁ。だけどヘッドショットならほとんど1発で倒せる。そんな仕様だから、ショットガンを使うのが盛んなんだよねぇ。


「今でもそのゲームを手に入れることは出来るのだろうか?」


「結構メジャーなゲームでしたから、玩具店には置いてあると思いますよ。デンバー空港に戻ったら空港内のショッピングモールを探せば案外見つかると思います」


「訓練用に1式確保しよう。使えそうならペンデルトンに具申して、新兵訓練に取り入れることも出来そうだ」


 後でレディさんに小言を言われそうだな。

 だけど、ゾンビを前にしてライフルをオートで連発するような事態を避けることが出来るかもしれない。

 オートで銃弾を発射したなら、マガジン内の30発は3秒も持たずに撃ち尽くしてしまうからなぁ。


「ドローンを発進させた! 直ぐに2号機も発信する!」


「了解。ジャックの設置位置は事前に伝えている通りだ。……これが市街の状況か。火災も起きているようだが、設置位置に問題は無いだろう」


「十字路の真ん中だからね。場合によっては少し位置を変えるけど、十字路内での移動に留めるつもり……」


 ドローンが写しだした市街の画像には、所々で黒煙が上がっている。まだ距離があるから破壊の状況は良く分からないけど2発撃ち込んでくれたなら、それなりに効果はあったに違いない。

 建物に閉じこもっていたゾンビが通りに出てくれたなら、進化したゾンビが案外見つかるかもしれないな。


 ドローンが市街中心部へと進んでいく。

 サーモバリック弾によって破壊された建物から着弾点が推定できるな。まるで押しつぶされたような建物の周囲には横から殴られたように破壊された建物が広がっていた。


「サーモバリックの効果は色々と風評が立っているが、本来は爆圧での破壊が目的だ。そういう意味では市街地への攻撃は効果的ではあるのだが……」


「人道的ではないという事なんでしょうね。ですが今はそれを使えることに感謝しましょう。通常爆弾よりも効果がありそうです」


 ここまで破壊出来たなら、次はナパーム弾を落として欲しいところなんだけどね。

 でも明日には、自走砲部隊が到着するからなぁ。

 砲弾は焼夷弾を多用するんじゃないか。


「2つを仕掛け終えた! 次のジャックを仕掛けるよ。ジャックの作動は1番が1000時、その後30分間隔でジャックが動き出す」


「予定通りだな。……エディ! 周辺の状況は?」


 シグさんがトランシーバーでエディを呼び出すと、すぐにエディから返事が返ってきた。

 ロケットランチャーを使っての林の焼却はだいぶ進んでいるらしい。

 上手い具合に北西の風だから煙に巻き込まれないで済んでいるようだ。


『……今のところは煙に巻き込まれずに済んでいますが、風向きが変わったなら車を移動する必要があるでしょう。レーヴァさん達もその辺りは心得ていると思いますから、その時は連絡してください』

 

 どうやらエディは屋根に上っているようだ。運転席に歯ニックが待機しているんだろう。

 サブの小さなモニターでフクスの周囲を眺めると、確かに道路付近には煙はきていないが、東の林からは黒煙が長く南東方向に延びている。


「明日も燃えているようなら、自走砲の展開が難しくないですか?」


「これぐらいなら問題あるまい。それに黒煙を上げていなければマスクを付けるだけで行動可能だろう」


 煙を吸着するフィルターってあるんだろうか?

 消防士は背中にボンベを背負って行動してるんだよなぁ。

 それを考えると、そんな便利なマスクは無いように思えるんだけどねぇ……。


 最初に仕掛けたジャックの上空500mにドローンが静止し、集まってくるゾンビの映像を送ってくる。

 画像はテキサスにある研究所の専用ブースにも届けられているから、今頃はオリーさん達もこの映像に見入っている筈だ。


「やはり多くないか?」


「ですね……。このまま推移したなら100体を大幅に上回りそうです。下手に刺激をしたならラッシュが起こりかねませんね」


「ジャックは問題ないという事か?」


「ジャックなら、その場にゾンビが集まるだけです。次のジャックに向って動き出すことも考えられますけど、仕掛けた場所が場所ですからねぇ。半径500m程に4つ、動作は時計周りですから、動き出しても元に戻りますよ」


 状況的に問題があるとするなら、橋に柵を設ける時だ。あまり騒音を出すと橋の北側から押し寄せてこないとも限らない。

 面倒でも人力で乗り捨ててある車両を動かさないといけないだろうけど、軍には力自慢が多いからなぁ。案外短時間に終わりそうにも思える。

 ドローンが高度を落として集まって来たゾンビを拡大してくれる。モニター画像の拡大ではなくカメラに映る姿そのものが拡大されるから、ゾンビの詳細が分かってきた。


「ショットガン持ちのゾンビは、最初に見つけたゾンビと同じですね。爪の長いタイプがいないのは別に集団を作っているのかもしれません。それと、あの目はだいぶ大きいですよねぇ……」


「元が人間であるなら、眼球は頭骨の眼窪に収まる大きさであったはずだが、あれではほとんど左右の目が繋がりそうだな。既に骨格も人間の骨格ではなくなっている可能性があるということなんだろう」


 虹色に光る眼は複眼だろうな。濁った眼でものを見ることが出来ないからか、ゾンビの一部には額に新たな複眼を設ける者もあるんだが、ここのゾンビはかつての眼球を複眼に変えたようだ。


「衣服はボロボロだな。化学繊維であっても劣化はするだろうし、良く見るとゾンビは夏服のままだ。中にはスーツを着ている者もいるようだが、ゾンビは寒さに強いわけではないんだろう?」


「低温では活動を休止するみたいです。冬眠ということなんでしょうけど、活動できる温度は良く分かっていないようです」


 メデューサの体液が凍り付いたなら、果たしてメデューサは死滅するのだろうか?

 そうだとすれば、アラスカにゾンビは殆どいないことになる。

 アラスカには生存者救出目的で1度軍を派遣しているけど、あれから調査は行われていないんだよなぁ。

 これも考えておいた方が良さそうだ。


「爆発2分前! 2つ目のジャックに移動するよ」


 ジュリーさんが操縦者に指示を出す。

 モニターの映し出されていたゾンビがどんどんと離れていく。

 初期の高度に戻ったところで、今度は左手に向って移動し始めた。


「やはり、100体を遥かに超えているぞ。150体をも超えている感じだな」


「オリーさんの助手が画像解析をしてくれるでしょうから、後で確認してみましょう。とりあえずレーヴァさん達には橋の上での作業時にはしっかりと北を見張るよう伝えておけば十分かと……」


 注意を逸らすために、ハンタードローンを使って統率狩りを行っても良さそうだ。

 集まってきたゾンビでは確認できなかったが、しっかりした統率型ゾンビや戦士型ゾンビの声が聞こえてきたからなぁ。

 


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