表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
633/688

H-633 士官は車の運転をしないらしい


 ファウンドドッグ部隊のストライカーが2両とフクスが2両。それに地質調査の専門家と工兵を乗せたストライカーが1両とデストロイ部隊からの援軍のストライカーが2両だ。

 全部だ7両なんだけど、その内の4両がカーゴやトレーラーを曳いている。3日も掛からずに調査は終わるだろうけど、陸上艦隊が来るまでには日数が掛かるに違いない。

 俺達がフクスに乗車する時も南から砲弾の炸裂音が聞こえてきた。

 オマハの住宅街から立ち上る火災の煙が南の空に黒く漂っているんだよなぁ。

 マリアンさんの事だから、砲弾の補給を要求しながら砲撃を続けるに違いない。


 ジュリーさんの前に置いてあるトランシーバーから次々と出発準備完了の知らせが入ってくる。

 その知らせを聞いて真面目にチェックリストにレ点を入れていたシグさんが、テーブル越しの席に座る俺に顔を向けて「全員の乗車を確認!」と報告してくれた。


「それでは出発しましょう!」


 俺の言葉に大きく頷て、先導車へ出発の指示を出す。俺達のフクスはレーヴァさん達の部隊の後ろだから、3両目と4両目だ。


「先ずは、フリーモント市の郊外を反時計方向に移動して30号線を西に向かう。約60km先のシュイラー町から北に延びる15号線を進めばピルガーの町だ。右折してからこれも60kmほど先になる。時刻は1000時の17分前だから、昼前後に目的地に到着できるだろう」


「周囲は見渡す限りの荒地ばかりね。数年前は立派な耕作地だったんでしょうけど……」


「大陸中央部はアメリカの穀倉地帯だからなぁ。もしあの時に生存していた人間が数パーセントではなく50パーセントであったなら、ゾンビだけでなく飢えた人間も敵になっていただろう」


 それも考えてしまうなぁ。食料で争いが起こらなかったのは、それだけ生存者が少なかったということだからねぇ。だけど最初の3年間はそれなりに苦労していたようだ。

 犠牲を出しながら集積場から穀物を搬出したとレーヴァさんが教えてくれた。


「今ではだいぶ改善したようだな。レーション工場も出来たらしいぞ。もっともパック詰ではなく缶詰らしい」


 西に向かって進むようになると、とりあえず俺達は暇になってしまう。

 コーヒーばかり飲んでいるわけにもいかないから、エディ達に運転を代わろうかと申し出たんだが、2人ともブンブンと音が出るような勢いで首を振るんだよなぁ。


「サミーには、サミー出ないと出来ないことがあるだろう。ここは俺達に任せてくれれば良いよ。レーヴァさんだって運転はしていないぞ」


 士官は助手席ってことらしい。でもねぇ……。まだ1度もストライカーやフクスを運転していないんだよなぁ。


 スゴスゴとキャビンに戻ってくる俺を見て、ドローンと通信担当の3人がクスクスと笑い声を上げている。別におかしいことはしてインターネットないんだけど、やはり他の士官と横並びが出来るようレーヴァさんに士官たるものの姿を教えて貰った方が良さそうだな。


「運転したかったの? 山小屋ではバイクばかり乗っていたらしいけど」


「そういえば、そうですね。たまにはあのジープを乗ってあげないと、勘が鈍ってしまいそうです」


 俺の言葉を聞いて、ジュリーさんが「プッ!」と噴き出しているんだよなぁ。やはり継続しないといけないということなんだろう。ニック達はずっとピックアップトラックを運転していたからね。


「山小屋での休暇は面白かったけど、あまり車が増えたようには思えなかった。車の範疇に入るんでしょうけど、荷馬車を何台か見ましたよ」


「故障しても直せる人が限られているという事かしら。ライルお爺さん達なら何とかできるんでしょうけど、お爺さん達も色々と忙しそうだから直ぐに直して貰えないのかもね。その点、荷馬車なら修理も簡単でしょうけど……」


「それなりの技量が必要だ。それにグランビーの冬はかなり冷えるからなぁ。厩舎の暖房も必要だろう」


 厩舎の暖房は薪ストーブで十分だとライルお爺さんが言っていたけど、火事には気を付けなければなるまい。空港の倉庫近くにある厩舎で飼える馬は数頭らしいからなぁ。それでもネイティブの家族がグランビーの連中に馬の乗り方を教えるには十分なんだろう。乗馬だけでなく荷馬車の扱い方も教えているんだろうな。


「それで、まだ貰える土地は決まらないの?」


 ジュリーさんが心配そうな顔をして、俺にコーヒーカップを渡しながら問い掛けてきた。


「まだ連絡は無いんですが、少なくとも大統領の言葉ですからねぇ。必ず頂けると思いますよ。案外適地に悩んでいるんじゃないかと」


「ご婦人から要望の確認があったわよ。サミーの事だからと『釣りが出来て、狩が出来る。山が望めれば喜ぶに違いない』と答えたけど……」


「漠然としてはいるが、暮らし安そうな牧場だな。休暇を過ごす時には歓迎して貰えるのだろう?」


「当然ですよ。ウイル小父さん達の山小屋のように皆が集まる場所にしたいですね」


 あの山小屋は、アメリカに沢山あった民間防衛クラブの1つであった小父さん達の拠点だからなぁ。物騒なクラブだけど、あの山小屋があったおかげで俺達は嵐を乗り切ったとも言えるんだよね。

