H-624 戦士型を狩る部隊が必要かも
20時5分前に、地下の指揮所にシグさんと出頭する。
俺達を確認した兵士が、指揮所の隣にある会議室へと案内してくれた。
少将と大差殿は既に席に着いているんだよな。とりあえず敬礼をして指示された席に着いた。
テーブルを見渡すと、まだブラッド中尉が来てないみたいだな。
そんなことを考えていると通路を走る足音が聞こえてきた。扉が開き新たに席に着いたのはブラッド中尉だ。通路を駆けてきた様子を微塵にも感じさせないほど落ち着いているんだから思わず感心してしまう。
「どうやら、揃ったな。既にゾンビの群れに対して4度の攻撃を行っているぞ。それでも数千体は依然として15号線を南進している。最後はロサンゼルスのゾンビに任せよう。それで今回の課題だが……」
作戦自体の難易度は低いものだったが、作戦を遂行する過程で色々と情報を得ることが出来た。
その情報から得られた結果が課題とも言えるだろう。
最初の課題は、自律型ドローンの故障原因になる。
「生物学研究所は、戦士型ゾンビの打撃によって故障したものと推測した。航空宇宙軍のオットー中尉もその推測に頷いていたよ。横腹に凹みがあったし、内部の配線の一部がちぎれていた。あの傷跡もあるから、打撃は1度だけではなかったようだな。ゾンビに襲われる寸前に撮影された画像がこれだ……。サミー君なら何度も見たことがあるんじゃないか?」
大型スクリーンに映し出されたのは、ニューヨークの地下鉄構内にあったコクーンと同じだな。
大佐殿に顔を向けて小さく頷いた。
「場所は排水溝の出口近くだった。やはりニューヨークと同じように、新たなゾンビを生み出しているという事になるんだろうな。ラスベガスの排水路の図面は既に入手している。再度自律型ドローンを投入したところで、バンカーバスターを幾つか落とそうと考えているところだ」
「それならオットー中尉に連絡して、ニューヨークで使用した自爆ドローンを使うべきでしょう。排水路内でナパーム弾が炸裂しますから、広範囲にコクーンを焼却できます」
「なるほど……。それも良さそうだな。だが、面倒なことになってしまったな。ゾンビが人を襲わなくとも増えるというんだからなぁ」
面倒でも、倒していくしか方法が無いんだよなぁ。
だけど、そんな進化がニューヨークとラスベガスだけで起こっているとは思えない。他の大都市でも起こっているに違いない。
「次にサミー君が戦車型だと言った戦士型ゾンビについてだ。今までの投射武器よりやはり性能は上がっているようだな。簡単な報告書が送られてきたが、やはり炸裂弾を発射できるようだ」
「ゾンビの釣り出し中に、俺達の乗ったトラックの後部に付けたポリカーボネイト板に当たって炸裂しました。ポリカーボネイト10mm厚の板を貫通することはありませんでしたが、いくつか破片が突き刺さっていました。あの破片は毒が塗布されているでしょうから、小型の砲弾といえども油断は出来ないでしょう」
「基地の防疫部隊で確認したよ。小型投射武器に内蔵されている毒と同じだそうだ。生物学研究所の見解では炸薬となっているのは水素と酸素、それが弾着時に砲弾が割れることによって混ざり合い白リンによって着火するとのことだ。火薬を使わずに爆発物を作るんだからなぁ……。たぶんさらに口径の大きな砲弾を撃ち出すようになるに違いない」
大佐殿達も俺と同じ考えのようだ。
そうなると、戦士型を率先して狩る部隊の創設も必要になるんじゃないかな。
今までは統率狩りを優先していたけど、それだけではいけなくなってきたようだ。
大佐殿に新たな部隊の創設を具申すると、直ぐに頷いてくれた。
とはいえ、それによって優秀な兵士を第一線から引き抜くことになる。
大佐殿達が顔を見合わせて溜息を吐くのも理解できるところだ。
「それが一番だろうな。出来ればサミー達にそれを行って欲しいところだが、そうもいくまい。だが、部隊作りと運用については考えて欲しい」
「了解しました。でも、あくまで俺の私案になりますから、それを叩き台にして大佐殿の監修が欲しいところです」
出来れば概要だけで済ませたいところだ。
大佐殿の優秀な幕僚なら、それを叩き台にして使える部隊を考えてくれるに違いない。
「部隊の創設は近々に行いたい。サンフランシスコのゾンビ掃討は計画通り推移しているが、何時あのようなゾンビが姿を現すとも限らん。それにロサンゼルスなら確実にいるだろう」
サンフランシスコに目途が付いたなら、郊外に残ったゾンビの始末を第2線部隊に任せて、主力をロサンゼルスに移動するということなんだろうな。
事前にたっぷりと爆弾を落としたいところだけど、大佐殿の事だから既に何らかの事前措置を行っているに違いない。
「自律型ドローンをラスベガスだけでなく、フェニックスにも使用して頂けませんか?」
