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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-615 釣り出すための攻撃が始まる


 ラスベガスに降下して3日目。今日は、ラスベガスの北東部を中心にジャックを仕掛けて状況を見ることになる。

 いよいよ明日は、残ったゾンビを移動させることになるから昼過ぎからチヌークとナイトホークがやって来て、ノイズマシンの設置を始めた。

 ノイズマシンだけで15個だからなぁ。当初より多い分には何ら問題はない。

 

 16時過ぎに最後のジャックが炸裂したところで、最初に降下した15号線へと戻ることにした。

 明日1日ということで、運んでくれた水でたっぷりとシャワーを浴びての夕食だ。

 15個設置したノイズマシンの作動コード表をヘリが投下してくれたから、明日は状況を見守りながらノイズマシンを動かせば良いだろう。


「調査はこれで終わりだな。それで、推定数は?」


「ラスベガスの地図に仕掛けたジャックの番号を記載し、上空から撮影した画像を添えて生物学研究所に送れば算出してくれるでしょう。俺のざっくりした推測では8万体程度ではないかと思うんですけどね」


「10万体を下回るという事か……。当初の推測よりは少ないが、明日の釣り出しでどれほどゾンビを集められるかが最後の課題になりそうだな」


「ジャックの音で集まってくるゾンビの数が案外少ないんですよねぇ……。5万体に届かないかもしれません」


 こればっかりはやってみないと分からないところもあるんだよなぁ。

 夕食後にペンデルトンに提示連絡を入れたら、明日の1000時にラスベガスの北をA-10攻撃機2機で爆撃してくれるらしい。

 クラスター爆弾とナパーム弾、それにMk81爆弾だから、かなり賑やかな攻撃になるだろう。

 その結果を見てからノイズマシンを動かすつもりだ。


「フーバーダム湖からの水上機も参加してくれるらしいが、あっちは低空飛行をしながらライターで火を点けた爆弾らしいからなぁ」


「それでも十分役立ちます。A-10の攻撃で浮足立ったゾンビ目掛けて落としてくれるんですからね。たぶん30個以上搭載しているでしょうから、20分近くの攻撃になるはずです」


 導火線方式の爆弾はいろんな種類が作られている。俺達が多用するのは1インチ半の鉄パイプだけど、飛行機から落とすならもう一回り口径の大きな2インチの鉄パイプを使った爆弾だろう。威力は2倍ほどあるし、何といっても大きな音を出してくれる。


「我等の行動は1100時ということだな。その後で30kmほどゾンビを釣り出すというんだから、おもしろい作戦ではあるな」


「前回の釣り出しでおもしろい物を作りましたので、今回も使うようですよ。映画のラストで良く見るでしょう? 結婚式を終えた2人が乗り込む車の後ろに付ける玩具ですよ」


「あれか! ブラッド中尉達が苦笑いを浮かべて作っていたなぁ。レーション用の大きな缶詰だから結構良い音がするかもしれんぞ」


ゾンビに良く聞こえるように200m程の距離を保つのが案外難しいらしいが、冷えたビールを飲みながら爆弾を投げるのはさぞかし愉快に違いない。


「後方は中尉の指揮で常に2台が並列して走って欲しい。オルバン少尉に先行をお願いしてドローンによる爆撃を続けるぞ」


「ドローンの指揮はシグさんにお願いします。俺は先行するトラックの荷台で周辺の監視を行いますよ」


 俺の言葉に、しっかりとシグさんが頷いてくれた。とはいえ「連絡は密にお願いする」と釘を刺されてしまったが、それぐらいならね。

 俺達の乗るトラックの後ろをオルバンさん達が乗ったトラックが続くとのことだった。ドローンへ迫撃砲弾を搭載しないといけないからなぁ。

 結構な頻度で車を止めることになりそうに思える

 各自の役割分担を再確認したところで、事前打ち合わせをお開きにする。


 ハンモックに入ると直ぐに睡魔が襲って来る。

 昼の暑さが半端じゃないからなぁ。体を動かさなくとも体力を消耗していたんだろう……。

 

 翌朝、目が覚めたのは朝日が顔に当たったためだった。

 車の向きを良く見ないで、昨夜と同じ場所にハンモックを吊るしたのが良くなかったんだろうな。

 時計を見ると、まだ6時前なんだよねぇ……。これから暑くなるから、二度寝は出来そうもない。

 ハンモックを畳んでピックアップトラックに積みこむと、見張り番の兵士の所に向って、コーヒーを分けて貰う。


「早起きなんですねぇ……」


「朝日が顔に当たってねぇ……。寝る場所を間違えたよ」


 そんな俺の言葉に、笑い声を上げながら紙コップに入れたコーヒーを渡してくれた。

 ちょっと口を付けてみると、顔が横に動くんだよなぁ……。

 バッグから角砂糖を取り出してカップに入れて良く溶かしたところで水で薄めることにした。


「皆は濃いコーヒーを飲めるんだけど、俺には薄めないと無理なんだよなぁ」


「スイート・イズ・ジャスティスでしたか。エディ達が教えてくれたんですが、本当だったんですねぇ」


 濃いコーヒーだけ無理なんだよなぁ。ウイル小父さん達は美味しそうに飲んでいるんだけど、俺には無理だな。そうそうウイスキーもそのままで飲むよりも水割りの方が美味しいんだよね。水が無い時には氷をたっぷりと入れて貰うんだけど、「それは邪道だ!」なんて言うんだからなぁ。


