【五巻発売記念SS】皇太子妃の発表《スカーレット side》
────フリューゲル学園を無事に卒業した数ヶ月後。
皇城で大きなパーティーを開くことに。
大貴族から準貴族に至るまであらゆる人々をお招きしているため、重要な催しであることは確実。
実際、このパーティーの趣旨は────皇太子妃の発表だから。
つまり、主役は私……。
ギュッと胸元を握り締め、私は少しばかり表情を強ばらせる。
いざ本番となると、緊張してしまって。
新調した水色のドレスや編み込みした髪を一瞥し、深呼吸を繰り返した。
その際────控え室の扉をノックされる。
「スカーレット、準備はもういいかい?」
扉の向こうから聞こえてくる柔らかい声に、私はハッとして顔を上げた。
と同時に、ドレッサーの前から立ち上がる。
考えるよりも先に体が動くとでも言うべきか、気づけば部屋の扉を開けていた。
だって、そこには大好きな人が居るんだから。
会いたい、と思うのが当然だろう。
「レオ殿下!」
正装姿の愛しき人を見上げ、私は堪らず頬を緩めた。
『主色の白も、差し色の金もレオ殿下によく似合っている』と考えながら。
「いきなり飛び出してきたら危ないよ、スカーレット」
「あっ、ごめんなさい」
はしたない真似をしてしまったことに今更ながら気が付き、私はシュンと肩を落とす。
すると、レオ殿下は小さく笑って私の頬を撫でた。
「いや、別に構わないよ。今度からは、気をつけてね。それじゃあ、そろそろ行こうか」
『時間だ』と主張し、レオ殿下はスッと手を差し伸べる。
当たり前のようにエスコートしようとしてくれる彼に、私は目を見開いた。
なんだか、ようやく皇太子妃になる実感が……好きな人と結ばれる実感が、湧いてきて。
これから先、この手を取るのもレオ殿下の隣を歩くのも私だけなのね。
胸の奥がじんわりと熱くなる感覚を覚えながら、私はレオ殿下の手を取る。
と同時に、歩き出した。
パーティー会場であるホールを目指して。
何故だろう?今はあまり緊張していない。
レオ殿下が傍に居てくれるおかげかしら?
先程までの動悸や息苦しさが嘘のように解消され、私はスッと目を細める。
今も昔もレオ殿下に救われてばかりだな、と思って。
『やっぱり、私は殿下のことが好き』と再度自覚する中、パーティー会場の前まで辿り着いた。
観音開きの扉を前に、私はしゃんと胸を張る。
「────レオナルド・アレス・ドラコニア皇太子殿下とスカーレット・ローザ・メイヤーズ伯爵令嬢の入場です!」
衛兵の号令と共に観音開きの扉は開け放たれ、私達は前へ一歩踏み出した。
その瞬間、会場内はザワザワと騒がしくなる。
恐らく、このパーティーの趣旨を理解している貴族達が動揺を示したのだろう。
皇太子妃はあの女なのか、と。
「大丈夫だよ、スカーレット。怖がらないで、しっかり前を見るんだ」
及び腰になる私を気遣い、レオ殿下は『安心して』と言い聞かせる。
そのおかげか、値踏みするような貴族の視線などもう気にならなくなった。
正当な手段で勝ち取った座なんだから、堂々としていましょう。
『気圧されてはダメ』と奮起し、私は玉座の前まで歩を進める。
そして、おもむろに足を止めると、後ろを振り向いた。
と同時に、会場内は静まり返る。
「今日は皆、集まってくれてありがとう。色々な人に会えて、とても嬉しいよ」
今回のパーティーの主催者であるレオ殿下は、にこやかに挨拶を始めた。
メイドの一人からワイングラスを受け取りつつ、前を向く。
「早速乾杯して君達と交流を深めたいところだけど、その前に大事な話があるんだ。聞いてくれるかい?」
グラスの一つを私に手渡してニッコリ微笑み、レオ殿下は一歩前へ出た。
「実は先日、生涯を共にするパートナーを決めたんだ。当初の皇太子妃候補には居なかった子だから戸惑うかもしれないけど、どうか祝福してほしい。私が選んだ、たった一人の伴侶だからね」
『能力は保証するよ』と言い、レオ殿下はそっと私の腰を抱き寄せる。
と同時に、こちらを見て柔らかく微笑んだ。
「それでは、紹介しよう────私の妃となるスカーレット・ローザ・メイヤーズ伯爵令嬢だ」
心做しかいつもより柔らかい声で宣言し、レオ殿下は前を向く。
その瞬間────『おめでとうございます』と私達の仲を祝う声が、響いた。
それも、複数。
シャーロットや両親の声……だけじゃない?
明らかに想定より多い祝福に対し、私は目を見開く。
すると、小さく拍手するアイザックやディーナ卿の姿が目に入った。
「ほら、だから言っただろう?大丈夫だ、と」
レオ殿下は優しく私の肩を叩き、エメラルドの瞳をスッと細める。
と同時に、ワイングラスを小さく揺らした。
「では、そろそろ乾杯と行こうか。皆、私の話に付き合ってくれてありがとう」
そう言うが早いか貴族達の方へ視線を戻し、レオ殿下は姿勢を正す。
「ドラコニア帝国の明るい未来を祝して────乾杯」
手に持ったグラスを軽く持ち上げ、レオ殿下は僅かに表情を和らげた。




