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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-617 先行部隊を2つも出してきた


 ラスベガスの日没時刻は1940時になるらしい。16時に作動した最後のノイズマシンが鳴りやんだところで、少し南に設置したジャックが動き出す。

 これで南に進んでくれるとありがたいんだが、進まないようなら近付いて攻撃するとブラッドさんがトランシーバーで伝えてきた。

 ゾンビ達に銃撃を浴びせる車両が2台もあれば動くに違いないけど、動く数が問題なんだよなぁ。

 5つ目のノイズマシンが鳴りやんだ後で聞こえてきた統率型の声は、短い断続的な声だった。ラッシュの前兆となる統率型の声だから、動いてくれるとは思っているんだが……。


「それで俺達は、ここで夕食ってことか?」


「レーションではなく戦闘食だから、カロリーバーにコーヒーなんだよなぁ。今夜は長いんだろう? 夜食もカロリーバーではねぇ……」


「そこは諦めるしかないんだよなぁ。明日の夕食はペンデルトンで取れるだろうから、それまでは我慢するしかないよ」


俺の言葉にエディ達が苦笑いを浮かべて頷いてくれた。

本人達も分かっているってことかな? とにかく暑いからなぁ。少しは愚痴を言いたくなるんだろう。


「それで、俺達の役目はこのままなのか? 俺達も後ろに下がれば少しは役立つと思うんだけどなぁ」


「ローテーションするそうだから、その時はしっかりとゾンビを攻撃してくれよ。俺はこのまま、先頭車両に乗ることになるけどね」


「サミーの分まで、爆弾を投げておくよ。サミーがこの場所にいてくれるから、前方を気にせずに攻撃できるんだからな」


 今度は俺が、苦笑いを浮かべる番だった。

 確かにその通りなんだろうけど、個人的には俺もゾンビの群れに爆弾を投げたいところなんだよなぁ。


 17時すこし前に、最後のノイズマシンを仕掛けた場所から南に300mのジャック2個がブザーを作動させたとの連絡が来る。


「ニック、ゆっくりと進んでくれ。サミーは聴音装置を頼んだぞ。周囲は俺達が見ているからな」


 聴音装置のヘッドホンだけというわけにもいかないだろう。俺も周囲に目を光らせる。

 もっとも夜間になれば、スターライトスコープをヘルメットに装着していないから、運転席の屋根に付けたライト頼りになりそうだ。それでも100m先を見られるなら問題はないだろう。


「俺達だけで先行するってことか? まぁ、オルバンさん達はドローン対応で忙しいだろうからなぁ」


「そう言う事。俺達以外に2人いるんだからね。荷台の俺達3人で偵察なら十分だと思うよ。危険な奴らがいるようなら、応援を頼めば十分だ」


 そう言って傍らのM79をポンポンと叩く。

 俺と補充兵のデックさんの2人はM79だけどエディはM203だ。バレル長がM79の方が長いからもっと飛ぶのかと思ってたけど、どちらも300mを少し超えるぐらいだそうだ。

「狙うんでしたら、150m以内でしょう」なんて、オルバンさんが教えてくれたけど、今までの俺達のグレネードランチャーの使い方は、ゾンビの群れにただ撃ち込むばかりだったからなぁ。慣れると200mほど先の窓を狙えるとのことだけど、俺達にそんな技量を求められてもねぇ……。


「500mほど先行したところで、速度を落としてくれ。周囲を探るから」


「了解だ。アイドリングで進むぐらいで良いだろう。後ろの車列が近づいたならまた先行すれば良いんだな?」


「常に先を偵察するから、それで良いよ。やばいのを見つけたら屋根を叩くからね」


 現在のところは、調音装置から脅威となる声は聞こえてこない。それでも、後方の北に聴音装置を向けると、潮騒のようナゾンビのざわめきが聞こえてくる。

 釣りだしは上手く行っているみたいだな。

 たまに迫撃砲弾を落としてくれとシグさんに頼んであるけど、今のところは爆撃を控えているようだ。


 19時を過ぎるとだいぶ西日が下がって来た。

 ライルお爺さんの話では、砂漠の日没はそれは綺麗だと言っていたけど、ここでのんびりと日没を眺めるのもなぁ……。

 それよりも日没後の監視は聴音装置とスターライトスコープが頼りになってしまう事の方が心配だ。

 

