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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
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H-606 今年中には西と東が繋がりそうだ


 予想では2週間ほどかかると思われていたトロント空港の奪回は、ゾンビが思いのほか少ないことから10日ほどで作戦を終了することになった。

 早く終わるに越したことはないと思うんだけど、兵站が伴わないんだよねぇ。

 100tの積載量のあるバージをタグボートが曳いてくるらしいのだが。まだセントローレンス湾を進んでいる最中らしい。

 とりあえず、銃砲弾を双発輸送機が運んで来たんだけど、始めて見る機体なんだよなぁ。

 レイモンド少佐の話では、アメリカ陸軍が買い込んだイタリア製の輸送機スパルタンとのことだった。10tの貨物を運べるとのことだったけど、離着陸時の滑走距離が1kmにも満たない性能らしい。

 トロント空港の滑走路は短いけれど、スパルタンなら余裕で離着陸が出来ると喜んでいた。


「これで我等の拠点が出来た。セントローレンス湾からスペリオル湖までの運輸が可能になる。さらにはエリー運河を使ってニューヨークのハドソン川。イリノイ・ミシガン運河を経てミシシッピー川の航路も使える。ミシシッピー川については河川艦隊が北上しているとの話だから、この島で共に祝杯をあげたいよ」


 レイモンドさんが壁に張った大きな地図を指揮棒を使いながら兵站について語ってくれる。

 レイルロード作戦は何処まで進んでいるのだろう?

 海軍の陸戦隊が主体だからねぇ。戦力不足ではあるけど、そろそろスペリオル湖近くまで来ているんじゃないかな。


「出来ればスペリオル湖の西にあるダルース市を早目に奪回したいところです。3千mの滑走路は魅力ですよ」


「デンバーの北東になるね。距離はおよそ1.5千km。ゾンビ掃討拠点として是非とも手に入れたいところだ。未だに国境は有効だが、ゾンビ相手の掃討戦であれば越境攻撃も可能だろう」


 同盟を結んでいるから、互いの戦力を融通することもあるんだろうな。だけど、カナダに生存している人間はイギリスからの避難民を合わせても100万人程度だからなぁ。そこから戦力を絞り出すとしても3万人を超えるとは思えない。

 無理をせずに、確実にゾンビを倒していくしかないんだろうな。


「我等はここに残ることになりますが、サミー大尉達には別の任務があると聞いております。ご協力を感謝します」


「同行出来たことを誇りに思います。やはりSASは凄いですね。此処を拠点にして勢力を伸ばしていくことは彼等であるなら容易に思えます。とはいえ、油断は禁物。200mの対岸には70万体を超えるゾンビがいるんですから」


「防備を固めて、ゆっくりと対岸の建物を破壊していくつもりです。L118の射程は17kmありますからね」


 L118はイギリス軍の105mm榴弾砲だ。15kgほどの砲弾を17km飛ばせるんだから驚きだ。そんな大砲自体の重量は2tもないというんだからなぁ。

 バージで8門運んで来るとのことだから、トロント市のゾンビを北に向かって追い出すように都市を破壊していくのだろう。


「スパルタンが明日飛立ちます。それに乗って帰還してください」


「了解しました。それではお元気で!」


 最後に敬礼を交わして、指揮所を後にする。

 陸上艦隊も5大湖への道を作ろうとしているから、今後会うこともあるんじゃないかな。

 とはいえ、それはかなり先になるに違いない。

 8月も終わりだからねぇ。今さら山小屋に戻るのも考えてしまうんだよなぁ。

 とりあえず、統合作戦本部に顔を出して指示を仰ぐことにしよう。

                 ・

                 ・

                 ・

 スパルタンに搭乗して、トロント空港からニューヨーク州の北にあるプラッツバーグ空港に向かう。

 プラッツバーグ空港からドーバー空港まではホンダのジェット機だ。

 やはり小さいけれど旅客機だけあった乗り心地が良いんだよね。

 ドーバー空港に降り立った俺達は、迎えのハンヴィーで統合作戦本部へと向かう。

 昼食が未だだったから、少し遅めの昼食を取っての本部長訪問になる。

 出頭時刻をあらかじめレディさんが伝えてくれたから、問題はないだろう。


「とんだ休暇になってしまったな。次はカンザスということになるのだろう」


「工事がそう簡単に終わるとは思えないんですよねぇ。案外、追加の休暇を連絡してくるかもしれませんよ」


「別の指令を出してくる可能性もあるぞ。油断は出来んな」


 レディさんは悲観的なんだよなぁ。まぁ、その時はその時だと諦めてはいるんだけどね。

 大きなハンバーガーを食べ終えたところで、統合作戦本部のエントランスで会談時間までコーヒーを飲む。

 少しシグさんの事も分かってきたから、レディさんがいなくとも何とかなるに違いない。インストラクターではあったけど、中尉の肩書通りの能力を持っているとレディさんが言ってた。俺に代わって部隊指揮をしっかりとしてくれるに違いない。


「本来なら、しっかりと士官教育をしてあげたいところだが……」


「そんなことをしたなら、除隊願いを出しかねん。海兵隊に入りたかったと言っていたが、それは技術スキルを高めたかっただけらしいからなぁ。部隊内でも友人達と牧場経営の夢を語っているよ」


