【二巻発売記念SS】幽霊騒動《スカーレット side》
※本編とは全く関係のないストーリーです。興味のない方は、飛ばしてください。
(読まなくても、全然大丈夫です!)
────これはまだ世間の常識も、大人の冗談も分からなかった頃の話。
いつものように講義を終えた私は、『早めに予習しておこう』と思い、自室に向かう。
そこで、たまたま食堂の前を通り掛かった。
「ねぇ、聞いた?最近、屋敷で────幽霊が出るらしいわよ」
扉越しに聞こえた珍しい単語に、私は自然と興味を引かれる。
好奇心旺盛で知識欲に溢れる私は、感情の赴くまま足を止めた。
『中で話しているのは、下働きのメイド達だろうか?』と考えつつ、私は聞き耳を立てる。
盗み聞きなど、淑女として有るまじき行為だが、堂々と聞きに行く勇気はなかった。
幽霊の話題なんて出したら、変な目で見られるもの……もしくは、『幽霊をまだ信じているなんて、案外子供なのね』って、からかわれちゃう。
『私は歴としたお姉さんなんだから!』と心の中で反論しつつ、観音開きの扉に耳をくっつけた。
「幽霊……?あぁ、姿がぼんやりしていて、性別も分からないってやつ?」
「そうそう!人の姿をしているのは確かなんだけど、ハッキリ見えないから詳細は分からないんだって!」
「ふ〜ん?ここで死んだ人間ってことは、メイヤーズ子爵家のご先祖様かしら?」
「さあ?長年、ここに務めてきた使用人って線もあるんじゃない?もしくは、メイヤーズ子爵家に恨みを持つ人間とか……」
幽霊の正体に迫るような会話を聞き、私は思わず駆け出した。
メイヤーズ子爵家に恨みを持つ人間が幽霊だったら……と考えると、恐ろしかったから。
『馬鹿らしい』『ただの噂話だ』と自分にどれだけ言い聞かせても、落ち着かない……『もしかしたら』と考えてしまう。
無我夢中で廊下を走り抜ける私は、半泣きになりながらも自室に到着する。
そして、素早く扉を開けた────が、直ぐに閉める。
……部屋で一人はちょっと怖いかも。
ベルを鳴らして、侍女を呼ぼうかしら?でも、今日はお母様の付き添いで、ほとんどの侍女が外出している筈……。
下働きのメイドを呼ぶ選択肢もあるけど……夕食の準備で忙しいだろうから、長時間拘束する訳にはいかないのよね。
『どうしよう?』と悩む私は、長考の末────シャーロットの部屋に入り浸ろうと決めた。
日頃からよく部屋に押し掛けているため、特に違和感はないだろう。
『また自慢話をしてやろう』と思いつつ、私は隣の部屋に足を向ける。
そして、意気揚々と部屋の扉を開けると────そこには、信じられない光景が広がっていた。
「な、なっ……何よ、これ!?」
シャーロットの後ろに立つ人影……いや、白い靄を前に、私は驚愕する。
衝撃のあまり腰を抜かす私は、『屋敷に居る幽霊って、アレじゃないか!?』と考えた。
目尻に涙を浮かべながら、ガクガクと震え上がる中、シャーロットはこちらを振り返る。
「えっ!?どうして、お姉様がここに……!?」
驚いたように目を見開く妹は、明らかに表情を曇らせた。
かと思えば、呆れたように肩を竦める。
「また勝手に部屋へ入ってきたんですね……いつも、『ノックしてください』って言っているのに」
これみよがしに溜め息を零すシャーロットは、至っていつも通りだった。
至近距離に幽霊が居るというのに……。
「な、何でそんなに落ち着いていられるの……!?まさか、幽霊が見えないとか……!?」
「幽霊……?」
怒涛の勢いで質問を投げ掛ける私に、シャーロットはコテリと首を傾げた────かと思えば、納得したように頷く。
「あぁ、もしかして────幽霊って、コレのことですか?」
そう言って、シャーロットは背後に居る白い靄を指さした。
「コレは────魔法で作り出した人形ですよ。もっと正確に言うと、私の姿を模した煙です」
「煙……?」
「はい」
間髪容れずに頷いたシャーロットに、迷いや躊躇いはなかった。
衝撃の事実に絶句する私は戸惑いながらも、白い靄に目を向ける。
い、言われてみれば……確かに煙ね。人の形をしているから、不気味ではあるけど……。
「────って、いちいち紛らわしいのよ!こんなの直ぐに分かる訳ないじゃない!どうして、こんなものを作ったの!?」
本物の幽霊じゃなかったことに安堵しつつも、私は怒鳴り声を上げる。
『まさか、私を驚かせるためじゃないでしょうね?』と凄むと、シャーロットは首を横に振った。
「こ、これはその……私の影武者に使おうと思って」
「影武者……?一体、どういうこと?」
ますます訳が分からなくなり、私は更なる説明を求める。
『誰かに命でも狙われているの?』と訝しむ中、シャーロットは躊躇いがちに口を開いた。
「実はここ最近、魔法の実験……じゃなくて、散歩のためによく出掛けるので、侍女達に注意されたんです。『一人の外出は危ないから、控えるように』と……。なので、人目を欺くために替え玉が必要だったんです」
影武者の必要性について力説するシャーロットは、『あれば、色々便利だし……』と呟く。
こういう時だけ、無駄に行動力を発揮する妹に、私は呆れ果てた。
まさかとは思うけど、噂になっている幽霊の真相……というか、正体ってシャーロットの影武者じゃないわよね?
「……ねぇ、シャーロット。他の人に影武者を見られたことはあるの?」
テーブルに散乱した資料と白い靄を眺めつつ、私は硬い声で問い掛けた。
ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、シャーロットは『えっと……』と口籠もるものの……観念したように口を開く。
「……第三者の意見を知るために、敢えて見せたことはあります」
素直に白状したシャーロットは、居心地悪そうに身を竦めた。
幽霊騒動の元凶である妹を前に、私は『結局、全部貴方のせいじゃない!』と叫びそうになる。
シャーロットさえ余計なことをしなければ、変な噂が立つことも、実在しない幽霊に怯えることもなかったから。
でも、『貴方のせいで恥をかいた!』と騒ぐのもなんだか違う気がして、押し黙る。
噂にまんまと踊らされて、幽霊の存在を信じかけていた……なんて、絶対に言えない。間抜けだと思われるもの……。
『わざわざ醜態を晒す必要はないだろう』と、暴言を呑み込んだ。
代わりに一つ罰を与えて、鬱憤を晴らそうと考える。
「煙で人の姿を作るのは、もう禁止よ。影武者は別の方法で、何とかしなさい」
「そ、そんな……」
『せっかく、ここまで作ったのに……』と嘆くシャーロットは、ガクリと肩を落とした。
不満げにこちらを見つめるものの、揉めるのは嫌なのか、反論を諦める。
『しょうがない……』とでも言うように、魔法で作った煙を打ち消した。
深い溜め息を零して項垂れるシャーロットの姿に、私は気を良くする。
いい気味。これに懲りたら、自分の行いを見直すことね。
『一般常識を身につけなさい』と心の中で呟きながら、私はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、私はもう行くわね」
「えっ?あっ、はい」
気の抜けた返事をするシャーロットは、パチパチと瞬きを繰り返した。
不思議そうに首を傾げながらも、出口へ向かう私に、小さく頭を下げる。
そして、私の退室を見届けると────『結局、お姉様は何しに来たのかしら?』と呟いた。
本日より、書籍二巻発売です。
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