 急にトランシーバーの呼び出し音が聞こえて来た。

 片方のヘッドホンをトランシーバーの音声に切り替えて報告を聞く。

 どうやら、別動隊を見つけたらしい。それも15号線の左右2kmほどの距離をゾンビの本隊より先に進んでいるらしい。


『先導部隊が2つ。しかも別動隊の前に3体のゾンビがいるという事ですね。その3体を確認してください。案外ステルス型かもしれませんよ。……別動隊の規模が200体前後であれば早めに刈り取るべきでしょうね。後方でゾンビの本隊を誘っているブラッドさんにLAV-25で刈り取れるか確認してください。注意点は全てのハッチを閉めて狩りを始めることだけです』


『了解した。釣りだしの方はヴァイス軍曹に任せよう。サミーはその位置を変えなくとも良いのか?』


『頼れる仲間ですからね。場合によってはブラッドさんの援護に向かいます』


 やはり出たか。今回はン別動隊が2つとはねぇ……。それと、本体の方も少し前回と変わっているようだ。ゾンビの集団が3つあると言うんだから驚きだな。

 15号線の道幅と群れの長さから推測では2万体、5千体、2万体との事だけど、2千体前後の誤差があるだろうな。

 ゾンビの2番手集団は戦士型と言っていたから、通常型で勝負が付かない時には後方から一気に襲い掛かってきそうだ。更に後方の3番手はいろんなゾンビが混じっているそうだ。

 まるで昔の合戦の陣立てみたいだな。やはり士官型ゾンビは戦術を学びつつあるという事になるんだろう。


 再びトランシーバーに着信が入る。

 ブラッドさん達が、先ずは東側を先行するゾンビの群れを刈り始めるらしい。


『サミーの言う通り、やはりステルスゾンビのようだ。肉眼では全く見えないんだが、音声映像装置で存在が分かると言っていた。グレネードを3点バーストで射撃しながら様子を見ると言っていたぞ』


 シグさんとの通話が終わると、誰かが俺の肩を叩く。

 見上げるとエディが東に腕を伸ばして何かを指し示していた。


「あれが中尉達なんだろうな。砂煙が上がっているんだが、その手前を見てくれ!」


「戦士型か! しかも装甲型だ」


 50以上100体未満というところだろう。

 急いで運転席の屋根を叩き、顔を出したニックに速度を落として後ろのオルバンさん達と合流することを伝えた。


「俺達だけではちょっと不安だからなぁ。オルバンさん達がいるなら安心できそうだ。最初はグレネードで行くぞ!」


「そう言う事か。了解だ。爆弾も用意してあるんだけど、せっかくだからなぁ。このライフルを使ってみるよ」


 7.62mmNATO弾で阻止できないとなれば、ジュリーさんのバレットが頼りだけどね。見た感じでは前回と同じぐらいの装甲に見える。皮膚の硬化の初期段階だろう。ヒューストンのような鎧のような装甲でないだけまだマシに思える。

 後続の車両と合流したところで、荷台越しにオルバンさんに状況を伝える。


「そう言う事ですか。あれが戦士型という事ですね。了解です。最初はグレネード、その後に銃撃で行きます!

