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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-607 色々と使われている気がする


「色々と使われているのね?」


 明日の昼にドーバーを飛び立つとオリーさんに話したら、直ぐにそんな言葉が返って来た。

 軍人の宿命なのかもしれないな。使い潰されるようなことはないだろうけど、確かに色々と便利に使われているのは確かだろう。

 それだけ信頼を寄せられているのかと思うと、ちょっとしたプレッシャーを感じてしまう。だが、オーロラや汐音の未来を作るためでもある。自分に出来る事なら応えてあげるのが『義』ということになるんだろう。


「明るい未来の為には頑張らないといけないんでしょうね。それにトロント空港は案外楽に終わりましたよ。やはりロイヤルアーミーの矜持もあるんでしょうね。強いて言えば直ぐ近くにゾンビが70万体ほどいるのが問題ではあるんですが……」


「それが、あの質問になるわけね。ゾンビが活発に活動できる温度は限られているみたい。ゾンビの循環体液が凍る温度はマイナス20度近く。その前にゾンビの動きが停まるでしょうね。不思議なことは再び温度が上がれば活動を続けるそうよ。メデューサは低温で冬眠状態になるらしいわ。でも哺乳類の冬眠状態と異なるのは、循環体液や体組織、神経中枢まで凍ってしまっても、温度が上がれば再び動き出す事ね。ゾンビが凍死することが無いと分かった時には、皆が驚いていたわ」


「俺達よりも高温に強いですし、低温にも強いということですか。そうなると不思議な話になるんですが、ゾンビは水を嫌う理由が未だに分からないんですよねぇ。最初は泳げないからだと思っていたんですが……」


「でもニューヨークの地下鉄で、例外を見たことがあるわよねぇ」


 確か膝程に達する汚水の中を、ゾンビが動き回っていたんだよなぁ。

 あれは衝撃的な映像だった。

 やはり何かありそうだな。ヒューストンでは砂浜で貝を採取しているゾンビまでいたからねぇ。波が押し寄せて来たなら膝ぐらいまで海水に浸ってしまうだろう。


「水を嫌うのは何故か……。元々がクラゲの遺伝子に色々と他の生物遺伝子を混ぜ込んでいるのがメデューサでしたよね。クラゲは水棲生物ですし、他に組み込まれた遺伝子の元になった生物も、水は必要としていたはずです」


「了解! 明日にでも議論のネタにしてみるわ。皆も忘れているんじゃないかしら」


 ゾンビの進化に目を向けているからねぇ。ゾンビそのものを科学することを忘れているとは思えないんだけど、どうやら議論をする際に横に置いているに違いない。


「せっかく、明日はオーロラと一緒に遊べるかと思っていたんですけどねぇ」


「今年は山小屋で妹にも会えたから嬉しいんじゃないかしら。来年には一気に兄弟が増えるんですもの。お姉さんとしての自覚も出来たに違いないわ」


 オーロラ姉さんか……。

 もう直ぐ、汐音にそう呼ばれるんだろうなぁ。


 翌日。身支度を整えて、オーロラと手を繋いで朝食に向かう。

 戦闘服姿だから、研究所の食堂では浮いてしまうんだけど俺を知っている人達ばかりだからなぁ。

 俺達3人が食べていると、ヤンセン夫妻が同席してきた。

 挨拶をすると、直ぐに例の答案についてヤンセン博士が感想を話してくれた。


「オリーはどんな点数を付けたのか分からないけど、私は満点を付けたよ。さすがに加点まではしなかったけどね」


「皆も結構良い点を取っているみたい。中でも一番話題に上がったのは、サミー君の神学に対する答えだったわね。私はキリスト教徒だけど、祈りについて考えさせられたわ」


「あれね。確かにサミーはいろんなところで祈るのよねぇ。一番驚いたのは、レッドクリフ作戦の時だったわ。高く上がった炎が監視所でも見えたんだけど、その炎に向って祈っていたのよ。隣でナナも一緒に祈っていたから、日本人ならあの光景に祈るのは当然なのかもしれないわ。炎に祈りを捧げるのはゾロアスター教の影響かと思っていたんだけど……。サミーは、あの炎で焼かれていくゾンビ達に祈りを捧げていたみたい。たとえゾンビであっても……、冥福を祈るということなんでしょうね」


「私達ならそんなことはしないでしょうね。ゾンビであっても天国の門は開かれるという事かしら。知り合いの牧師に、そのことを伝えたら笑みを浮かべて頷いていたわよ。『彼は祈りを理解している』と言ってくれたわ」


 そうなると、あの時に疑問は晴れたことになるんだよねぇ。極楽浄土に行ったとしても、そこから天国に行くことが出来るということになるわけだ。


「生物学も問題なさそうだな。物理学も良い成績らしいよ。所長の知り合いの元教授達も解答を見ているとのことだから、案外幾つかの学部の卒業認定を貰えるんじゃないかな」


「どんな肩書を得ることになるか楽しみです。これで、オーロラにお父さんはハイスクール中退だと言わずに済みますからね」


 俺の言葉に、皆が笑みを浮かべる。

 ちょっと俗な話ではあるんだけど、俺にとっては結構重要な話だからねぇ。『私の成績が悪いのはお父さんに似たからだ!』なんて言われずに済みそうだ。


 朝食を終えると、オリーさんがオーロラを保育園に連れて行く。

 種発は12時とのことだけど、それまでは特に何もないんだよなぁ。

 エントランスで一服しながら、のんびりと時を過ごそう。


 11時30分に、レディさん達が俺を迎えに来てくれた。

 飛行機は3人だけだけど、デンバーでエディ達と合流することになるから、ちょっと大きなジェット機になる。大きいと言っても定員は20人ということだから、本田のジェット機よりも一回り大きいぐらいだ。


定時に飛び立ち、2時間程の空の旅を楽しむ。

 副操縦士から頂いたコーヒーを飲みながら、2人に断ってタバコに火を点ける。

 眼下に見えるのは緑の大地だ。

 たまに集落が見えるんだけど、ゾンビが住んでいるんだろうか?


