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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-637 ショットガンを持つゾンビがいると思っていたんだが


 ピルガー町の南に到着して5日目の朝。エルクホーン川に架かる橋を渡ってピルガー町に向かう。

 町の南西は際にある十字路手前でフクスが停まり、先行していたレーヴァさん達のストライカーが2tカーゴを曳いて十字路を左折して行った。

 500m程砂利道を進むと河原に出る道があるらしいんだが、地図には記載されていないんだよなぁ。衛星写真で見ると道が見えるということは曲がり角にある建物の私道なのかもしれない。

 私道でもテキサスが通れるなら問題は無いし、『ここは俺の土地だ!』なんて銃を向ける住人もいないだろう。


「さて、俺達はここで車を降りますよ。ジュリーさん達はここで俺達のバックアップをお願いします。デストロイ部隊から1班が護衛についてくれますからキャビンから出なければ安全です。……オリーさんも、ここにいてくださいね」

 

 ショットガンを銃架から外していたオリーさんにしっかりと注意しておく。苦笑いを浮かべてベンチに腰を下ろしてくれたんだが、油断はできないな。たまにフクス内にいるかどうか確認した方が良さそうだ。


「4号車はオルバン達3人で十分だろう。3号車の運転はジュリーに任せれば良い。我等の脚はデストロイのストライカーになる。道路に停めて支援をして貰うぞ」


「十分です。俺達4人と、デストロイの1班で掃討を進めましょう」


 ほとんどの建物を破壊したからなぁ。残ったのは雑貨屋だけだ。その建物内部のゾンビを倒したなら、後は瓦礫の下でまだ動いているゾンビだけになる。

 綺麗に区画された町だから、1区画ずつ確実にゾンビを掃討して行こう。


 装備を調えてフクスの外で待っていると、ストライカーが後方かやって来た。俺達の傍に止まると、周囲をポリカーボネイトの板で覆った砲塔から軍曹が俺達に向かって敬礼をとる。

 俺とシグさんが答礼をすると笑みを浮かべて後方に腕を伸ばした。


「デストロイ所属のバートンです。キャビンに4人いますが、4人なら十分乗れるでしょう」


「助かる。だが軍曹以外に常時2人屋根で周辺監視をしてくれ。発砲は軍曹に判断に任せるぞ。だがグレネード弾10発は我等の要請で即応できる状況でいてほしい」


「了解しました。交代で周囲を見張らせます」


 シグさんが軍曹にトランシーバーのチャンネルを共通チャンネルにするよう指示を出したところで、ストライカーの後方に移動してキャビンに入る。

 キャビン上部のハッチを開けて2人が屋根に移動しているから、中はゆったりだな。俺も屋根に上るか。集音装置で探れば直ぐにキャビンからシグさん達を出せるだろう。


「屋根に移動するのか?」


「ああ、周囲の状況が分かるからね。シグさん、ジュリーさんと連絡を密にしてくださいよ。耳で聞くよりも目で確認する方が状況は正確ですからね」


「了解だ。……軍曹、出発してくれ。右に曲がって最初の焼け跡で止めて欲しい」


 ストライカーがゆっくりと動きだす。

 振り落とされないように、屋根の補強パイプを握っていたんだけど、自転車ほどの速度だからなぁ。座っていれば十分に思える。


 50mも走らずにストライカーが停まった。

 周囲を集音装置で確認したが道路右手の家の焼け跡からはゾンビの声が聞こえてこない。

 その先と左手の焼け跡に体を向けた時だった。微かにゾンビの声が聞こえる……。

 

「右手は1つ先までゾンビはいませんね。茂木手の2軒目の焼け跡から声がします。通常型ですが声が途切れ途切れ……、復活されると厄介ですから、確実に倒しておきましょう」