「牧場だと?」


「現状では、破綻が見えているな。だが、思わぬところから救いの手が差し伸べられているぞ」


 シグさんとレディさんがそんな話で盛り上がっているんだけど、レディさんだって一口乗ろうと考えているんだよなぁ。

 気心の知れた連中で経営する牧場なら、苦労も笑い声で打ち消すことが出来そうに思えるんだけどねぇ。


 会談予定時刻の10分前に席を立つ。

 本部長の執務室だから、ここから5分も掛からない。

 予定時刻5分前に執務室の扉をノックすると、副官が扉を開けてくれた。


 本部長の執務机の前に並んで、先ずは敬礼だ。本部長が答礼を返してくれたところで、窓際のソファーに案内してくれた。

 ソファーに腰を下ろすと、モニターを使ってレディさんがトロント空港奪回の報告を始める。

 小さな島だし、そもそもゾンビの数が少なかったからね。作戦は順調だったんだよなぁ。


「ご苦労だった。これで5大湖の水運を確保できたということになるだろう。途中でプラッツバーグ空港に立ち寄ったはずだ。どうやらニューヨークに入ることが出来たぞ。もっとも東海岸はまだ予定ラインに達していないんだが、それはゾンビの数が多いためで大きな問題があるわけではない。クリスマス前にはフリーダム作戦の第一段階終了を告げることが出来るだろう。これで、アメリカ大陸の東西南北からの攻撃が可能になるのだが……」


 戦力不足を急に補えることは無いからねぇ。

 焦らず確実にということになるんだろうけど、志願兵の数はそれなりにあるとのことだった。

 さすがに訓練もせずに前線に出せないとのことで、ノーフォーク基地の南にあるノッツ島で陸軍が新兵訓練をしているとのことだ。


「歩兵に砲兵、それに騎兵を訓練しているよ。騎兵の希望者が多いんだよねぇ」


 まぁ、それはお国柄もあるんだろう。

 志願兵募集のポスターに騎兵隊の姿を出しているのも影響しているんだろうな。何せ、前時代的な制服だからね。俺だってあんなすがたで馬を駆ってみたいものだ。


「それ以外には、小型船舶の訓練だな。これは河川艦隊の運用にも係わることだが、元漁師達が名乗りを上げてくれたよ」


 LCM(8)と呼ばれる100tクラスの機動揚陸艇のキャビンを色々と改造しているらしい。

 横幅6.5m、全長23mもあるからねぇ。120mm迫撃砲だって搭載できるらしい。

 課題は航続距離と速度なんだけど、燃料タンクを大きくして一回り大きなエンジンを乗せ換えたらしい。

 喫水が浅いから、沿岸都市部への攻撃には最適だろう。


「LCM(8)より少し小さな揚陸艇を艀運搬特化型に改造しているよ。100tクラスの艀を3艘牽出来るだろう。これで西海岸と東海岸の物資輸送の目途が立った」


「少し遠回りではありますが、兵站システムが機能しますね」


「そうなるな。太平洋諸国に点在する基地の資材。それに石油資源と食料の流通が形になりつつある。そうそう、原子力潜水艦による状況調査だが生存者の小さなコロニーを幾つか見付けたそうだ。強襲揚陸艦を使って救出を始めているよ」


 嬉しいことではあるんだが、どのコロニーも小規模とのことだった。最大でも2千人に満たないんではなぁ……。先細りで自滅を待つだけだったろうから、救出された生存者は喜んでいるに違いない。


「大陸や大きな島では、生存者が確認できなかったそうだ。そうそう、日本人も保護したそうだよ。小笠原島で約300人との事だった」


「孤島であったことが幸いしたんでしょうね。本土近くとなれば交通手段がそれなりにありますから」


「そうなるんだろうなぁ。海外の米軍基地もしばらくは機能していたようだが、基地内でゾンビが発生したらしい」


 この先も少しは生存者が発見できるだろう。だが現在の生存者数が大きく変わることはないだろうな。

 となると、やはり戦力不足が浮上して来るんだよねぇ。


「そう悲観することはないぞ。去年の出産者数はドーバーのある半島だけで3千人を超えているんだからね。来年はサミー君達の2番目を生まれるんだから、アメリカの将来は明るく思えるよ」


「そう言って頂けるとありがたいです。一時的には戦力ダウンになってしまいそうですが、その分を含めて頑張りますので……」


 ひたすらペコペコと頭を下げる。

 そんな俺に副官も一緒になって笑みを浮かべているんだよなぁ。


「レディの代わりはシグルーン中尉が引き継ぐと聞いているよ。ペンデルトンからは優秀な兵士を預けると言っていたぞ。それと1つお願いがあると言っていたな。陸上艦隊の車両整備には少し時間が掛かりそうだ。たぶん2週間も掛からないだろう。少将の願いを聞いてやってくれ」


「了解しました。直ぐに出発すればよろしいでしょうか?」


「そう急ぐこともあるまい。明日の10時にデンバーに向ってくれ。そこで仲間達と合流して、サンディエゴ空港に向えば良いだろう。それと、これをウイル中尉に渡してくれんか。レディやサミーの奥さん達の予備役指示書だ」


「原隊復帰はずっと後になると?」


「少なくとも生まれた子が1歳になるまでは、復帰指示書を送らんぞ。子育てだって新たなアメリカを作るための大事な仕事だからな」


 理解がある上官に恵まれた気がするなぁ。

 それにしても、少将が俺達を呼ぶ事が気になる。

 レッドクリフとイオニダスで少しはゾンビが減ったはずなんだけどねぇ。

 サンディエゴのゾンビが動き出したということも考えられるけど、再びレオニダス作戦を行えばペンデルトンから逃げ出すようなことにはならないと思うんだけど……。


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