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いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
605/688

H-605 手を抜いたわけではない


 何度か攻守が入れ替わり、その度に互いの攻撃が紙一重でかわされる。

 カウンター気味の回し蹴りで勝負がついたかと思ったんだが、そのまま打撃方向にジャンプして痛撃を避けるんだからなぁ。

 このまま勝負がつかない気がしてきた時だ。

 互いのハイキックがぶつかり、空中で音を立てる。

 そのまましばらく睨み合っていると、互いに笑みが浮かんでくる。


「なるほど……。噂以上という事だろう。武器を使わずともここまで迫れるとはな……」


「胸をお貸し頂きありがとうございます」


「こちらこそ、礼を言うぞ。やはり現役に戻って正解だった。ベルトを持たずともここまで白兵戦が出来るとは思わなかったぞ」


 握手をして俺達の試合を終わりにしたんだが、俺達を兵士達がいつの間にか取り囲んでいるんだよなぁ。

 エルトンさんまで観戦しているとはねぇ。SASにはSASの訓練があると思うんだけど……。


「中々良い試合でしたね。海兵隊の精鋭ともなれば、我等を凌駕するという事でしょう。我等もマーシャルアーツに似た訓練を行ってはいますが、そこまで技量を上げることは無いですよ」


「ナイフを使えばまた別の結果になっただろう。武器を持たずに相手を無力化するなど実戦ではあまり役立たん。1対1の試合等なおさらだ」


 シグさんの言葉も理解できるんだよなぁ。

 相手を殴ったり蹴ったりして無力化するより、棒で殴る方が効果的だし多勢を相手に出来る。いくら武術の達人でも徒手空拳では直ぐに限界が来てしまうだろう。

 石ころ1つ、短い棒、空き缶だって使いようによっては立派な武器になるからな。


「ゾンビ相手の近接戦闘ではサミー大尉のように棒を使うのが一番だろう。とはいえ数が多ければやはり銃で倒すべきだろうな」


「それを実践するのだから注意が必要だ。群れを分散させれば後ろが楽になると思っての事だろうが、それならブローニングで一掃しても同じことだ」


 レディさんが、俺に目を向け困った口調で呟いている。

 確かにそうなんだろうけどねぇ……。その前に体が動いてしまうんだよなぁ。


「サミー大尉の技量は理解した。行動は今までの報告書を何度も読み返したぞ。彼が軍曹であったなら、大いに賞賛できるだろう。だが士官ともなれば、そうもいくまい。しっかりと手綱を握るつもりだ」


 シグさんの言葉に、レディさんが何度も頷いているんだよなぁ。

 それほど問題行動を起こしているんだろうか?

 自分では、出来る事しかしてないつもりなんだけどねぇ。


 汗を拭きながら拠点に戻り、乾いた喉を紅茶で潤す。出来ればコーヒーが良いんだけど、さすがはロイヤルアーミイという事なんだろうな。


「今まで見たことが無い技を幾つも出してきたな。やはり日本には古武術がまだ残っていたという事だろう。だが全てが無力化を前提にしていないのはどうゆう事だ?」


「もう1動作を加えれば無力化できるでしょう。でもそれが命取りになりかねないという事です。相手をひるませれば逃げ出す余裕だって出来るでしょう。相手を倒すよりも生還を重視していると理解して頂きたい


 そもそもが忍びの技だからなぁ。目的を果たすための武術ではなく、生還するための体術という事になる。

 目的達成を体術で行うなんてことはありえないだろう。当時だって鉄砲、弓、槍、刀があったんだからね。

 だけど、ご先祖様達の選択は正しかったんだろうか? あの当時、一番扱いが面倒でしかも大きな銃声が発生する鉄砲を集団で使っていたんだからなぁ。

 毒を塗った矢を射れば、暗殺は容易だと思うんだけどねぇ……。


「何度も言うようだが、サミーの射撃はかなり偏っている。部下全員、サミーの妻でさえバッジを貰えた射撃訓練で、1人だけバッジを貰えなかったのだ。だが100m以内では狙撃兵を凌ぐぞ。100m以上は新兵以下だ」


