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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-618 ゾンビ達が鶴翼陣を作ろうとしている


 2130時。今のところ順調にゾンビを釣り出しているようだ。

 別動隊が2隊ということに少し驚いたから、さらに道路の左右をドローンの制御距離ギリギリまで飛ばして他の戦士型の部隊を確認して貰うことにした。

 俺達を追って来るゾンビの群れは、相変わらず3つに分かれている。その構成が変わる様子は無いのだが、追撃速度を少し緩めているらしい。


『後方からやってくるゾンビを3つの部隊に編制しているようだ。上空から見た感じでは大きく数が増えている様子はない。もう1時間程度で綺麗に3つの群れに分かれるだろう』


『今のところ大きなトラブルはないということですね?』


『投げつける爆弾も、適当に間を開けて行っているそうだ。300m程離れての銃撃は継続しているようだが、倒せるゾンビは少ないだろうな』


 群れを倒すならグレネード弾が一番だけど、温存しているということかな?

 まぁ、爆弾でも手榴弾以上に効果があるからね。

 とはいえ群れのゾンビを倒すと共食いされてしまうから、どれほどの効果があるのか判断しずらいんだよなぁ。

 たまにやってくる水上機から群を撮影して貰い、画像からゾンビの群れの数を計算して貰うしかなさそうだ。

 シグさんに生物学研究所へ画像データーを送って欲しいと頼んでおいたから、今頃は研究所の博士達が大沢碁しているかもしれないな。。


「オリーさんの助手のサンディが行うんだろう? まったくたいしたお嬢さんだよなぁ。クリスには絶対無理だと思う」


「能力なんて、人様々だからなぁ。俺にはエディに過ぎた嫁さんだと何時も思っているんだけどねぇ」


「良い嫁さんだとは俺だって思っているさ。だけど蹴り起こすのだけは止めて欲しいんだよなぁ」


 エディの言葉に、俺達の話を聞いていた連中が笑い出す。

 屋根を叩いて笑っているニックだって、似たようなものだと思うんだけどねぇ。


「それより、名前を考えたんだろうな? 次も前回のようなことになるのは避けたいところだけど」


「それはニックの方だろうな。俺達はしっかりと考えたぞ。今度は俺のお婆さん、もしくはお爺さんの名前だ」


 前回はクリスを可愛がってくれたお婆さんということだったな。今度はエディの番になるのか。

 そうなると……、俺達2人が荷台から身を乗り出すようにして助手席に乗ったニックに顔を向ける。


「パットとトランシーバーで交信すると、直ぐにその話になるんだ。名前は俺が考えなくちゃならないんだけど……。女の子ならパットに似て美人になるだろうし、男だったら、俺みたいに頭脳明晰な人物に育つんじゃないかな。サミー、そんな名前で良さそうなのはないのかい?」


 自分の嫁さんを美人というのは、まぁ同意してあげよう。確かにニックにはもったいない美人ではある。ちょっと性格が問題だけど、見た目では分からないからね。それよりも自分で自分を頭脳明晰と言うかねぇ。

 思わずエディと顔を見合わせて苦笑いを浮かべてしまった。


「前回と同じだな。頭は俺よりは良いと思うんだが、決断するのが苦手なんだよなぁ。それはパットに任せておけば良いんだろうけどね」


「それにしても美人の名前と頭の良い奴の名前だろう? まぁ偉人と呼ばれる人達の名前を選べば良いんだろうけど、美人の名前となると難しいよなぁ」


 ハリウッドスターからチョイスするにしても、1人に集約するなんてできそうにない。

 荷台の連中に聞いてみたら、俺はオードリーだし。エディはヴィヴィアンだった。リストを作ってニックに選ばせよう。


「誰が一番美人か話し合うのは友情を壊しそうに思えるよ。それは何とかなりそうだけど、頭の良いと言うなら、ノーベル賞の授賞者からチョイスすれば良いんじゃないのかな」


 中々良い考えだ。もっとも、頭の良い人間が必ずしも人間的に良く出来た人物だとは限らないところがあるからなぁ。

深入りすると綻びが出るかもしれないから、ここはそれまでの常識を覆した人物としても良さそうだ。昔の人物なら変な裏話もないだろうしね。


「これもリストが出来そうだな。後はニックに任せよう」


「全く困った奴だけど、今度は時間がたっぷりあるからなぁ。だけど、これと言った名前を考えておかないと、まだまだ生まれるだろうからね」


「俺はもう考えたぞ。重複しないように伝えておくけど、次に生まれる男女はライルお爺さんとキャシーお婆さんの名前を貰うことに決めているんだ」


 俺の言葉にエディが目を丸くしているんだよなぁ。

 ひょっとして、エディも考えていたのかな?


