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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-610 トレーラーヘッドが装甲車に変わってしまった


 会議室を後にして宿舎のエントランスでコーヒーを飲んでいると、シグさんが笑みを浮かべて帰って来た。

 どうやら使えそうな車両を見付けられたのかな?

 小さなテーブル越しに、コーヒーのカップを持ってシグさんが話を始めた。

 話を聞くにつれて、俺の表情が強張ってくるのが自分でも分かるんだよなぁ。

 道路に乗り捨ててある車両を無理やり退かすのは、トレーラーヘッドと呼ばれる牽引車両になるらしい。重量7tというんだから、かなり頑丈そうだ。少しオプションを付けると言っていたけど、2tを超えることはないと言っていたからどうにかオスプレイで運べそうだ。もう1台は現金輸送用の車両らしい。今時現金輸送車を襲うようなギャングはいないんだろうけど、それなりに防弾措置を施しているということだ。


「元の車両重量が倍になっているが、5t程度に収まっている。中にドローンの操縦システムと通信設備を設置すれば指揮車両になるだろう。どちらの改造も明後日の朝には終了すると西部部隊の班長が胸を叩いていたぞ」


「トレーラーヘッドに乗りたくなりますねぇ。でも、ここはブラッド中尉に譲りましょう。1個班を乗せることは出来るんですよね?」


「可能だ。それも踏まえて、輸送するピックアップトラックの数を見直す必要がありそうだ」


 それは、夕食後に再度確認しよう。

 これで何とかなりそうだな。強いて言うなら暑さ対策なんだけど、運転席からダクトを荷台に引けば少しは涼めるかな?


 夕食が終わると、士官達が会議室に集まってくる。

 シグさんが大型モニやーにラスベガスの航空写真を写しだし、作戦開始日より始まる工程をデイ単位で説明してくれた。

 

「……おおよそ以上が各日毎の作業になる。問題は4日目からだな。ジャックとノイズマシンをラスベガス中央のジャンクション付近から南に向かって1km毎に設置する。ノイズマシンの設置はペンデルトンに任せることになるが、さらに集まるようにジャックも周辺に仕掛ける。これは我等の仕事になる。最後のノイズマシンの設置位置は、自律型ドローンを回収するジャンクションより200m南だ。そこから先南へ30kmほど我等で誘導することになる……」


 かつて行ったゾンビの釣り出しと同じだが、今回は迫撃砲部隊の支援は無い。俺達の攻撃で少しはゾンビを減らせられるだろうけど、ゾンビを始末するのは俺達の仕事ではないからなぁ。


「ゾンビの大群から逃げるだけではないんだな?」


「追いかけてくれないと困ります。200m程の距離を維持しながら、手作り爆弾を放ることになるでしょう。銃弾も2会戦分は欲しいですね。グレネード弾もたっぷり用意してください」


「万が一車が故障した時には、他の車に乗ることになるんだが……。それなら資材運搬用に1台用意しておくべきだろう。モハベ砂漠の暑さは半端じゃないからな」


 ブラッドさんの提案にオルバンさんが頷いているから、その辺りの調整はお任せしよう。

 

「それで、各部隊が搭乗する車両だが……。ブラッド中尉達で、トレーラーヘッドとピックアップトラック、我等の部隊が現金輸送車のバンとピックアップトラック、ヴァイス軍曹達が3台のピックアップトラックとする。サミーの作戦はかなりの数のジャックを使うから、ピックアップトラックに作戦時で20個以上搭載するぞ。他の資材も運ぶことになるから、明日は資材を上手く搭載して欲しい。サミー、追加することがあるか?」


「そうですね。明日の0930時に此処に日本人を集めてくれませんか。俺達ならゾンビの声を長時間聞き続けることができます。ゾンビの警戒は彼らに任せることになりますから注意すべき点を共有します」


今回は都市の中心部に向かうわけではないが、都市の周辺を巡ることになる。さらに進化したゾンビを見付けるチャンスでもあるし、夜間の警戒を行う上での注意点も伝えておかねばなるまい。