 

 話を終えて再び東を見ると、すでに戦士型ゾンビの姿が個々に区分できる距離にまで近づいていた。

 グレネードランチャーに初弾を装填して、照門を250mにセットする。

 レーザー距離計を使って、ニックが距離を読み上げてくれる。その声が250mを告げた時、「ファイアー!」と大声を上げた。

 

 シュポン! という気の抜ける音がグレネードランチャーのただ一つの欠点に思える。聞いていると気が抜けるんだよねぇ。

 それでも威力は全くの正反対で、戦士型ゾンビの前衛がグレネード弾の炸裂で吹き飛んでいく。

 さて次は銃撃だ。

 エディ達は直ぐに銃撃を始めたけれど、200m先のゾンビに命中段を与えるのはかなり難しいんだよなぁ。

 3点バーストでなく、シングルアクションでの射撃だから、中々その場に倒れてくれない。距離が100mほどになったところで、俺もマーリンを使って応戦を始めた。


 再び戦士型ゾンビの群れの中でグレネード弾が炸裂する。

 良い感じに一瞬ゾンビの動きが停まったから、すかさず銃弾を浴びせていく。

 チューブマガジンに入った8発を撃ち終えたところで手榴弾を投擲した。

 「パナップル!」と大声を上げると、皆が一斉にピックアップトラックの荷台の陰に隠れてくれた。


 ドォン! という音を確認すると、再び銃撃が始まる。

 急いでマガジンに銃弾を装填して俺も応戦に加わった。


 時間にしたら10分も経過していないのかもしれない。

 急に静かになったので、周囲を眺めると戦士型ゾンビが俺達の車の左手に倒れていた。


「終わったという事かな?」


「聴音装置で確認する限りでは声は聞こえないんだが……」


「再び動き出しても困りますね。念の為にあの頭部に1発ずつ銃弾を撃ち込んでおきましょう」


 確かにその方が安心できそうだ。

 後をオルバンさん達に任せて、俺達は再び車列の先頭に戻ることにした。

 いつの間にか日が暮れているんだよなぁ。

 Tシャツだけ羽織っていたから、丸めてバッグに括りつけていたシャツを取り出して急いで羽織ることにした。


「右手は何とかなったのかな? 少グレネード弾の音が聞こえてたんだけど、今は静かだからなぁ」


「何かあれば連絡が来るだろうけど何もないからね。それより、今夜はよろしく頼むよ」


「先行しているゾンビの群れを2つも叩いたからなぁ。案外何も無いと思うんだけどねぇ」


 エディの言う事も納得できる話ではあるんだが、その裏をかくようなことがあれば俺達の部隊そのものが挟撃されかねない。

 やはり油断は出来ないだろうな。


 オルバンさん達の車から500mほど離れて、周囲を覗いながらキャンピング用のガスストーブで沸かしたコーヒーを頂く。

 満天の星空の下で飲むコーヒーは格別だ。

 タバコに火を点けながら、エディ達に織姫と彦星の話をしていると、「それでそれで……」という声が聞こえて来た。

 エディがトランシーバーのスイッチを入れていたみたいだ。今話を聞いていた兵士が結構いたみたいだな。


「星座の話はギリシャ神話だけだと思ってたんだけどなぁ。日本にもそんな話があるんだね」


「正確に言うと、これは中国の話なんだ。何といってもあの時代の大国だったからね。ローマ帝国とタメを張れるのは古代中国だけだと思うよ」


「そんな2つの大国を結んだ交易路がシルクロードなんだろう? 2千km以上にもなる交易路を商人達は行き来していたんだからなぁ。やはりこの世界で一番強かなのは商人かもしれないね」


 ニックの言葉に笑みを浮かべて頷いたけど、誰もが商人になれたわけではなさそうだ。

 体力があって、交渉力に長け、その上で冒険心が無ければ務まらなかったに違いない。

 俺達はこの広大な大陸で牧場経営をしたいなどと考えているけど、その為に物流を支えてくれる存在が無ければどうしようもないだろうな。

 大統領のプレゼントも気になるところだけど、案外そう言った一連の流れのテストケースを作りたいのかもしれないな。


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