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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-641 完璧は結果論


 ヤンクトン市はピルガーの町から北北西およそ150kmほどにあるミズーリ川の北岸に作られた小さな市だ。

 市街地の大きさは東西約2km、南北4km程なんだけど、国道は通っているし鉄道もある。少し東に向えば州間高速道路もあるし、ミズーリ川を使った荷役も出来るんだよなぁ。

 マリアンさんの目の付け所に感心してしまうけど、本人達はミズーリ川の渡河地点を探している内にヤンクトン市を見付けたらしい。ヤンクトン市の西にあるダムの堰堤を使って渡河しようと考えたようだけど、発電設備のある建物を壊すことになるので諦めたらしい。

 インフラをなるべく破壊したくはないとの思惑だろう。

 ヤンクトン市からゾンビを駆逐した後で、騎兵隊に防衛を任せてデンバーに戻るとのことだが、上手く後任を託せる部隊が出来ていれば良いんだけどねぇ……。


 昼過ぎにテキサスの指揮所に向かうと、リッツさんとニコルさんが席に着いていた。ニコルさんの隣の人物は、デストロイ部隊の砲兵部隊を指揮するドレッド大尉とストライカー部隊を指揮するアネット大尉だ。

 あまり顔を合わせない人物なんだけど、今日は先行部隊の編成だからなぁ。出来れば俺ではなくレーヴァさんに一任したかったんだけどねぇ……。

 更に2人がテーブルに着いたところで、リッツ中佐が会議開催を告げる。


 最初はリッツ中佐が作戦概要を説明してくれた。

 やはり先行部隊に俺達は入るようだ。俺達以外に、レーヴァさんの部隊から1個分隊。それにデストロイ部隊のストライカーが2両だから1個分隊だな。

 都合6両で先行するんだが、俺達の使命は2つあるようだ。


「サミー大尉の部隊でヤンクトン市の状況調査を行い、ファウンドドッグとデストロイの2個分隊で国道81号線のミズーリ川に架かる橋の南岸に広がる林を焼いて欲しい。橋の手前にあるモーターキャンプ場は海軍のトマホークで破壊するが、サーモバリック弾2発だ。ゾンビを全て倒せるとは思えんから、キャンプ場には注意してくれ……」


焼夷弾を迫撃砲で放つのかと思っていると、どうやら使えそうな兵器を用意してくれたらしい。

 4連装の小型ミサイルランチャーなんだけど、600ccほど充填された燃焼剤は空気に触れると発火するとのことだ。1200℃もの高温になるらしいから結構使えるかもしれないな。20年以上前に作られたビンテージものらしいけど、使えるなら問題は無さそうだ。


「ストライカーに2門ずつ搭載する。再発射は4発が装填されたクリップを交換するだけだ。クリップは3個搭載してくれ」


「林の火災が直ぐに収まるとは思えんのだが?」


 レーヴァさんの問いに、リッツさんが小さく頷いた。


「第2陣の出撃は第1部隊出発の24時間後だ。1日あれば火災はおちつくだろう。それに自走砲の展開は道路沿いであって林ではない。林を焼却するのはゾンビの発見を容易にするために行うものだ」


 見通しを良くするという事か。

 それなら砲兵隊も安心して砲弾を放てるだろうし、周囲を巡回する兵士も接近したゾンビの発見するのは容易だろう。


「先行する我々の目的は、国道左右の林を焼く事に、ヤンクトン市のゾンビの状況を確認する事、それと橋に簡易な柵を設ける事の3つですね?」


「そうだ。ただしヤンクトン市の状況確認は、深夜に再度行って欲しい」


 24時間体制で通信兵をトランシーバーの前に張り付けておくと話を続けてくれたけど、それは進行状況を適宜知らせる様にとのことなんだろうな。


「第2陣はホークアイが16両、それにM777が4門だ。M777はストライカーが牽引する。輸送トラックは弾薬運販社を含めて5両、砲兵指揮車両と補助車両が2両になる。第2陣の指揮は自走砲部隊指揮官であるドレッド大尉にお願いする。部隊間の通信はこのチャンネルを使ってくれ……」


「逸話は色々と聴いておりますぞ。頼りにさせて貰います」


「若輩も良いところですから、御指導方よろしくお願いします」


 ドレッド大尉は、見るからに軍人という風貌なんだよなぁ。カイゼルひげが良くにあっれるんだよねぇ。砲兵という科目に誇りを持っている感じがする御仁だ。


「トラック3台分の砲弾は全て使っても大丈夫よ。足りなければ追加で輸送するわ。それに第2陣出発の48時間後には我々も移動を始めるわよ」


「1つよろしいですか?」


 マリアンさんに視線を向けると、笑みを浮かべて頷いてくれた。


「ノーフォーク市と同様に、想定をはるかに超えるゾンビがいないとも限りません。到着したなら直ぐにジャックを仕掛けてみますが、集まってくるゾンビが100体を超えるようであれば……、サーモバリック弾を市の中心部に何発か撃ち込んで欲しいのですが」


