【五巻発売記念SS】結婚式《アイザック side》
────フリューゲル学園を無事に卒業した数年後。
僕はやっとの思いで、ステファニーとの結婚に漕ぎ着けた。
嗚呼、ここまで本当に長かったな……。
結婚式の会場として選んだ教会の控え室にて、僕は感嘆にも似た溜め息を漏らす。
なんだか、感慨深い気持ちになってしまって。
「夢じゃ……ないんだよね」
白のタキシードに身を包む自分を鏡で確認し、僕はやっと結婚するんだという実感が湧いてくる。
────と、ここで部屋の扉をノックされた。
「ステファニーの準備はもう終わったよ、アイザック。入場に備えてそろそろ移動したいんだけど、大丈夫かい?」
扉越しに聞こえてくる幼馴染みの声に、僕はハッとする。
一人で感動に浸っている場合じゃない、と。
「い、今行くよ」
急いで椅子から立ち上がり、白の手袋を嵌める僕は廊下へ出る。
と同時に、レオと顔を合わせた。
「そんなに焦らなくてもいいよ、アイザック」
ジャケットの襟を直しながらそう言い、レオはクスリと笑みを漏らす。
その瞬間────隣の控え室の扉が、開いた。
『あそこは確か、ステファニーの……』と思案する中、真っ白なドレスを目にする。
「わぁ……!」
思わず歓喜の声を上げる僕は、ウェディングドレスに身を包むステファニーに釘付けとなった。
準備の段階で、何度か見ている筈なのに。
『凄く綺麗……』と目を輝かせる僕を前に、ステファニーは小さく笑う。
「アイザックもよく似合っているわよ」
「えっ?あ、ありがとう」
僅かに頬を紅潮させて俯き、僕は頭の後ろに手を回す。
なんだか擽ったい気持ちになって照れていると、不意に手を差し出された。
「エスコートをお願い出来るかしら?私の未来の旦那様」
『未来と言うほど遠くないけど』と肩を竦め、ステファニーはこちらの顔を覗き込んでくる。
吸い込まれそうなほど綺麗なアメジストの瞳を前に、僕は慌てて姿勢を正した。
「も、もちろん。僕のお嫁さんのためだったら、どこまでだってエスコートするよ」
差し出された手を優しく掴み、僕は表情を引き締める。
でも、この世で一番可愛いステファニーを前にすると、つい頬が緩んでしまって……いつの間にか、笑っていた。
「じゃあ、行こうか」
そう一声掛けてから歩き出し、僕は皆の待つメインホールへ向かう。
あれ?そういえば、レオはどこに行ったんだろう?
キョロキョロと辺りを見回し、僕は知らないうちに居なくなっていた幼馴染みを探す。
が、『先に会場へ行ったんだろう』と結論づけ、直ぐに気持ちを切り替えた。
今はとにかく、結婚式に集中しないといけないため。
『ステファニーのためにも、いい式にしなくては』と張り切る中、会場の前まで足を運ぶ。
と同時に、
「新郎新婦のご入場です」
というアナウンスが流れ、観音開きの扉を開け放たれた。
その瞬間、オーケストラが優雅な音楽を奏で、招待客達は拍手を巻き起こす。
すっかり祝福ムードに包まれる会場を前に、僕とステファニーは笑みを漏らした。
ようやく実った初恋を、多くの人に祝ってもらえるのはやっぱり嬉しくて。
『あっ、ちゃんとレオの姿もあるな』と確認しながらバージンロードを進み、神官の前で足を止めた。
すると、音楽や拍手はピタリと止まる。
途端に静まり返る会場を前に、神官の男性は口を開いた。
「新郎アイザック・ケネス・ブライアント、新婦ステファニー・シビル・ドラコニア両名に問う。二人は互いを生涯の伴侶として認め、愛し、添い遂げることを誓いますか?」
穏やかな声色でお決まりの質問を投げ掛け、神官の男性はにこやかに笑う。
『微笑ましい』と言わんばかりに目尻を下げる彼の前で、僕はステファニーと顔を見合わせた。
と同時に、どちらからともなく頷き合う。
「「はい、誓います」」
自分の人生において、彼以上の伴侶など居ないと確信しているため、迷わずそう答えた。
すると、互いの両親や友人が嬉しそうに頬を緩める。
まあ、オズワルト皇帝陛下だけちょっと複雑そうだが。
やっと完治した娘を奪われて、寂しいのだろう。
『そこはちょっと申し訳ない気もするな』と内心苦笑する中、神官の男性は両手を広げる。
「では、誓いのキスを」
その言葉を聞いた途端、僕は一気に表情を強ばらせた。
だって、キスするのは初めてだから。
『一応、事前にあれこれ調べたけど……』と考えつつ、僕はステファニーの方へ向き直る。
震える手でウェディングベールを取り払い、彼女の頬に手を添えた。
「す、ステファニー……するよ?」
「ええ」
あまり緊張していないのか、ステファニーは平然とした様子で目を瞑る。
『いつでも、どうぞ』と言わんばかりの対応に、僕は少しばかりショックを受けた。
初めてのキスに感情を掻き乱されているのは自分だけかと思うと、なんだか悲しくて。
何より、自分が情けなかった。
『キス一つで慌てるなんて、格好悪いな』と感じながら、ゆっくりと顔を近づける。
その際────赤く染まった彼女の耳を見つけてしまった。
……ステファニーも顔に出さないだけで、僕と同じように緊張してくれているのかな?
だとしたら、嬉しいな。
うんと目を細めて歓喜し、僕は親指の腹でステファニーの唇を優しく撫でる。
その途端、彼女の肩が揺れて緊張していることを伝えてくれた。
「ふふっ」
思わず笑みを漏らす僕は、おもむろに目を閉じる。
「愛しているよ、ステファニー」
ほぼ無意識に愛の言葉を口走り、僕は唇を重ねた。
と同時に、周囲から歓声が上がる。
何故か、その中に耳鳴りのような声も混ざっていたものの……気にせず、皆の祝福を受け止めた。
「……ずるいわよ、アイザック」
唇が離れるなり、ステファニーは不満を露わにする。
耳のみならず頬まで赤くする彼女を前に、僕は頬を緩めた。
「ふふふっ。ごめんね?あんまりにもステファニーが可愛かったものだから、つい」
「そういう言い方もずるいわ、もう……」
拗ねたように口先を尖らせ、ステファニーはこちらを軽く睨む。
が、全く怖くなかった。
『むしろ、凄く愛らしい』と考えていると、彼女は人差し指で僕の胸元を突く。
「後で覚悟しておきなさい」
『絶対にやり返す』という意思表示を行い、ステファニーは意地悪っぽく微笑んだ。
────その後、皆の見ていないところで突然唇を奪われたのはまた別のお話……。




