表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつだって日はまた昇る  作者: paiちゃん
601/688

H-601 連絡通路建屋の破壊はタイフーンを使うらしい


 そろそろ12時になる。仕掛けたジャックが作動すればゾンビが集まるはずだ。

 仕掛けた場所は、連絡道路の出口にある広場、格納庫前それに此処から南東方向にあるジュニアスクールと浄水場の間の広場だ。

 外乱を受けないならそれほど変わったゾンビはいないはずなんだが、空港ビル内から戦士型や伝令型の声が聞こえたからなぁ。大きな外乱が無くともメデューサの進化速度は俺達の想像以上に速いということになるのかもしれない。


「12時だな。ジャックを仕掛けた場所にドローンを移動して欲しい」


「了解です。操縦はこの指揮所の一角で行いますから、ここから指示できますよ。……聞いたな! 出口広場にドローンを移動しろ。高度は300で良いだろう。浄水場広場にも1機移動しておくんだぞ。反対側だから1台ではバッテリーが持たんはずだ」


 奥の方から「了解!」と返事が聞こえた。

 モニターには空港ビルの窓からどんどん離れて行く映像が映っている。こっちのモニターが北側を映すということかな。もう1台は南を担当するようだ。


「集まって来てはいるが、数はそれほどでも無さそうだ。案外この島のゾンビの総数は想定を下回っているかもしれんぞ」


「それでも空港ビルは面倒ですよ。士官型の声が聞こえましたからね。装甲型まで進化していないことを祈りたいです」


「装甲型と言ったな? もしそいつが出たならどうするんだ?」


 俺達の会話に首を捻っていたシグさんが問い掛けてきた。


「最低でも7,62mmNATO弾が欲しいですね。5.56mmでは至近距離でないと貫通出来ない可能性があります」


「各班にFALを分隊狙撃銃として用意している。念の為にバレットも2丁準備はしているぞ」


「M4カービンにはM203が付いているんだろう?」


「各班に2丁ずつだ。後続部隊に用意させるか?」


 エルトンさんの問い掛けに、レディさんが少し考えたところで頷いた。


「装甲型ゾンビの進化型は小銃で倒してはいないんだ。その前段階はM4カービンとM14DMRを連射して仕留めたぐらいだ」


「面倒ですね……。M203とFALを追加しておきます。用意しておけば万が一の時にも役立ちますからね」


 たとえ数体でも戦士型には戦力を集中することになるだろうからなぁ。

 武器は強力であるほど良いに決まっている。


「だいぶ集まってきましたね。高度を下げてゾンビの顔が分かるようにしてくれませんか?」


 少し大きな声で依頼すると、離れた場所から「了解!」と声が聞こえてきた。

 どんどん画像の中のゾンビの姿が大きくなる。

 さて、先ずは目の確認だな……。


「画像からは、通常型だけに見えるのだが?」


「そうですね。トロントの人口は多かったようですが、核の洗礼を受けていませんし、大規模な爆撃も無かったようです。民間人の救援で多少の砲爆撃はあったと思いますが、大きな外乱には至らなかったようです」


 ぼろぼろの衣服を纏ったゾンビは、まさにゲーム世界から抜け出してきたかのようだ。

 ドローンが高度を下げてくれたから、ゾンビの顔が良く見える。

 口元が真っ黒に汚れているのは、かつて食人をした形跡なのだろう。顔を洗うようなことはしないだろうから、その時の汚れが未だに残っているようだ。

 だが、少し口が大きくないか?

 頬が切り裂かれたかのように奥歯の方まで見えるんだよなぁ。だが、進化ということではないだろう。先を争って人間に食らいついた時に頬が避けたに違いない。

 目に注目すると、濁った眼ではなく少し黒ずんでいる。

 進化したゾンビの多くが複眼を持っているから、濁った灰色の目から黒に変わっているのは複眼への移行期なのかもしれないな。現状のゾンビの視力が気になるところだ。

 耳は少し大きくなってはいるけど、耳の大きな人って案外いるんだよね。視覚の進化が聴覚の進化を抑制している可能性があるかもしれない。

 この画像と俺の印象をオリーさんに伝えておこう。

 だが、そうなるとゾンビの頭部サンプルを要求して来るんだろうなぁ……。


「何を笑っているんだ?」


 レディさんにしっかりと見られてしまった。

 仕方なく訳を話すと、小さく頷いて納得してくれたようだ。


「それなりに進化しているという事か。確かにサミーの見解と画像を送ればサンプルを要求してくるに違いない。いや、本人が来る可能性が高そうだ」


「ですよねぇ……。次のジャック周辺を眺めてみましょう!」


 画像が変われば、話題も少しは変わるだろう。

 今度は格納庫前だな。


 3か所に仕掛けたジャックに集まるゾンビの確認を終えたところで、タバコに火を点ける。

 天井に上る紫煙を眺めながら、ゾンビの姿を思い浮かべると集まって来たゾンビは全て同一種に思える。統率型がいるかもしれないけど、現状ではジャックの立てる騒音で判別できないからなぁ。騒音が収まってから再度確認しないといけないだろう。


 SASの隊員達が管制建屋の1階を補強しているから、物を移動する音が聞こえてくる。

 頑丈にすればそれだけ安心できるからね。増援が来るのは明日の朝だから、それまでは俺達11人で耐えなければならない。


 ジャックが炸裂するまでの10分間を利用して集まって来たゾンビの声を聴く。

 やはり通常型ばかりのようだな。

 そうなると統率型は空港ビル内と連絡通路の奥にいるだけになるのだろうか?

