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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-620 やはりサンプルを欲しがるんだよなぁ


 新たな進化種の登場は、俺達だけでなく生物学研究所にも波紋を広げたようだ。

 衛星通信回線を使ったネット会議が01時から始まってしまった。

 オリーさんが向こうを仕切っているようだけど、オーロラはどうしてるんだろう?

 さすがに今夜は大統領夫人の所というわけにもいかないと思うんだけどなぁ。


「全く驚く姿よねぇ。身体機能についてはもう少し情報を得てから纏めようと思うけど、最大の特徴は機動力と攻撃力ということになるんでしょうね。サミーの推測では時速30kmということだけど、これは明るくなってから再度確認してみたいわ。出来ればちょっと攻撃して後を追わせたいところね」


「37mm砲を片腕にダブルとはねぇ……。両腕で都合4発という事か。さすがに徹甲弾を撃ちだすとは思えんが、場合によっては弾着時に炸裂するかもしれんぞ。我等のグレネード弾の模擬かもしれんな」


 オリーさんも大佐殿も他人事なんだよなぁ。

 次に出てくる言葉は、『サンプルが欲しい!』に間違いなさそうだ。

 飛び出してきた戦車型ゾンビの数はおよそ100体というところだろう。600発もグレネード弾を放たれたら全滅してしまいかねない。

 サンプルの採取は簡単に出来そうにないな。


「少し大きなドローンがあると聞いたんだけど?」


「あるぞ! マニプレーターも付いているから、ブラックホークに増槽を積んで運んでみよう。倒すのはサミー達に任せるとして、その後は我等に任せるが良い」


 にんまりとした大佐の顔はあまり人には見せない方が良いかもしれない。それこそ自分の玩具を自慢したい表情だったからね。

 とはいえ上手く戦車型ゾンビの腕を手に入れられるなら、その性能評価を生物学研究所が行ってくれるに違いない。

 場合によっては陸上艦隊の脅威にもなりかねない存在だからなぁ。

 騎兵隊は装甲をまるで持たないからねぇ。それこそカスター将軍みたいなことになりかねないんじゃないかな。

 

 ペンデルトン基地からここまでは2時間程度だ。出来ればやってくる前に何とかしたいところなんだが……。

 後続の群れから抜け出した戦車型ゾンビは、東に大きく回り込んで道路から5kmほどの距離を移動し始めたようだ。

 10分もすれば道路の東の別動隊の生き残りを西に見る位置まで進むだろう。


「合流しないな? そのまま南進しているぞ」


「別動隊を全滅させておきたかったですね。このまま推移すると4方向からの一斉攻撃をされかねません」


「包囲殲滅を諦めたわけではないということだな。まったく良く考えている」


 シグさんは他人事のように言っているけど、さてどうやってそれに対処するかが問題だ。

 先ずは囲みの薄い場所を作ることだろう。

 そうなると、左手を進んでいる戦車型ゾンビを叩くのが一番かな?


「ジュリーさん。ドローン2機で戦車型ゾンビを爆撃してください。反復爆撃を3回お願いします!」


「了解! 残り1機はこの車の上空に移動させて監視を継続するよ」


「十分です。シグさん、ブラッドさんに上空の目を一時下げることを伝えてください」


「LAV-25ならハッチを閉じていれば問題あるまい。それにゾンビとの距離を常に空けているのだ」


 ゾンビの移動速度が一時的に上がる可能性があることも伝えて貰う。

 これで、前方を塞ごうとするゾンビの群れを削減できるぞ。

 100体程度なら、グレネード弾を乱射して突破できるだろう。


 さすがにゾンビには俺達の移動速度が現在より数倍速くできるとは思っていないだろう。

 これで、どうにかなるかな……。

 タバコの箱から1本取り出して火を点ける。


「後は夜半過ぎに動くことになりますね。まったくゾンビの進化は予想がつきません」


「それにしても戦車とは……。あながち間違いとも言えないが、そうなると戦車の黎明期に出現した軽戦車の運用思想がゾンビにもあるのかもしれんな」


「歩兵支援兵器で、機動力重視でしたね。今では装甲車がそれにあたる様に思えますが?」


「歴史的にはそうなるだろうな。だが軽戦車は、騎兵の装甲化として当時の陸軍に容易に受け入れられたようだぞ。物によっては1人で運用する代物まであったらしいからな。ゾンビの群れをサミーはかつて『ローマ軍』と言ったそうだな。軍団の騎兵の役割をあの戦車型が請け負うことになるのだろう」


 装甲を持って、かつムカデ形の脚を持って機動力を上げている。その上であの大砲のような投射武器だからなぁ。

 装甲騎兵というよりは、やはり軽戦車ということになるんだろう。

 主力同士のぶつかり合いの最中に側面を素早く突いたり、敵部隊の分断まで行えそうだ。


「やはりゾンビの持つ大砲の砲弾を詳しく調査すべきでしょうね。間違いなく炸裂するでしょう。その被害半径は砲弾の中の炸薬次第です」


「ゾンビは火薬を持っていないだろう? そこまで恐れる必要も無さそうだが」


「水素と酸素の混合気体を仕込むぐらいは出来るでしょうし、中にカルシウム主体の散弾を仕込むことも出来るでしょう。それにゾンビは猛毒を合成できます」


 シグさんが目を大きくして俺を見ているんだよなぁ。

 そこまで考えるのかと、呆れているに違いない。だけど、物事は悪い方向に考えておいた方が最悪を迎えずに済むだろう。


「呆れた思考だな。レディが常識を教える必要があると言っていたが、そこまで考えるのか……。だが砲弾の秘密をある程度想定しておくのは賛成だ。そうなると近接攻撃が難しくなるぞ」