「了解だ。ニックとエディで右手の2つを再確認してくれ。ゾンビが倒れているようなら、この焼夷手榴弾で焼いて欲しい」


「焼夷手榴弾なら、俺達も持っていますよ。それでは行ってきます!」


 エディ達が元気に屋根から飛び降りた。

 銃を構えながら焼け跡に近付いて行く様子を眺めて、俺達も右手に向かうことにする。

 俺達が屋根から降りたから、キャビンにいた兵士が屋根に上り周囲に目を凝らす。

 上空にもドローンがいるからねぇ。ゾンビに不意を突かれることはないだろう・


「この奥からなんですが……」


 焼け跡を丹念に集音装置でゾンビの声を確認してゾンビのいる場所を探す。

 普段なら動いているから直ぐに分かるんだけど、途切れ途切れに聞こえる声は案外小さいだよねぇ。

 だが間違いなく通常型ゾンビの声だ。

 半ば炭化した柱や家具が積み重なっている一角に腕を伸ばすと、シグさんがどこからか見付けてきた棒で残骸を崩し始めた。

 

「俺がやりますよ。シグさんはバックアップをお願いします!」

 

 金属棒を持っているのも都合が良い。

 少し重そうな家具を棒を使って横にずらしていると、いきなりシグさんが銃を構えて残骸に撃ち込んだ。


「いたぞ。腹から杭が突き出していたが、唸っていたからなぁ。とりあえず終了だ。他にはいないんだな?」


「1体だけですね。これですか……。片手をショットガンにはしていませんね……」


 あのゾンビは何処から来たんだろう? 