7時近くになると、皆が起き出してくる。

 珍しくエディ達も早起きなんだよなぁ。ゾンビの釣り出しにはまだ先なんだけど、すでにライフルを担いでいる。


 8時にレーションの朝食を頂き、最終確認を終えたところで車に乗り込んだ。

 先ずは、15号線と165号線のジャンクションまで進出して爆撃の様子をドローンで確認する。

 釣り出しの車列を調えたところで、エンジンをアイドリング状態に保つことにした。


「1000時に爆撃が始まる。後15分というところだな」


「種類を変えた爆弾が12発。基本はMk.81ですから見ごたえはあるでしょうね。その後の水上機の攻撃が済んだら、ノイズマシンを作動させますよ」


「11号線沿いに3個だったな。上手く集まってくれると助かるんだが……」


 こればっかりはねぇ。やってみないと何とも言えないんだよなぁ。

 出来れば5万体以上を釣り出したいところではあるんだが……。


 爆撃時刻の5分前にドローンをジャンクションの上空に待機させる。高度は500m程らしいから、ラスベガスの北部までが一望できる。

 さて、どうなるんだろう?

他の車両でも、ナビのモニターでこの画像を見ることが出来るらしい。周囲の警戒をしている連中以外は目を見開いて見ているんだろうな。


 シグさんが静かにカウントダウンを始める。

 それ程大きな声ではないんだけど、しっかりと耳に残るんだよなぁ……。

 カウントゼロを告げた時だった。ラスベガスの北部の広範囲に炎の海が広がった。

 12個の爆弾を落とすと言っていたけど、半数はナパーム弾ってことかな?

 数秒後に遠雷のような炸裂音の轟が聞こえてきた。


「だいぶ派手にナパーム弾を落としたな。その後の爆弾が目立たんほどだ」


「機関砲も使っているみたいですね。あれの一撃を受けたなら建物だって壊れてしまいます」


 30mmガトリング砲の威力は半端じゃないってことか。元々は戦車を破壊するために搭載していると聞いたことがあるからなぁ。戦車は正面からの攻撃には強いらしいけど、上部からの攻撃には極めて弱いとライルお爺さんが教えくれた。


 全弾撃ち尽くした2機のA-10が北西に帰ると、数分の間をおいて今度は水上機2機が爆弾を投下していく。

 低速飛行で落とす60mm迫撃砲弾程の爆弾は、ドローンの映像で見ると先程の爆撃よりも遥かに頼り無く見えてしまう。

 だけど落とす数は結構なものだ。小さくとも炸裂音が此処まで聞こえて来るんだから、ゾンビ達は大騒ぎをしているに違いない。


「まだまだ落とすようですね。爆撃終了時刻を確認してくれませんか?」


「え~と……。これね! 直ぐに確認する!」


 通信機に結んだカードで水上機とのチャンネルを確認したジュリーさんが直ぐに通信を始めた。

 どうやら、そろそろ終わりになるらしい。

 時計を見ると10時半を少し過ぎたところだ。11時丁度にノイズマシンを作動させてみるか。


「シグさん。1100時にノイズマシンを作動してください。作動と同時に次のドローンを前方3kmに移動、上空500mでゾンビの状況を確認します」


「了解。1100時だな。それでサミーは?」


「まだここに居ますよ。でも、ノイズマシンが動き出す前にいったん外に出て周辺の状況を確認します」


 結構派手に爆撃したからなぁ。この辺りのゾンビだって動き出している可能性があるかもしれない。

 ジャンクションの端の上に停めた車列を一回りして、聴音装置から聞こえるゾンビの声を聴く。

 9時半に車列を停めた時に比べると少し騒がしい気もするが、統率型の声は聞こえてこない。

 小形双眼鏡で眺めても、500m程先に足を引き摺るような動きをしたゾンビが2体見えるだけだった。

 距離が離れているからなぁ。周辺を監視している兵士も、そいつらには気付いているみたいだけど射撃までは考えていないようだ。射撃訓練をしても200m離れたゾンビをヘッドショットするのはかなり難しいとオルバンさんも言っていたぐらいだからね。無駄弾を撃たぬようしっかりと注意がなされているようだ。


「ご苦労様です。やはり少し賑やかになっていますが、近くにはいないですね」


「ありがとうございます。こちらでもしっかりと聴いてますから、何かあれば連絡します!」


 トラックの荷台の上から女性兵士が、応えてくれた。

 日本人が常に聞き耳を立てていてくれるなら、ゾンビの囲まれるような事態にはならないだろう。

 だいぶ暑くなってきたから、そろそろキャビンに戻ろう……。


 キャビンの後方の扉を開くと、冷たい空気が俺の体を包んでくれた。

 キャビン内外の温度差が10度以上ありそうな気がするんだよなぁ。絶対に体に良くないと思うんだけど、誰も文句を言う人がいないんだよねぇ。

 アメリカ人は温度差に鈍感なんだろうか?

 ウイル小父さんなんて、真冬でもTシャツ姿の時があるからなぁ。オリーさんにその辺りの事情を教えて貰おうかな?

 俺達だって今はアメリカ人ということになるんだろうから、少しはやせ我慢をしないといけないのかもしれない。


「近場は問題ありませんね。それでノイズマシンの方はどうですか?」


「かなり集まってきているぞ。1km以上離れた地区のゾンビまで動き始めている。ノイズマシンの音量を上げたことで作動時間は40分程度になったそうだ。電源が尽きるまで作動を続け、ゾンビを集めようと思うのだが……」


「それで行きましょう。出来ればノイズマシンの周辺にもジャックを仕掛けたいところですからね。ノイズマシンに集まるゾンビがどれほどの範囲になるのかを確かめておいてください」


 さすがに2kmまで距離が延びるとも思えない。ノイズマシンの改造による効果範囲は是非とも確認しておきたいところだ。


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