「……という事になる。士官学校を出てはいないし、海兵隊の初期訓練さえしていないんだ。士官たらしめるのはシグ中尉の仕事になるだろう」


「初期訓練もしなかったと? 士官学校を出ていないのは、あの騒動後という事で理解はしていたが……。はぁ、先が思いやられる話だ。とはいえ、全てを私がカバーするわけでもないのだな?」


「オルバン少尉がいる。作戦に必要な資材の調達は彼に任せれば十分だ。叩き上げの士官だからな。部隊内の信頼も厚いぞ」


 引継ぎという事なんだろうな。

 七海さん達も産休に入るから、その後任が4人やってくるはずだ。ドローンの操縦技術があればとりあえずは問題は無いと思うんだけどねぇ。


 デンバー空港に降り立つと、燃料補給の間を利用してウイル小父さんにトロント空港奪回作戦に参加したことを報告する。

 トロント空港と聞いてちょっと驚いているんだよなぁ。やはり意外な作戦だったという事なんだろう。


「聞いた話では、あの空港の滑走路は短いとのことだったが?」


「滑走路の長さが1千mですからねぇ。ジェット機の離着陸は難しそうです。格納庫に保管されていたのはプロペラ機でしたよ。でも、オンタリオ湖に拠点が出来たことで、5大湖の水運が可能になるでしょう。出来ればスペリオル湖にも拠点が欲しいところです」


「大陸間横断鉄道の荷下ろしだな。山小屋でサミーの話を聞いた時には、その大それたホラ話に驚いたんだが、あれから5年で形になりつつあるってことか……」


「俺も驚いたよ。だが、サミーはしっかりと将来を見据えていたという事になるんだろうな。少年の戯言かと最初は思っていたんだが、よくよく考えてみると実行できそうだと思えたからなぁ」


 ウイル小父さんだけでなく、バリーさんも互いに顔を見合わせて頷いているんだよなぁ。

 俺達の冒険はサマーキャンプの帰還から始まってるんだが、すでに6年目だからねぇ。軍の残存部隊を取りまとめて反撃に転じた統合作戦本部があっての事だろう。それに大統領だって常に前を向いて行動している。


「とんだ休暇になってしまったが、今度はペンデルトンだとはなぁ。全く上手く踊らされているように思えるぞ。とはいえ、対価を大統領がぶら下げていることも確かだ。今頃はどこにするか真剣に悩んでいるんじゃないのか?」


「とりあえずは牧場とは何かを教えて貰えれば十分です。やはり自分達だけで牧場経営をしたいですからね」


「ニック達から話を聞く限りでは、夜逃げコースにまっしぐらだ。メイだって、それが容易に想像できると言っていたぞ。閣下もそれを憂いての事に違いない」


「それで、統合作戦本部は何と?」


「ああ、これか! レディ達の予備役指示書だ。これで2年間は山小屋暮らしが出来るぞ。サミー達のことを心配せずに、自分の体調管理をしっかりとしてほしい。サミー達なら、シグルーン中尉に任せられるはずだ」


 レディさんも山小屋暮らしになるってことだな。産婦人科の良い先生もいることだし、レーヴァさんだって山小屋で暮らすなら、安心して任務を継続できるに違いない。


「とはいえペンデルトンが俺達を呼ぶ理由が分からないんですよねぇ。何か聞いていますか?」


「俺達にも分らんな。サンフランシスコにロサンゼルス、それにサンディエゴや少し離れたラスベガスでゾンビの大移動があった後は、平穏な話しか聞かなかったぞ」


「大都市のゾンビの7割以上が移動したはずだ。その後は都市爆撃や砲撃だけを繰り返しているだけの筈なんだが……」


 予備兵力が1個大隊もあればねえ。

 北から南に向かってゆっくりとゾンビを掃討出来るだろう。

 ここでも、戦力不足が起きているんだよなぁ。

 ウイル小父さんのところだって、少しは増員されてはいるんだろうけど、いまだに2個中隊にも満たない戦力だ。


「分かったら教えてくれ。それと、ペンデルトンで志願兵の訓練をしていると聞いている。出来れば1個小隊ぐらい回して欲しいと伝えてくれんか」


「了解です。陸軍志願兵の訓練を大規模に行っているようですよ。さすがに空軍の方は分りませんが」


 ジェット戦闘機の訓練まではしないでも、コイン機の運用が出来るように訓練はして欲しいところだ。今後ますますコイン機の需要が高まるだろうからねぇ。


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― 新着の感想 ―
「自分に出来る事なら応えてあげるのが『義』ということになるんだろう」 義を見てせざるは勇無き也、なんて申しますから。
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