「10号線を使えばフェニックスか……。人口180万を超える大都市だ。核を2発落としてはいるが、ゾンビの数は50万体を下ることはないだろう。ラスベガスやロサンゼルスのゾンビの一部が10号線を東に向かったが、まだフェニックスで争ったとは聞いていないな。……現在はどうしているんだ?」
大佐殿の最後の言葉は隣の副官に向ってだったから、直ぐにタブレットを取り出して情報を確認し始めた。
「……どうやら、フェニックス手前のブライスで停止しているようです。コロラド川からの治水で農業が盛んな町ですが、居住者の数は1万人以下です。ゾンビ化した数はその半分だとしても、移動したゾンビの数は数万体ですからブライスのゾンビは駆逐されたと推測します」
「なんだ、まだ到達していないのか! それはそれで問題だな」
「確か、ソルトレイクのゾンビも北に向かってアイダホ・ホールズで止まっています。かつての農業地帯であれば、ゾンビの食料が得られるということなんでしょう」
「そうなると、我等が突かない限り動かんだろうな。フェニックスの攻略は来年ということにはならんだろうが、それまでにどれほどゾンビが進化するるか……。サミーの言う通り自律型ドローンの投入は継続した方が良さそうだ」
3時間程の会議を経て、課題の整理を終えた。
報告書は、戦闘記録の提出だけで良いとのことだから、シグさんが明日中に提出してくれるだろう。
これで俺達の仕事が終わるから、明後日にデンバー部隊への補給品を搭載したC-130に便乗して帰還できることになった。
ペンデルトンにC-130が離着陸できないのが難点だけど、直ぐ近くに海軍の空港があるからね。そこまではベノムでの移動になる。
指揮所から宿舎の戻り、エントランスで一服しているとシグさんがコーヒーカップを両手に持ってテーブル越しの席に腰を下ろす。
カップの1つを俺の前に置いてくれたから、礼を言って受け取った。
「それでサミーはどのような部隊を考えているのだ?」
「例の話ですね。現在の状況を考えると、大きな部隊を作ることは出来ませんから、ドローン部隊に歩兵を組み合わせれば十分かと考えています。具体的にはストライカーが3両それと、フクスもしくは簡易な装甲を施したトラックが2両。ドローンの操縦システムをトラックの荷台内に3つ設け、もう1両は資材の運搬ですね。ドローン部隊が10名でストライカーには5名乗車させれば十分に思えます。もっとも戦士型を相手にしますからストライカーに簡易な砲塔を設けてMk.19を遠隔で動かしたいですね。出来れば砲塔の左右にハイドラランチャーを取り付けたいところです」
「戦闘は降車せずに行うということか……。ハイドラまでは私は考えなかったな。ヘリの支援を受ければ十分に思えるのだが……」
今回の反省点の1つが火力不足なんだよなぁ。囲まれた時に一点突破を行おうとするなら。ハイドラのつるべ撃ちが一番だろう。
18本の射程5kmを超えるロケット弾だ。弾頭の炸薬は1㎏程らしいけど、多くのロケット弾を一定の範囲に撃ち込める。面制圧も可能だろう。
砲塔の両側に用意しておけば、ゾンビの群れに短時間の穴を開けることが出来るはずだ。
「陸上艦隊の小型ヘリにも、ハイドラランチャーが装備されています。ある程度大きな部隊であるならヘリの運用も出来るでしょうが、1個小隊に満たない部隊ではヘリは贅沢過ぎると考えました。それに、戦士型ゾンビを狩るのはドローンで行います。全ての車両の装甲化はラッシュ対策になります」
「狙撃可能位置まで接近するのは危険という事だな。となれば部隊の兵士に持たせる銃はM4カービンでも良さそうだ。とはいえ半数にはM203を取り付けるべきだろう」
M203にするか、それとも独立して使えるM79にするか迷うところだ。
ある程度統一したいところでもあるんだが、どちらも長所と短所があるからなぁ。
「この編成は、陸上艦隊の先遣部隊に近いんですよ。俺達の部隊だけで動くことは稀ですからね。武装偵察部隊のストライカーが何両か一緒に行動しています。でもさすがに砲塔はありませんし、ハイドラランチャーも搭載してはいませんよ」
「レディから母艦にヘリがあると聞いている。だが、ストライカーにハイドラランチャーを設けるのも面白そうだな」
「ハイドラの簡易版があれば良いんですけどね。飛距離は1kmもあれば十分です」
「射程がそれほど無くとも利用価値は高そうだな。ヘリ搭載のハイドラも対人戦闘を念頭にしているが、我等の相手はゾンビで合って人ではない。明日は整備部隊と少し協議してみよう」
コーヒーを飲み終えたところで、部屋に引き上げる。
明日は、乗馬を楽しもうかな? 広い基地だから野ウサギも結構いるんだよねぇ。
狩りをし手少しは食料事情に貢献してあげよう。