「しっかり教えてくれ。俺達だけでステルスゾンビに当たることだってあり得るからなぁ」


「そんなゾンビがいると?」


「あぁ、いたんだよ。サミーが見つけてショットガンでペイント弾を撃ってくれた。後は仲間達が倒したんだ。今回も遭遇するかもしれんぞ」


「しっかりと教えてください。その後で、彼女にショットガンの操作を教えましょう」


 M4カービンと、俺と同じシングルカラムのベレッタを装備させているようだ。

 女性だからねぇ。それで十分に思えるけど、ショットガンはゾンビとの戦いではかなり頼りになることも確かだ。M4カービンの代わりにショットガンを持たせた方が良いかもしれないな。


 打ち合わせが終わったところで部屋に引き上げ、前回の釣り出し作戦の報告書を読みながら、明日の資料作りをする。

 資料と言っても、ゾンビの発する声の周波数とその帯域の一覧だ。

 日本人の志願兵には、全員聴音装置と音声映像装置を配布してあるとのことだから、不定期に可聴周波数を変えることで、危険なゾンビの出現を確認することが出来るだろう。

 スペクトロアナライザーがあればさらに便利に使えるんだが、小型の物はあまり作られていないんだよなぁ。ある程度量産化して、先行偵察部隊には持たせたいところではあるんだが……。

 カードほどの大きさの紙にゾンビの通称、周波数と帯域を表形式で書き込んで終わりにする。朝食時にでもシグさんに頼んでパウチしたカードを皆に渡せば良い。


 腕時計を見ると、まだ23時だ。

 ノートパソコンを開いて、ペンデルトンのネットに接続する。

 今度は、自律型ドローンの捉えた映像と音声を確認してみよう。案外新たな発見があるかもしれない。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌日。朝食の席でシグさんが車両の一部に変更が生じたと伝えてくれた。

 トレーラーヘッドが道路を降りて砂礫地帯を踏破できそうにないとのことだった。


「良いアイデアだと思っていたんだけどなぁ……」


「道路の放置車両を無理やり退かすのであれば、装甲車が一番だと大佐殿が手を回してくれた。LAV-25という装甲車なんだが、ストライカーよりも軽量だから海軍のスタリオンで運べるそうだ」


「そんな装甲車があったんですねぇ。ブラッドさんには伝えたんですか?」


「ちょっと残念そうだったが、納得してくれたよ」


 25mm機関砲と7.62mm機関銃を搭載した砲塔まで付いているらしい。

 戦闘車両が先頭を走るなら、俺達も心強いな。


「明日が出発だから、私はオルバンと準備状況を確認するつもりだ。サミーの銃は確保してあるぞ。44マグナム仕様のマーリンだ」


 結構レバーアクションのライフルはあるみたいだな。

 さすがに威力は7.62mm弾の方が高いらしいけど、至近距離なら十分に役立つに違いない。


「午前中は、日本人の志願兵にレクチャーをする予定です。何かあれば、連絡ください」


「了解だ」


 オルバンさんと一緒なら準備の方も問題はないだろう。エディ達は何をするんだろうな。

 エンジンの分解整備なんて始めないと良いんだけどね。


 ミーティング時間には、まだ間があるからエントランスでコーヒーを飲みながら一服を楽しむ。

 ブラッドさんの部隊にいるケイジさんとは面識があるけど、他の3人とは初めての顔合わせだ。軍の中にだいぶ日本人の志願者が多くなっていると聞いているけど、平和ボケした民族だからなぁ。配属された部隊のお荷物になっていないと良いんだけどねぇ。