「慎重ね……。既に対応出来ているわ。ワシントン市の東のチェサピーク湾に停泊しているイージス艦がトマホークを3発発射するわ」


「そこまでしなくとも……、と言ったのですが。やはりその危険性はあり得ると?」


 リッツさんが俺に視線を向けて問い掛けてきた。


「根が臆病者ですから、物事を悪い方向に考えることが多いんです。2度あることは3度あるとも言いますから、備えだけはしておいた方が良いと考えた次第です」


「ハハハ……。失礼。逸話の持ち主とは思えない発言ですな。あの夏の日から部隊を率いていまだに死傷者を出さずに結果を残してきたのは、それが原因ということでしょうか。軍人は勇を持てと教えられましたが、臆病であれと囁いてくれた上官もおりました。当時は何を言っているのか分かりませんでしたが、あの惨劇を目にしてはっきりと自覚出来ましたぞ。臆病であれば、備えを考えることが出来る。部隊に目を向けることが出来る……」


 そうなのかな? その辺りは良く分からないけど、マリアンさんが笑みを浮かべて頷いているんだよなぁ。

 マリアンさんなら、臆病者と言われたら烈火のごとく怒りだす気がするんだけどねぇ。


「臆病という言葉が良くないのかもね。敵対する者に対して侮らない心と言った方が良いのかもしれないわ。私もサミー君と一緒で海軍では臆病者なのよねぇ」


 マリアンさんの言葉にリッツ中佐が呆れた顔をしてるんだよなぁ。

 話が横道に逸れ始めたから、ナタリーがコーヒーカップを乗せてトレイを持って俺達にコーヒーを配ってくれた。

 笑みを浮かべて小さく頷きながら受け取ると、笑みを返してくれる。

 中々良いお嬢さんになって来たなぁ。エンリケさんがさぞかし心配しているに違いない。


「これでサミー君の心配は無くなったかしら?」


「問題ありません。とはいえ、完璧とは言いませんよ。それは結果論であって事前に確認できるものではありませんから」


「リッツ、これがサミー君なの。まったく思考が違うんだから面白いわよねぇ」


「私はパーフェクトだと思っているのですが……」


「私もリッツ中佐と同じ考えでいるんだけど、サミー君の言うことも分かるのよねぇ。たぶんその違いは戦術と戦略を区分しているのかもしれないわ。私達が考えるのは戦略であって、サミー君は戦術を考えているという事かしら。その最大の違いは我々なら想定される外乱を全て作戦に盛り込むことで作戦を仕上げるでしょう。その結果を一言で言うならパーフェクトということなんでしょうけど、サミー君の場合は想定外の想定外があり得るという考えを持っているみたいね。それで完璧は結果論だ言うことになるわけなんでしょうけど……」


「我等は神ではないという事でしょうか?」


「サミー君はそれを自覚しているみたい。キリスト教徒ではないんだけど、彼と神について話すと結構面白いわよ」


 多神教徒だからなぁ。面白いと言われるのは心外だけど、異端者呼ばわりされるよりは良いのかもしれないな。


「後は無いかしら?」


「私から1つ。以前ストライカーにハイドラランチャーを取り付けるとのアイデアがありましたが、その後何か進展はあるのでしょうか?」


「あれね! 統合作戦本部に対応をお願いしたらあちこちの戦線から反響があったみたい。さすがにハイドラを使うのは牛刀ということで、小型のロケットランチャーを本部の方で考えることにしたみたい。今年中に試作品は手に入らないと思うけど、次の長征にはストライカーに取り付けられるんじゃないかしら。今回も必要性があると考えているんでしょうけど、しばらくはグレネードランチャーで我慢して頂戴」


「よろしくお願いします」と言いながら頷いているところを見ると、今回は我慢できるということなんだろう。

 代替はクレイモアを使うんじゃないかな。

 囲まれた時の脱出路確保が目的だから、代替手段は案外色々とありそうだ。


「作戦開始日時は、まだ決まらないんでしょうか?」


「そうねぇ……。明後日はどうかしら? 既に準備は整っているんでしょうけどね。明後日11月3日の0600時が作戦開始時刻よ」


「「「了解です!」」」


 明日でも良かったんだが、明日は体を休めるようにとのマリアンさんの心使いなんだろうな。

 今夜再度準備状況を確認しておけば十分だろう。

 

 指揮所からフクスに戻ると、直ぐにオルバンさん達が集まってくる。

 シグさんが出発は明後日の朝6時だと告げると、エディ達の顔色が優れないんだよなぁ。

 何時も時間ギリギリまで寝ているからねぇ。シグさんに無理やり起こされるに違いない。


「準備は全て整っています。出発の朝はさすがに朝食が取れませんね。昼食と一緒に食堂の小母さんに頼んでおきます」


「そうしてくれ。朝食、昼食共に車内で食べることになりそうだ。さすがに夕食はフクスを出て食べたいところだな。マリアン少将もゾンビが多いと推測しているようだ。サミーが周辺のゾンビの状況を探るだろうが、場合によっては夕食が携帯食になりかねん」」


「携帯食は1ダースを各車両に搭載してあります。しばらくカロリーバーは食べていませんでしたから、我等のバッグにも入っていますよ」


 1食分ではなく2食分も入っているんだよね。食べ応えが無いから、追加で齧ろうと皆も入れているんじゃないかな。

 後は飲料水だけど、これは18ℓ容器を各車両に2つ搭載知っているし、個人持ちの水筒には当日の朝に水を入れておけば良い。


 夕食が済むと、コーヒーを飲みながら地図を眺める。

 ジャックをどこに設置するか、案外迷うんだよね。今回は最初から4つ使うつもりだ。それだけ状況を詳しく調べられるし、夜間に仕掛けるジャックと合わせて確認すれば、ゾンビの種別を把握することが出来るだろう。

 


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