 元々小さな島だし、住宅や公共の建物も多くはない。

 あの騒動で島から対岸のトロントシティに移動してしまったのかもしれないな。


 夕食後に士官を集めて、状況を共有する。

 画像の編集をレディさんが行ってくれているんだけど、レディさんがシグさんに変わったら俺の仕事になりそうだな。


「……以上が、島の状況だ。明日の増援については予定通りで問題はないと考える」


「更なる増援はありませんが、ブラックホークが2機同行してきます。連絡通路の封鎖が少し面倒ではありますが、場合によっては建屋事破壊することで何とかするしかなさそうです」


 車両もグロウラー4両だけでなくピックアップトラックを2台運んで来るそうだ。1個分隊を運べるだろうから、連絡通路閉鎖時にラッシュが起きても迅速な退避が可能だろう。


「これで明日を待つだけになりますね。夜間監視は必要ですが、数時間の睡眠はとらせることが出来るでしょう」


「了解です。装備はそのままにして休ませましょう」


 エルトンさんの言葉にレディさん達が頷いている。

 夜間にうろつくゾンビもいるからなぁ。それに、ここには俺達11人だけだ。管制建屋に籠城することになったとしても即応できる状態にしておきたい。

 

 兵士達が寝静まった中、テーブルに用意した空港ビルの建屋図を広げる。

 連絡通路が対岸と空港の建屋内を繋ぐように作られていたとはなぁ。出来れば広場に開口部を設けておいて欲しかったが、今さら文句を言っても始まらない。

 空港の北をブラックホークで叩くとなれば、空港ビルからゾンビが溢れだしそうだ。

 ちょっとしたラッシュに近い状態になるとなれば、増援部隊の半数はそちらに回すことになるだろう。

 簡易な阻止線を作り、2台のトラックを上手く使って兵士を後退させることになりそうだ。

 残りの2個小隊は、1個小隊を南の阻止線作りに回して、もう1個小隊を使わせて貰って西から建物内のゾンビを掃討して行けば良さそうだな。

 3階に設けた管制室から屋根に下りて、空港方向から聞こえるゾンビの声を再度確認する。

 聴音装置の感度を上げると、統率型や戦士型の声が聞こえてくる。

 低音領域のゾンビの声が聞こえないのは、島が対岸からそれほど離れていないからだろうか?

 ゾンビの棲息数を考えると伝令型がいると思うんだが……。


 夜が更けたところで、指揮所にした事務室に戻りソファーに背中を預けて一眠り。明日は忙しくなりそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 殺気に気付いて、その場で足を踏切りバク転をする。

 腰のナイフを抜いてソファーの背もたれから顔を出すと、呆れた表情のシグさんとナイフを手にしたレディさんが立っていた。


「これでサミーは起きるんだ。寝ていても殺気に反応して反撃体制に移れるんだから白兵戦の訓練は必要ないぞ」


「驚きを通り越して呆れるばかりだな。ここまで動ける兵士は特殊部隊にもいないだろう。本当に訓練をしていないのか?」


「強いて言うならペンデルトンで、紫外線訓練モドキをしたぐらいだろう。もっともあの時はゾンビが潜んでいたんだが、全て1人で対処したぞ」


 まったく困った姉さんだ。

 肩を揺すってくれれば、朝からこんな緊張をしないで済むんだけどなぁ。

 ソファーの後ろから戻って再びソファーに腰を下ろすと、レディさんが湯気の立ったマグカップを渡してくれた。

 先ずは一口……。薄いブラックに砂糖がたっぷり、これがモーニングコーヒーの基本だろう。


「ありがとうございます。こんな起こし方は止めて頂きたいところなんですが……」


「作戦途上であれば、一発で起きて且つ直ぐに指揮をとれる状況であることが望ましい。今のやり方が一番に思うぞ」


 そんな言葉を聞いて溜息を漏らす。

 一服しながらレディさんに状況を訊ねると、すでに増援部隊が飛立っているようだ。

 オスプレイ3機にブラックホークが2機ということだが、さらにタイフーンが1機やってくるらしい。

 どうやら、ブラックホークで連絡通路のある建物を破壊することに無理があると本部の方で判断したようだ。500ポンド誘導爆弾を4個搭載してくるとのことだから、俺達が行動を起こすのは爆撃後ということになる。


「イギリスから持って来たんでしょうか?」


「イギリス空母はF35を搭載しているのだが、甲板に露天駐機して10機程運んで来たようだ。使える内に使うという事だろう」


 作戦区域からだいぶ離れているからなぁ。コイン機での爆撃は出来ないということなんだろう。

 取り合えず、朝食を食べて増援が来るのを待てば良さそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