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悪役令嬢は穏便に別れたい  作者: もののめ明
おまけ

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49/51

ロクサーヌ(デート後編)

続けて2つ、上げています。こちら、後編です。

 そのあとアクセサリー店に行き、マティアス様から髪飾りを贈ってもらった。

 お揃いの指輪も買い、幸せな気分がますます高まる。

 お昼は、テラス席のあるカフェだ。

 少し小高い丘の途中のカフェなので、テラス席からは街が見下ろせた。隣との席の間には観葉植物が置いてあって目隠しとなり、恋人たちには持ってこいのカフェではないだろうか。

 ノエミ様はどうするのだろう?と心配になったけど、ぼっち飯で全然平気らしい。わたくしたちが見える席に座り、得意気に手を振っている。

 街を見下ろす席は、横並びに座る席だった。

 こういう席は初めて。少し戸惑ってしまう。そして座ってみれば、肘が触れ合うほど近く……うう、緊張する~。

 だけど、向かい合わせに比べれば視線が気にならないので、こういう形も良いかも知れない。

 さて、今回、わたくしにはヴァレリー様から授けられた秘策がある。

「あ~ん」が恥ずかしいとヴァレリー様に相談したら、

「そういうのは、先制攻撃をした方がいい」と言われたのだ。

「受け身ではいけない。相手に翻弄されるのではなく、貴女が向こうを翻弄させるんだ」

 ヴァレリー様いわく、わたくしが先に「食べさせてください」と言って、上目遣いで可愛くねだるのが良いらしい。口はパカーンと大きく開けるのではなく、小さめに、やや突き出すような形が理想なんだとか。

 ヴァレリー様指導のもと練習したが、これがなかなか難しい。ついでに、様は付けずに愛称で呼び掛けるように!と言われた。

 だ、大丈夫かしら。


 ───料理がきて、わたくしは臨戦態勢になった。

 ヴァレリー様。わたくし、ミッションをしっかりこなして見せますわ!

「あ、あの。食べさせてくださらない?……マティ」

 指導通りに上目遣いであ~んとしたら……マティアス様は目を大きく開いたまま硬直してしまった。

 あら?失敗かしら……??

 ど、どうしましょう。失敗だった場合の対応は考えてないわ。

 だけど、マティアス様はみるみる真っ赤になり、片手で顔を覆って俯いてしまった。

 まあ!

 こ、これはまさか成功?!

 ヴァレリー様、ありがとうございます!わたくし、なんだか恋愛上級者になれた気分です!!

 ───ところが。

 その後が大変だった。マティアス様がとっても、とっても、とっても甘くなってしまって。わたくしはずっと腰を抱かれたまま、べったりとくっついてランチを食べることになってしまったのだ。

 ヴァレリー様……これ、逆効果じゃないですかぁぁぁ!


 ということで、わたくしの精神力は大ダメージを受け、すっかり瀕死状態になったものの、午後は観劇へ。

 今の精神状態でイチャラブな恋愛劇は耐えられないかも、と心配していたら……なんと見るのは冒険活劇だった。

「騎士団や侍従の皆に聞いて回ったら、この演目が一番人気だったんだ」

 まあ!マティアス様ってば、ちゃんと事前リサーチしてくれたの?

 では、とても楽しみだわ。

 ちなみに後ろでは、それまでウッキウキだったノエミ様が「ええ?それ違う~」と言った顔をしているが、無視、無視。

 恋愛初心者には、甘いのが続くと消化不良で腹痛が起きるんです。途中で、しょっぱいものを混ぜてもらわないと。

 ───冒険活劇は、涙あり笑いあり、手に汗握る展開あり、そして最後は感動の大団円で素晴らしいものだった。非常に惹き込まれる内容だったおかげで、二時間はあっという間だ。

「うっうっうっ……仲間がみんな助かって、無事に脱出できてよかったですぅぅぅ」

 劇が終わり、わたくしが感動で咽び泣いていたら……隣のマティアス様は大きくへの字に結んでいた口を押さえ、突然、体を二つに折ってしまった。

「マ、マティアス様?!大丈夫ですか!!」

「ぶっ……ははっ!ロ、ロキシーの百面相が面白すぎて……劇中、何度も吹き出しそうになった……!ハ、ハハハッ!!」

「ええっ?!」

 げ、劇ではなく。

 わたくしをずっと見てらしたの?!しかも、面白すぎって何!!

「は、腹が痛い……よじれる……!」

 ひっどーい。わたくしは見せ物じゃありません!


 もう、もうもう!

 わたくしは劇場を大急ぎで後にした。

 わたくしがヘソを曲げたからだろう。大笑いしていたマティアス様はなんとか笑いを収めて、急いで追ってきた。そして、わたくしの肩を抱く。

「すまん。笑いすぎた」

「本当に反省してますか?」

「してる。申し訳ない!……もう、こんなことはしないから」

「こんなこととは?」

「真剣に劇を見ているロキシーを観察して……くっ……わ、笑ったり……笑ったりは……!」

 はあ。

 ぜーんぜん反省してないじゃないですか。

 まあ、でも。形は違えど、マティアス様も楽しかったのならいいわ。特別に許してあげましょう。

 とはいえ、これからはマティアス様とは劇は見に行かないんだから。


 こうして、なんだか盛り沢山なデートは終わりを迎えた。

 マティアス様と共に、満足そうなノエミ様を送り、それからゴティエ家のタウンハウスへ。

「今日は楽しかった。王都を出るまでに、もう1回くらいはデートに行こう。次はノエミ抜きで」

「……観劇は無しですからね?」

「ふ、ふふ。わかった」

 本当に分かっているのかしら?