「大喜びするんじゃないかな。でも、まだ秘密なんだろう?」


 さすがに、今伝えるのはねぇ……。

 それは次のお楽しみで良いんじゃないかな。

周辺監視は、退屈だからなぁ。

 そんな雑談をしながら、タバコとコーヒーで時間を過ごす。


 突然、トランシーバーの呼び出し音が鳴った。

 慌てて交信を始めると、シグさんが少し緊張した声で異変を教えてくれた。

 どうやら、ゾンビの第2集団で動きがあったらしい。

 集団が3つに分かれて、第1集団の後方に近付くと共に、残り2つの集団が道路から離れて東西に動いたということだ。


『戦士で構成された別動隊2つを倒した結果ということになるんでしょうね。3つに分かれたということは間違いなく俺達を包囲殲滅する為だと思います。第1集団に加わったなら、現在取っている距離を少し広げた方が良さそうです。戦士型の移動速度はかなり早いですから、万が一にも第1集団を抜けて来るようなら急いで俺達の車列を詰めましょう。左右に分かれた2つの部隊についてはドローンで状況監視をお願いします。たぶんそれほど道路から距離を取らないと思います』


『何時でも速度を上げられる余裕を持てば十分という事か……』


『どうやら俺達の前にはゾンビはいないようです。場合によっては俺達も後方に移動できます』


『了解だ。左右に分かれたゾンビの動きを見守るぞ!』


 交信を終えて、シェラカップに残っていたコーヒーを飲む。

 面倒な話になって来たな。もう少し増援を貰っておいた方が良かったかもしれないが、俺達の任務はゾンビをラスベガスから釣り出すことだからねぇ。付かず離れずの距離を維持しながら、後方を攻撃するぐらいしか出来ない。

 大佐殿の指示ではラスベガスから30kmほど移動させるということだからなぁ。俺達が降下した飛行場より南にゾンビを移動させることが出来れば任務完了ということになるんだが、まだラスベガスの周辺住宅街を抜け出しているところだからねぇ。少なくとも明日の昼前ぐらいまでゾンビを誘導していくことになる。

 さて、道路の両側に展開した戦士型ゾンビの大部隊をどうするかと考えていた時だった。

 シグさんから連絡が入る。

 どうやら、ゾンビの移動速度が低下したらしい。

 とりあえず作戦の見直しは必要だろう。ゾンビから500m程距離を取って、ブラッドさんとヴァイスさんに現金輸送車に集まって貰うことにした。


 ピックアップトラックの荷台から降りて、北から移動してくる現金輸送者に乗り込むと既に2人が乗り込んでいた。オルバンさんもシグさんが知らせてくれたようだ。

 俺がベンチシートに座ると、シグさんがドローンで捉えたゾンビの群れの状況を簡単に説明してくれる。

 やはり俺達を包囲殲滅する考えのようだ。


「要するに、このゾンビの先頭集団が速度を落として、左右に展開した戦士型の部隊が、南に向かって速度を上げているという事だな」


「鶴翼陣を実際に見ることになるとは……」


「このゾンビの移動にはそんな名前があるんですか?」


 俺の呟きをオルバンさんは聞き逃さなかったようだ。

 とりあえず簡単に、鶴翼陣の布陣の説明をする。包囲殲滅戦では有名な陣形なんだけど、シグさん達も知らなかったようだな。ちょっと意外な気がするんだけど、士官学校では教えて貰わなかったのかな?


「……なるほど、戦術としては理解できるな。だが、そうなると我等は袋のネズミということになるのだが……」


「でも弱点はあるんですよ。大きくは2つあるんですが、1つはこちらの戦力があればということになりますから、戦力が劣る場合の弱点に俺達が上手く対応すれば問題はないでしょう。それは、ゾンビと戦わないことです。このまま南に進み、道路の左右に展開した戦士型ゾンビの動きを監視します。たぶん俺達より少し先行したところで、このように距離を詰めて来るはずです。俺達に知られないように行動するはずですから数kmほどの距離を取るでしょう。道路に到達するまでにはそれなりの時間が掛かります。その間にさっさと南に移動すれば包囲を脱することが可能です」


「なるほど、戦士型が翼を閉じようとする前に移動するなら、被害は無さそうだな。残念がる戦士型には爆弾をプレゼントしてあげれば良いだろう。次に同じことを行った場合もその対応位で問題は無さそうだ。……ところで、もう1つ対処法があったようだが?」


「戦力が若干劣るぐらいであれば、相手側が戦力を分散してくれるわけですから中央突破で敗れますよ。全軍がひと塊での中央突破ですから被害はかなり出ますけど陣を破ることは可能です」


 1本の矢のような突撃をすることになる。停まったなら包囲殲滅だからねぇ。

 ストライカーが数十両あるならそれも可能に思えるけど、群がるゾンビを倒し続けたなら倒れたゾンビが障害になりかねない。進軍が止められたならそれまでだからなぁ。あの夏の終わりには、そんな戦いをして殲滅された部隊が多かったんだろうな。


「その無謀な突撃をした友人が沢山いたよ。確かに戦は数ということが良く理解できたんだが……」


「サミー大尉の戦は、ゾンビ相手に正面から構えないのが少し理解できました。戦力差を常に意識しているということですね」


 うんうんとオルバンさんが頷いている。納得しているようだから、あまり言葉を続けない方が良さそうだな。


「そうなると、道路左右のゾンビの監視と、後方のゾンビ監視を常にドローンで行うことになるな。オルバン、バッテリーの予備は持つのだろうか?」


「予備は各ドローンに2個用意してありますし、小型発電機で充電も可能です。そうなると予備機は爆装状態で待機させます」


 俺達の車列が速度を上げると同時に爆撃に向かうのかな?

 戦士型ゾンビが最初の攻撃相手になりそうだ。俺達もグレネードランチャーを準備してその時を待っていた方が良さそうだな。


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