 のんびりと一服している俺を見付けたんだろう。エディ達がテーブル越しのソファーに腰を下ろしてタバコに火を点ける。


「サミーは、ゾンビのレクチャーをするんだろう? 俺達は現金輸送車の改造をするんだ。とはいってもドローン操縦用の機器等を設置するだけだけどね」


「前回は暑かったからなぁ。出来れば簡易シャワーをピックアップトラックのどれかに取り付けられないかな?」


「既にタンクとポンプをオルバンさんが探してきたよ。あの時には参ったからなぁ」


 タンクを荷台に乗せて置いたらお湯になりそうだな。たとえバケツ半分であっても汗を流すぐらいは出来るだろう。

 エディ達は、ワインズさんの姿を見て一緒に宿舎を出て行った。

 夕食後に再度状況を確認すれば、計画通りに作戦が遂行できそうだな。


 さて、時間だ。会議室に行ってみるか。

 会議室の扉を開けると、俺を見た4人が椅子から立ち上がり敬礼をする。

 俺より様になってるんだよなぁ。やはり新兵訓練をしっかりと受けたに違いない。

 答礼を済ませて、席に着くように促す。


「一応大尉の肩書を持ってはいますが、あの夏の終わりではハイスクールに在籍してました。その後はずっとゾンビと戦い続けて今ではこの有様です。さて、皆さんを呼んだ理由ですが……」


 ゾンビの声が俺達には聞こえない高音領域にあるのではないかという考えから、聴音装置と音声映像装置を作って貰った経緯を簡単に説明した。

 

「そこで1つ、問題が起こりました。ゾンビの声がコオロギに非常に似ていたんですよねぇ。俺達にとっては心地良い音色でも、欧米人には耐えられないノイズらしいんです。それにノイズということから、その中に含まれる情報を区分できないのも問題でした。この音を聞いてください。……俺達ならスズムシが紛れていることに気付くんですが、俺達の仲間は誰も理解できなかったんです。そんなことから、軍に志願してくる中の日本人にこの音を聞かせて、区別できる人物を見付けるように具申した結果が、皆さん達が此処にいる理由でもあるんです。現在確認されているゾンビとその声を皆さんにお聞かせします……」


 ノートパソコンでペンデルトンのライブラリーにアクセスして、通常型から戦士型、それに伝令型に至る種類のゾンビの声を聞かせる。

 種類が多いことに驚いているようだけど、種類ごとに発する声の周波数がかなり違うんだよねぇ。

 急いで作って貰ったカードを全員に配って、1つの周波数領域に固執しないように中尉する。


「今のところはこんな感じだけど、これからさらに変ったゾンビが出て来るに違いない。そのカードの周波数にこだわらずに、聴音装置が受信する周波数の全領域をたまにスキャンしてくれるとありがたい。新たな種を見付けられるかもしれないからね。俺の場合は小型のスペクトルアナライザーを併用しているんだ。こんな時代だから新たに作るのが難しくはあるんだが、タブレットでその機能が得られるよう技術部門の連中が頑張ってくれているよ。だけど今回は俺が持つアナライザーだけになる。不審な音を確認したなら、いつでも連絡して欲しい。話は以上なんだけど、何か質問はあるかな? 同じ日本人だからね。直接上官に言えないことでも俺ならある程度の対応ができる」


「それなら……」と俺と同年代の女性兵士が小さく手を上げて話をし始めたんだけど、どうやら日本のその後を知りたいようだな。


「俺が分ることは、日本本土への通信に答える存在はいないということ。それに原発の1つが水素爆発を起こした。後は、小笠原から300人ほどの生存者を救出出来たということぐらいかな。あれから数年経過している。小規模なコロニーならまだ生存が可能だという研究機関の意見もある。そんな生存者を見付ける為に原潜が何隻か派遣されているよ。小笠原の生存者もそれで見付けたらしい。もっとも現在は太平洋と大西洋の沿岸地域に限定した調査だ。内陸部は全く状況が分からないけど、ゾンビがあれほど溢れたからねぇ。あまり期待は出来そうにないな」


 俺の話を聞いて肩を落としている。

 家族との連絡が取れずにいたんだろう。淡い希望を持っていたんだろうけど、現状はそれほど甘くはないんだよなぁ。


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― 新着の感想 ―
・淡い期待がサミーの言葉で脆くも霧散した。 ・召集された日本人に階級とかあるんでしょうか。もし臨時の召集であっても危険な前線に赴くのですからそれなりの待遇は必要かと。
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