 でも、そうね、マティアス様とのデートは……何回だってやりたい。恥ずかしいことも多いけど、ずっと、幸せでふわふわした気分だもの。

 マティアス様が、そっと額に口付けをくれる。額がほんのり熱を持ったよう。

 名残惜しいけれど、そろそろお別れを言おうとして───マティアス様が躊躇いがちに言葉を紡いだ。

「最後に……どうしても気になって、ロキシーに聞いておきたいことがあるんだが」

「はい?なんでしょう?」

 ノエミ様とヒューゴ様のような関係を目指すなら、隠しごとは厳禁ですよね。気になることは遠慮なく聞いていただかねば。

「まだ学院で寮生活だったとき。夜中に俺の部屋へ来たことがあっただろう?月に魅入れて……と言っていたが、本当か?ロキシーは、ときどき夜中に一人で散歩したりするのか?」

 ッ?!!

 な、なんでっ!?

 わたくしが、もうすっかり忘れていた過去を、何故、今さら掘り出したの?!

「夜想宮や王宮にいる間、夜中に外出することはなかったようだが。俺がいなくなってから、夜中の散歩をするんじゃないかと心配になってな……」

「あ、あれは……」

 マティアス様の鮮やかな翠の瞳が、不安そうに揺れている。

 ううう。

 隠しごとは厳禁……さっき、わたくしが自分でそう思ったのよね。そう、隠しごとはダメ……そうよね……。

「あの頃……わたくしは、マティアス様から婚約解消して欲しかったのです」

「うん。いつか、邪魔だと切り捨てられる未来がイヤだと言っていたな」

「よく覚えておられますね。……それでですね……よ、夜這いするはしたない女なら、即、解消になるかと…………」

 あああ、消えてしまいたい!

 まさか、この告白をする日が来るなんて!

 真っ赤になって顔を両手で覆ったら、「夜這い……」と呟くマティアス様の声が聞こえた。

 駄目だわ。

 今。

 今、婚約解消されるかも~。

 ……絶望感で倒れそうになったら、突然、がしっとマティアス様に抱き寄せられた。

「……今夜。俺の部屋に来るか?」

「は?……えっ?!」

「これから、3年も離れるだろう?その前に……ロキシーの身も心も、すべて俺のものにしておきたかった」

 婚約解消どころか。

 夜這い、大歓迎?!

「ダ、ダメです!!婚姻前に、そ、そういうことは……!」

「バレなければいいさ。いずれ結婚するんだから」

「ダメ、ダメですぅ!マ、マティアス様のスケベ!!」

 あーん、正直に全部話すんじゃなかったぁぁぁ!




   *** おまけ ***




 初々しくも熱烈なマティアスとロクサーヌのデートを間近でたっぷり堪能したノエミは、ホクホクした気分で帰宅した。今夜は、興奮して眠れないかも知れない。

 ───家には、婚約者のヒューゴが訪れていた。ソファでのんびり寛いでいる。

「あら、ヒュー。どうしたの?」

「ん。他人のデート鑑賞なんていう趣味の悪い1日の成果は、どんなものだったか聞こうと思って」

 趣味が悪いと言われ、ノエミは口を尖らせた。

 先にロクサーヌが自分たちのデートを見ていたのだから、その言い方はないと思う。

「とぉっても良かったわよ?ヒューと違ってマティアス殿下は甘くてカッコ良くて、最高~。もう、ドキドキしちゃった!」

「そうか」

 ヒューゴは低く呟き、立ち上がった。

 無表情にノエミに近付き、すっと顔を寄せる。顎を掴まれ、真っ直ぐに見つめられる。

「ヒュー……なにを……」

「他の男を熱心に見てるんじゃないよ。見るんなら、僕だけにするんだ」

「え」

 ドキン!と胸が鳴った。

 自然と頬に血が上る。

 するとヒューゴはすぐに手を離し、ニヤッと笑った。

「ビックリしたか?はは、恋愛小説みたいな台詞を吐いたら、ノエミはすぐ反応するな~。チョロすぎるだろ」

「なっ、ち、ちがうもん!……ビ、ビックリしただけだから!もう、やっぱヒューって最低~!」

 バンバンと遠慮なくヒューゴの背中を叩き、ノエミは先ほどの甘酸っぱい衝撃を必死に打ち消した──―。

いつの間にかポイントが増えており、気が付けば、現在、私の作品の中で一番評価の高い作品になっています。

恋愛物は下手だなぁと未熟さをひしひし感じていますが、ブクマや評価をいただき、だいぶ励みになりました。ありがとうございます!


明日、もう1話、おまけ話を上げます。

こちらは全く甘くない話。マティアスとヒューゴの幼少期編です。

ヒューゴとノエミの出会い編も頭の中にはあるんですが、こっちは特に本編と関係ないし、どうしようかなぁ……。

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ミーティアノベルス様より、電子書籍化です!
第1巻:2025/03/06~
第2巻:2025/04/03~
「悪役令嬢は穏便に別れたい」
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第1巻では、ロクサーヌとマティアスの出会い編や、マティアスの女子寮忍び込み事件の詳細を書き下ろしています
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