「一番考えないといけないのは射程なんですよねぇ。ゾンビの持つ投射武器の飛距離は約300m程度でした。金属元素を多量に取り込んでいるようですが、重い砲弾を飛ばすには装薬量を増やさねばなりません。その爆圧にあの腕が耐えられるとも思えないんですよねぇ」


 案外飛距離は短いんじゃないかな? それは実際に発射している状況を見ないと何とも言えないけど……。


「300mは現在のゾンビとの車間距離……。あの距離は、そういう意味もあったのか。なら、50m程さらに距離を取るべきだろう。さすがに腕を犠牲にして発射するとも思えん」


 7.62mmNATO弾の乱射とグレネード弾で対処すれば良いか。

 距離を取っての攻撃だから、ゾンビをどれだけ倒せるか甚だ疑問に思えるけど、俺達の目的はあくまでゾンビの釣り出しだ。本末転倒にならないようにしないといけない。


「戦士型とは合流しないみたい! 南に向かって相変わらず移動しているから、爆撃を開始するよ」


「了解です。目標はジュリーさんに任せますよ」


 さて、いよいよ攻撃だ。

 まだ増援のヘリは来ないようだけど、先に始めよう。


 モニターに映し出された戦車型ゾンビの集団の真ん中が白く輝く。

 爆撃と言っても81mm迫撃砲弾3発だからなぁ。ちょっと頼りなく見えてしまうんだが、爆撃が終わるとゾンビの動きが停まった。

 炸裂光で白くなった画面が復旧すると、倒れたゾンビに群がる戦車型ゾンビの姿が映し出される。


「相変わらずの食欲だ。あれではどれほど倒したのか見当が付かん」


「減った事は確かでしょう。どんどん落とせば少しは数が減った事が分かると思いますよ」

 昼の画像ならもう少し詳細が分かるのだろうが、生憎とスターライトスコープによる画像だ。おかげで少しはグロさがマシなんだけど、解像度も良くないから数を数えるのは至難の業になるだろう。

 これもサンディ達に期待したいところだな。


「やはり我等の先に出るつもりのようだな。ジュリー引き続き爆撃は続行だぞ!」


「次のドローンが飛立ったところ。直ぐに爆撃して後退するよ!」


 都合12個の迫撃砲弾を落とすことになるんだが、さて効果はどの程度になるのかな?

 再びモニターの画像が炸裂光で白くなってしまった。

 画像が戻ると、先程と同じようにゾンビ達が倒れた仲間をむさぼっていた。

 

「どうも効果が明確になりませんね。間違いなく数は減っているんでしょうが……」


「そうだな。まだ4発落ちしただけだ。10発を超えたなら目視で分かるに……」


 シグさんがトランシーバーの呼び出し音を聞いて、話を切り上げて応答を始めた。

 どうやら、ブラックホークが到着したみたいだな。

 1機ではなく2機でやって来たようだから、援護攻撃をしてくれるに違いない。

 でも目的は、戦車型ゾンビの腕の回収だからなぁ。

 どうやって、それを手に入れるか少し考えないといけないんだよなぁ。

 

「ヘリ1機にグレネード弾と迫撃砲弾を搭載してきたらしい。2台を先行させて、回収するぞ。それが終わり次第、群れにハイドラを撃ち込むとのことだ」

 

 19発のランチャーらしいから、期待できそうだな。

 Mk.81は搭載出来ないのかもしれない。だけど、群れを狩るならハイドラが一番だろう。

 それに機銃手もいるはずだから、ミニミもしくはM240機関銃でゾンビを掃射してくれるだろう。


「腕の回収は2機のブラックホークに任せられそうだ。ハイドラ攻撃を2度行い群れを散らしたところで、ドローンを使って回収するとのことだ」


「俺達は見ているだけで良いということですか。ということはゾンビの釣り出しに専念しろということになるんでしょうね」


「そういうことだ。今のところ順調だからな。状況に変化があればペンデルトンの方で考えてくれるだろう」


 何時もそうなら良いんだけどなぁ。

 とりあえず。お湯を沸かしてコーヒーを淹れよう。

 今夜は長くなりそうだからなぁ。


 ドローン2機を使って3回の爆撃を行ったところで、再びドローンを道路左右の警戒と後方のゾンビの観察に向わせる。

 ゾンビの群れは3つから2つになったけど、後方のゾンビの群れはいろんなゾンビがいるみたいだ。

 明るくなったら、詳細を画像に納めておこう。

 

 今夜何杯目かのコーヒーを飲みながら、ふと腕時計に目を向ける。

 既に3時近いんだよなぁ。

 ブラックホーク2機は、上手く目的を達成したらしく、俺達の健闘を祈るという通信を送って去って行った。

 ペンデルトンで保冷バッグに詰めて直ぐにドーバー市に送るんだろうな。

 到着するのは朝食後になるだろうけど、オリーさん達の事だから今夜は眠らずにサンプルを待っているに違いない。

 学者たちばかりだからねぇ……。好奇心が全てに優先するようだ。


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