 部屋数も多いけれど、リビングが大きいからなぁ。あの焚火に何時も人が集まるんだよねぇ……。


「ライルお爺さんの勧めで、ログハウスの間取りを3人で考えてはいるんですが……」


「サミー達の事だから、纏まらないってことね。それはナナ達に任せた方が良さそうね。サミー達はティーピーの場所を考えるぐらいで十分よ」


 そんなことをオリーさんが言うもんだから、シグさんとジュリーさんが大笑いをしている。さすがにティーピーの間取りではねぇ……。もう少し悩んで形にしたところで七海さん達の監修を受けるしかなさそうだな。

 キャビン後方に移動して、監視用の窓を開けてタバコに火を点ける。

 窓から見える風景は、どこまでも続く荒地なんだよなぁ。山が見えないというのが寂しく思えるほどだ。


「右に曲がるぞ!」


 シグさんの言葉に、しっかりとベンチの枠を握る。

 それ程速度は出ていないし、カーブ前で減速するからベンチから投げ出されることはない。

 今度は北上だな。時計を見ると11時を過ぎている。時速は50kmほどで移動しているようだ。目的地への到着は昼過ぎになるだろう。


 缶詰のコーンスープを温め、シェラカップに頂く。それに硬く焼いたビスケットが2枚。手の平程の大きさがあるし、厚みも1cm近くありそうだ。かなり硬いとのことだから、コーンスープに漬けて柔らかくしていただく。


「大きな缶詰でしたね。エディ達が集めてましたから、また車の後ろに着けようとしているみたいです」


「結構使えるのよねぇ。近頃はハネムーンに車で行く人はいないでしょうけど……」


 映画のワンシーンなら様になるけど、実際にやる人達はいるんだろうか? 俺達3人組のような友人がいたならやるかもしれないなぁ。あれって、絶対に面白がっての行為だろうな。やられた方も、角を曲がったなら直ぐに取り外すんじゃないか。


「これから向かう町は小さな町ですから、誘いだす必要もなさそうです。ジャックに集まるゾンビが20体いるかどうかというところでしょうね」


「作動時間を最大にして、使ってみよう。確か45分は持つとのことだった」


 ジャックよりも音が大きくてノイズマシンよりも小型の物があれば良いんだけどねぇ。俺達の使うドローンの最大搭載量は50kgとのことだからなぁ。もう少し重い物が運べれば良いんだけどね。

 だけど、搭載重量が100kgもあったなら、俺を運ぶことが出来そうだな。

 これもオットーさんに試作を頼んでみよう。俺を運ぶと言ったら皆が反対しそうだから、もう少し重いジャックを運ぶ種だと誤魔化せば何とかなりそうだ。


 硬いビスケットの1枚を食べ終えた時だった。

 フクスがゆっくりと速度を落とし、左に曲がる。どうやら目的地に近付いたみたいだな。

 残ったビスケットをバンダナに包むと、蓋つきのカップに入れて貰ったコーヒーを飲んで昼食を終えた。

 残ったビスケットは夜食にでもしよう。


「到着ですか?」


「この先を右に曲がれば河原に出るはずだ。画像で見る限りでは道があるようだが、かなりの悪路に違いない」


 残ったコーヒーをテーブルのカップホルダーに入れると、キャビンから運転席に向って歩く。1mにも満たない狭い通路は必要なんだろうかといつも考えてしまうんだよなぁ。

 太った人なら通れないんじゃないか?


助手席のニックの肩越しに前方を眺めると、単なる荒地にしか見えない。

 どうやら轍の跡を辿って進んでいるようだけど、結構揺れるんだよね。

 しっかりとシートと天井の補強パイプを握って耐えていると、荒地が突然開けた。

 停車したストライカーから少し距離を開けてフクスが停まると、すぐ横にオルバンさん達の乗るフクスが停車した。

 到着ってことかな?

 外に行く前に、運転席の屋根にあるハッチを開けて屋根に上る。車高が高いからなぁ。眺めも良いに違いない。

 首にかけてあるヘッドホンを着けて、聴音装置でゾンビの声を聴く。

 まるで聞こえないな……。簡易スペクトロアナライザーの表示も特にゾンビの声が聞こえる周波数帯域のセグメント表示は低いままだ。

 再度体をゆっくり回しながらゾンビの声を確認したが、やはり声は聴こえないな。

 運転席に下りて、キャビンに戻ろうとした俺の肩をエディがポン! と叩く。


「いたかい?」


「全くだ。周囲を見渡しても姿は見えないんだよなぁ。でも、まだ出るのは止めてくれよ。ドローンを使って広範囲に確認するから」


「了解! だけど、屋根の上なら問題ないだろう? 直ぐに移動するかもしれないから、1人は残すようにするよ」


 それなら大丈夫かな?

 調査は俺達ではなく専門家が行うだろうから、調査時の周辺監視が俺達の仕事になるはずだ。なら、少し早めに取り掛かっても問題はないだろう。


「それでお願いするよ。そうそう、エンジンはまだ停めないでおいてくれよ」


 さて、キャビンに戻ろう。シグさんが他の車両と情報を交換している筈だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