 この町から移動したなら、浅瀬を渡るか橋を渡るかしか無いんだけどねぇ。そんな動きは無かったから、西の方から来たのかもしれないな。

 ゾンビの狩りについて調べる必要もありそうだ。


『瓦礫の下にいたゾンビを始末した。そんなゾンビが他にもいるだろう。銃撃したならそちらにも連絡するよ……』


 シグさんがトランシーバーで誰かと話をしている。さっきの銃声を聞いて問い合わせて来たんだろう。

 一応、サプレッサーは付けてはいるんだけどねぇ……。


「音の出ないライフルなんて無いからなぁ。音速を超える銃弾速度を低下さえるなら少しはマシかもしれんが、それでは長距離射撃も出来ん」


「音を無くすなら、エアガンを使えば良いんでしょうけどねぇ。威力は拳銃より劣りそうですし、セミオートでの射撃も出来ないでしょうね」


「サミーは弓も得意だったな。次の休暇を取る機会に、弓を持参して置いてくれ。私もクロスボウを幾つか用意しておこう」


「クロスボウなら全員が持っているはずです。ヒューストンでの石油プラント内では銃が使えませんでした」


 シグさんが俺の言葉に、ちょっと驚いているようだ。目を大きくしたからね。

 直ぐに小さく頷いているところを見ると、石油プラントで銃を使えなかった理由が理解できたんだろう。


「なら私の分だけ用意しておこう。ジュリー達もそれなりの腕を持っているということだな?」


「30m程度の距離なら問題はないでしょう。でも積極的に使うのはどうかと……」


 銃が使えるなら、無理に弓を使う必要もないだろう。

 だけど2,3丁を用意しておくのは賛成だな。


 シグさんと雑談をしながら、通りの左手を俺達が担当する。エディ達は右手だけど、たまに銃声が聞こえるだけだ。

 その都度確認をするんだが、エディ達は棒で突いて少しでも動くなら頭部に銃弾を撃ち込んでいるみたいだ。

 たまに動かないゾンビにまで撃ち込んでいるみたいだけど、オーバーキルなら問題はない。



 街並みが過ぎてT字路に出ると、東は何処までも続く荒地だ。

 かつては良い農場だったんだろうけど、数年過ぎるとこれほどに荒れるんだなぁ。再び農業を始めるにはこの荒地を改めて開拓することになることを思うと、気が滅入ってくる。


 スタライカーを背にして、コーヒーブレイクを取る。

 1日を通してのゾンビの駆逐だから、士気を保つのも士官の務めとシグさんが教えてくれた。

 パーコレーターで作るコーヒーは俺には少し濃いんだよなぁ。

 シェラカップに半分ほど注いで貰って、水筒の水で薄めて飲む。


「相変わらずだなぁ。少しは濃いのを飲めると思っていたんだが」


「カップの底が見えるぐらいが理想だね。それに甘味があるならカップの中に天国が見えるよ」


 そんな雑談に、皆が顔をほころばせる。

 コーヒーは個人の好みがかなり大きいからなぁ。今飲んでいるコーヒーだってエディ達には少し不満があるのだろう。それぞれの好みで雑談が始まるのはいつものことだ。

 夕暮れが迫って来たところで、掃討を中断しエルクホーン川に掛かる橋を渡って昨夜と同じ場所に戻って来た。

 夕食の準備が始まる中、士官達が集まり状況を確認する。

 ピルガー町のゾンビ掃討はシグさんが報告してくれたから、俺はレーヴァさん達の伐採の状況をじっくりと聴くことが出来た。案外レーヴァさん達の方も上手くいっているようだな。


「明日で何とかなりそうですね。町の方も同様ですから、今夜テキサスに連連絡を入れたなら明後日にはこちらに向かうかもしれませんね」


「距離的には1日も掛からないだろう。次はヤンクトン市だな」


「たぶん再び先行偵察を仰せつかりそうに思うんですが、ヤンクトン市は少し面倒ですよ」


 地図をテーブルに広げると、俺の危惧を言葉にする。


「ヤンクトン市から81号線を南に下がると、ノーフォーク市です。50号線で川伝いに東に向えばヴァーミリオン市。北東のスーフォールズ市もかなりの規模ですからね」


 スーフォールズ市までは120kmほど距離が離れているけど、ノーフォーク市とスーフォールズ市までの距離は50kmほどだ。

 ヤンクトン市の奪回に時間をかけていると、3方向からゾンビが押し寄せかねないんだよなぁ。


「運よくピルガ―には統率型はいませんでしたし、ショットガンモドキを持つゾンビもいませんでした。元々住んでいた住民の数が少なければゾンビの進化速度は遅いということになるんでしょう。エルクホーン川を渡河するのは、前例から推測すると日中一杯は掛かりそうです。随伴する車両は橋を渡れますが、再び車列を調えるまでにゾンビに側面を突かれる可能性も考えておくべきかと……」


「ノーフォーク市の規模は1万5千人だ。ゾンビの数は大目に見積もって1万体を想定した方が良いだろうな。釣り出して殲滅するには戦力が足りんが、至近距離まで移動してジャックを仕掛けることは可能だろう」


「ゾンビの生息数と、種別の概要が分かるという事か。ジャックを数個仕掛ければゾンビの数を2割ぐらいは削減できそうだな」


 レーヴァさんとシグさんが肯定してくれた。

 俺達だけで出掛ければ十分だろう。明日でピルガー町のゾンビは掃討出来るから、ノーフォークへの攻撃は明後日だな。


 明日の予定を共有したところで、夕食を取りながらの雑談が始まる。

 雑談といっても結構使えそうな話をしてくれるから、これはこれで楽しみなんだよなぁ。

 そんな雑談で出てきたのは、やはり大型のジャックとそれを運ぶ手段ということになる。

 ノイズマシンは大きすぎるから通常の作戦で使うことはあまりないんだが、ジャックは何処の作戦部隊も多用しているようだ。

 その使用実績から、もう少し大型というニーズが現場からかなり出ているらしい。

 出来れば炸薬量を数倍に増やしたいらしいけど、そうなるとジャックの重さがドローンの搭載量を超えてしまいかねない。

 統合作戦本部傘下の施設や、ペンデルトンで色々検討しているらしいんだけどねぇ。


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