【四巻発売&縦読みフルカラー化記念SS】星《ルーベン side》
────どうして、僕はこんな生き方しか出来ないのだろう?
意地の悪い考え方しか出来ないから?
自分本位だから?
両親に人を騙し、操り、殺めることしか教えられなかったから?
いいや、きっと違う……たとえ、真っ当に生きようとしても出来なかった筈だ。
だって、僕は────パーソンズ公爵家に代々仕えるギャレット家の人間だから。
産み落とされたその瞬間から、僕の生き方は……運命は決まっていた。
『初めて人を殺したのは六歳の誕生日だったか……』と思い返しながら、学園の廊下を歩く。
文化祭の準備ですっかり様変わりした校内は、キラキラしていて……とても眩しかった。
自分も普通の人間だったなら、この光景を喜べたのだろうか────と自問自答しつつ、僕は屋上へ出た。
夜空に輝く星々を見上げ、『決行の日も近いな』と考える。
「────こんなところで、何をしているんだい?」
聞き覚えのある声を耳にし、僕は慌てて後ろを振り返った。
すると、そこには────カーター伯爵の姿が……。
いつの間に真後ろに……!?
音もなく忍び寄ってきたカーター伯爵に、僕は驚愕を露わにする。
『油断も隙もないな……』と思いながら。
「ちょっと夜空を眺めていただけです。そういうカーター伯爵はどうして、こちらに?」
「私はちょっと外の空気を吸いたくてね」
見え透いた嘘を吐き、手すりに近づくカーター伯爵はそっと身を乗り出した。
ふわりと優しく頬を撫でる夜風に目を細め、彼はじっと星空を眺める。
今なら、事故に見せ掛けて転落死させられるのでは……?
いや、待て。相手は校舎の屋根から飛び降りても、ピンピンしている人物だぞ?
たとえ、不意打ちでも華麗に着地される未来が見える……。
カーター伯爵の優れた身体強化を思い浮かべ、僕は心の中で『無理だ』と首を横に振った。
『果たして、この化け物を倒せるやつは居るのか』と考える中、カーター伯爵が口を開く。
「君は────命を燃やして輝く星のようだね」
唐突に意味不明なことを口走るカーター伯爵は、星に向かって手を伸ばした。
「いつか破滅すると分かっていても、夜に呑み込まれたくなくて必死に輝く。まさに星そのものさ」
暗喩を使って遠回しに警告しているのか……カーター伯爵は分かりづらい言葉を並べる。
きっと、『これ以上、変な真似はするな』と釘を刺しているんだろうが……選んだ表現のせいか、それとも柔らかい声色のせいか全然怖くなかった。
『情に訴えかける作戦か?』と思案しつつ、僕は一つ息を吐く。
「……哀れだと思いますか?」
「さあ?それは何とも言えないね。ただ────美しくない生き方だとは思うよ」
キッパリと僕の生き方を否定するカーター伯爵に、思わず目を見開く。
『そこは嘘でもいいから褒めておけよ』と、思いながら。
「それは……醜いという意味でしょうか?」
「歪だとは思うが、醜いとは感じないよ」
『同じ生き方をしたいとは到底思わないけど』と付け足し、カーター伯爵は踵を返した。
言いたいことを言えて、スッキリしたのだろう。
『結局、僕に釘を刺しに来ただけか?』と首を傾げていると、カーター伯爵は扉の前でいきなり足を止める。
そして、視線だけこちらに向けた。
「もし────美しくなりたかったら、私のところへ来るといい。そのための道を示そう」
投降勧告と捉えられる捨て台詞を残し、カーター伯爵は屋上から出ていった。
一人取り残された僕は、彼なりの最後の温情に目を剥く。
と同時に、小さく笑った。
「美しく、か……血と泥に塗れた僕には、到底無理だね」
『もう全て手遅れだ』と呟き、僕は投降勧告を静かに退ける。
どこか歪に見える星々の輝きを眺め、スッと目を細めた。
死にたくなくてもがいているのに、僕は結局死へ向かっているのか……実に無様だね。