「銃弾を前に撃てるなら問題は無い。少なくとも牽制にはなるだろう。レディが何もしなかったとも思えん。そうなると今以上に腕を上げるのは無理という事か」


「射撃は優秀な部下に任せるべきだろう。そういう意味では仕官そのものだ」


 士官連中が聞いたら怒り出しそうだな。

 とはいえ士官が銃を持って戦うなんてことは、早々無かったに違いない。

 特殊部隊や海兵隊が例外という事かな。

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                 ・

 何とか夕暮れ前には、空港の中央広場のゾンビを運び出すことが出来た。

 まだゾンビの声は聞こえてくるけど、広場に姿を現すことは無いだろう。戦士型も始末できたけど、まだ進化の程度が低いようだ。

 複眼と4対の腕止まりだからね。とは言っても1体の戦士型ゾンビの手には短い鉄パイプが握られていた。

 武器を手にするという文化の流れも始まっているようだ。


「戦士型はそれほど進化していないようだな。デンバー空港で初めて見た戦士型に似た姿だ」


「腕が1本多いですよ。今回はグレネード弾で倒しましたから、戦士型の動きを見ていません。デンバー空港の戦士型はかなり素早い動きでしたからね」


「危険だという事か?」


 俺とレディさんの話を聞いていたエルトンさんが問いかけてきた。


「危険だという前提で対処すべきでしょう。少なくとも通常型の数倍は動けますよ。遠距離からのグレネード弾、もしくは口径の大きな銃弾で狙撃したほうが良さそうです」


 装甲型でなければ5.56mm弾でも十分に対処できるに違いない。とはいえせっかく持ってきているんだから7.62mmで狙撃したほうが確実だろう。


 夜間にゾンビ掃討をするのは、ゾンビに利があり過ぎる。

 今日はここまでにして、夕食を取って早めに休むことにしよう。

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                 ・

 トロント空港に降り立って6日が終わろうとしている。

 どうにか2階のゾンビを全て掃討できたようだ。

 エルトンさんがスコット中佐に空港ビルのゾンビを全て駆逐できたことを誇らしげに報告している。

 ちょっと面倒だったからね。それでも全員無事に任務を遂行出来たのだから誇らしくもなるか。


「……了解しました。倒したゾンビの始末を明日中に済ませて、指揮所の構築を始めます。対岸の監視については少し考えないといけないでしょう。簡易的な見張り台を構築することを検討します……」


 どうやら、この空港ビル内に指揮所を設けるつもりのようだ。

 空港の見通しは良いんだけど、対岸はなぁ……。階高が2階だからねぇ。屋上の空調システム用の冷却塔を利用して簡易な見張り台を作ることになりそうだ。だけど、ここは結構緯度が高いからねぇ。冬場を凌げるような作りにしないと、対岸を見張る兵士が凍えてしまうだろう。

 まぁ、それはカナダ軍が上手く考えてくれるに違いない。

 俺達は空港を奪回するのが使命なのだから。


「これで終わりという事なんでしょうか?」


「空港の南にはいくつか島が点在しています。橋や船で行き来していたようですから、そんな島のゾンビも駆逐しておかないと後が面倒です。とはいえ一番の問題は対岸なんですよねぇ」


 エルトンさんが広げた地図を見ると、対岸までの距離は200mにも満たない。対岸までの湖の水深は5mから10mほどらしいのだが、冬季は結氷するとのことだ。


「吹雪にでもなれば、さすがにゾンビの活動もなさそうだが、冬場でもそれなりに動けるようだ。気温0度でもゾンビの活動は可能だぞ」


「この辺りの冬場の平均気温はマイナス10度ですよ。最低気温がマイナス20度近くになることもしばしばとの事でした。ゾンビは熱さにも強いらしいですが、寒さにもそれなりの耐性があるとのことです」


 エルトンさんの言葉に思わずレディさんと顔を見合わせてしまった。

 デンバーは冬場のゾンビ掃討をあまりしていないんだよなあ。どちらかと言うと、拠点にジッと籠っていた気がする。

 ゾンビの寒さに対する耐性については考える必要がありそうだな。

 もっともゾンビは恒温動物の枠を外れているようだから、冬場なら動きが遅いのかもしれない。ゾンビの体の中の体液は凍ることがあるんだろうか? それに消化器や神経系だって俺達人間は温度の変化に弱いからなぁ。


「生物学研究所の見解を確認しておこう。冬場になっても夏と同じように動けるようなら、氷の上を歩いてくるとも限らんからな」


「そうですね。それとエルトンさん。どれほどの暑さに結氷するんでしょうか? 1m程度なら、迫撃砲弾で砕けるように思えるんですが」


「大量のゾンビが移動してきたなら氷を砕いて足止めするということですか! 確認しましょう。対岸への攻撃にも使えそうですから重迫撃砲の依頼もお願いしておきます」


 120mm迫撃砲なら射程が7km近くあるからなぁ。ゆっくりと対岸を更地に出来るだろう。

 とはいえ80mm迫撃砲も準備しておくべきだろうな。何といっても短時間に大量の砲弾を発射できる。

 氷の上を渡ってくるようなラッシュは想像できないけど、連絡通路を押し破ってくるようなラッシュは何度かありそうに思える。


 夕食が終わり、空港ビルの屋上でのんびりと一服を楽しむ。

 対岸からは煩いぐらいにゾンビの声が聞こえてくるんだよなぁ。

 さすがは140万ほどの人間が暮らしていた都市だけのことはある。今でも70万体をこえるゾンビがそのまま住んでいるに違いない。


「どうだ? 結構賑やかなんだろう」


「ええ、賑やかというレベルを超えてますよ。俺がトップなら確実に戦略核を落としてますね」


 それでも半減するまでには至らないだろう。

 人間と違ってゾンビは核に対する耐性があるからなぁ。それに、そんなことをすれば間違いなく進化が加速されるだろう。

 できればこのままの状態でゾンビを減らしていきたいところだ。


「戦略爆撃……。B52を使って数百のMk,82を落としたところで減らせるのは2割ほどだ。だがやらないよりはやるべきだろうな」


「戦区がアメリカではないですからね。力攻めをするようには思えません。やはり当座は対岸から1km程奥までの建物破壊で済ませるように思えます」


「戦力が足りないか……。どこも戦力不足は悩みの種という事なんだろう」


 ゾンビの生息数から言えば、トロントシティはニューヨークといい勝負になりそうな都市だ。

 できれば迂回して孤立させたいところだけど、ニューヨークと違ってそれが出来ないんだよねぇ。

 砲爆撃で数を減らして最後は力攻めという事になるんだろうけど、長い話になりそうだな。


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