表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/69

【二巻発売記念SS】幽霊騒動《スカーレット side》

※本編とは全く関係のないストーリーです。興味のない方は、飛ばしてください。

(読まなくても、全然大丈夫です!)

 ────これはまだ世間の常識も、大人の冗談も分からなかった頃の話。

いつものように講義を終えた私は、『早めに予習しておこう』と思い、自室に向かう。

そこで、たまたま食堂の前を通り掛かった。


「ねぇ、聞いた?最近、屋敷で────幽霊(・・)が出るらしいわよ」


 扉越しに聞こえた珍しい単語に、私は自然と興味を引かれる。

好奇心旺盛で知識欲に溢れる私は、感情の赴くまま足を止めた。

『中で話しているのは、下働きのメイド達だろうか?』と考えつつ、私は聞き耳を立てる。

盗み聞きなど、淑女として有るまじき行為だが、堂々と聞きに行く勇気はなかった。


 幽霊の話題なんて出したら、変な目で見られるもの……もしくは、『幽霊をまだ信じているなんて、案外子供なのね』って、からかわれちゃう。


 『私は歴としたお姉さんなんだから!』と心の中で反論しつつ、観音開きの扉に耳をくっつけた。


「幽霊……?あぁ、姿がぼんやりしていて、性別も分からないってやつ?」


「そうそう!人の姿をしているのは確かなんだけど、ハッキリ見えないから詳細は分からないんだって!」


「ふ〜ん?ここで死んだ人間ってことは、メイヤーズ子爵家のご先祖様かしら?」


「さあ?長年、ここに務めてきた使用人って線もあるんじゃない?もしくは、メイヤーズ子爵家に恨みを持つ人間(・・・・・・・)とか……」


 幽霊の正体に迫るような会話を聞き、私は思わず駆け出した。

メイヤーズ子爵家に恨みを持つ人間が幽霊だったら……と考えると、恐ろしかったから。

『馬鹿らしい』『ただの噂話だ』と自分にどれだけ言い聞かせても、落ち着かない……『もしかしたら』と考えてしまう。

無我夢中で廊下を走り抜ける私は、半泣きになりながらも自室に到着する。

そして、素早く扉を開けた────が、直ぐに閉める。


 ……部屋で一人はちょっと怖いかも。

ベルを鳴らして、侍女を呼ぼうかしら?でも、今日はお母様の付き添いで、ほとんどの侍女が外出している筈……。

下働きのメイドを呼ぶ選択肢もあるけど……夕食の準備で忙しいだろうから、長時間拘束する訳にはいかないのよね。


 『どうしよう?』と悩む私は、長考の末────シャーロットの部屋に入り浸ろうと決めた。

日頃からよく部屋に押し掛け(を行き来し)ているため、特に違和感はないだろう。

『また自慢話(ためになる話)をしてやろう』と思いつつ、私は隣の部屋に足を向ける。

そして、意気揚々と部屋の扉を開けると────そこには、信じられない光景が広がっていた。


「な、なっ……何よ、これ!?」


 シャーロットの後ろに立つ人影……いや、白い靄を前に、私は驚愕する。

衝撃のあまり腰を抜かす私は、『屋敷に居る幽霊って、アレじゃないか!?』と考えた。

目尻に涙を浮かべながら、ガクガクと震え上がる中、シャーロットはこちらを振り返る。


「えっ!?どうして、お姉様がここに……!?」


 驚いたように目を見開く妹は、明らかに表情を曇らせた。

かと思えば、呆れたように肩を竦める。


「また勝手に部屋へ入ってきたんですね……いつも、『ノックしてください』って言っているのに」


 これみよがしに溜め息を零すシャーロットは、至っていつも通りだった。

至近距離に幽霊が居るというのに……。


「な、何でそんなに落ち着いていられるの……!?まさか、幽霊が見えないとか……!?」


「幽霊……?」


 怒涛の勢いで質問を投げ掛ける私に、シャーロットはコテリと首を傾げた────かと思えば、納得したように頷く。


「あぁ、もしかして────幽霊って、コレのことですか?」


 そう言って、シャーロットは背後に居る白い靄を指さした。


「コレは────魔法で作り出した人形ですよ。もっと正確に言うと、私の姿を模した()です」


「煙……?」


「はい」


 間髪容れずに頷いたシャーロットに、迷いや躊躇いはなかった。

衝撃の事実に絶句する私は戸惑いながらも、白い靄に目を向ける。


 い、言われてみれば……確かに煙ね。人の形をしているから、不気味ではあるけど……。


「────って、いちいち紛らわしいのよ!こんなの直ぐに分かる訳ないじゃない!どうして、こんなものを作ったの!?」


 本物の幽霊じゃなかったことに安堵しつつも、私は怒鳴り声を上げる。

『まさか、私を驚かせるためじゃないでしょうね?』と(すご)むと、シャーロットは首を横に振った。


「こ、これはその……私の影武者に使おうと思って」


「影武者……?一体、どういうこと?」


 ますます訳が分からなくなり、私は更なる説明を求める。

『誰かに命でも狙われているの?』と訝しむ中、シャーロットは躊躇いがちに口を開いた。


「実はここ最近、魔法の実験……じゃなくて、散歩のためによく出掛けるので、侍女達に注意されたんです。『一人の外出は危ないから、控えるように』と……。なので、人目を欺くために替え玉が必要だったんです」


 影武者の必要性について力説するシャーロットは、『あれば、色々便利だし……』と呟く。

こういう時だけ、無駄に行動力を発揮する妹に、私は呆れ果てた。


 まさかとは思うけど、噂になっている幽霊の真相……というか、正体ってシャーロットの影武者じゃないわよね?


「……ねぇ、シャーロット。他の人に影武者を見られたことはあるの?」


 テーブルに散乱した資料と白い靄を眺めつつ、私は硬い声で問い掛けた。

ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、シャーロットは『えっと……』と口籠もるものの……観念したように口を開く。


「……第三者の意見を知るために、敢えて見せた(・・・)ことはあります」


 素直に白状したシャーロットは、居心地悪そうに身を竦めた。

幽霊騒動の元凶である妹を前に、私は『結局、全部貴方のせいじゃない!』と叫びそうになる。

シャーロットさえ余計なことをしなければ、変な噂が立つことも、実在しない幽霊に怯えることもなかったから。

でも、『貴方のせいで恥をかいた!』と騒ぐのもなんだか違う気がして、押し黙る。


 噂にまんまと踊らされて、幽霊の存在を信じかけていた……なんて、絶対に言えない。間抜けだと思われるもの……。


 『わざわざ醜態を晒す必要はないだろう』と、暴言を呑み込んだ。

代わりに一つ罰を与えて、鬱憤を晴らそうと考える。


「煙で人の姿を作るのは、もう禁止よ。影武者は別の方法で、何とかしなさい」


「そ、そんな……」


 『せっかく、ここまで作ったのに……』と嘆くシャーロットは、ガクリと肩を落とした。

不満げにこちらを見つめるものの、揉めるのは嫌なのか、反論を諦める。

『しょうがない……』とでも言うように、魔法で作った煙を打ち消した。

深い溜め息を零して項垂れるシャーロットの姿に、私は気を良くする。


 いい気味。これに懲りたら、自分の行いを見直すことね。


 『一般常識を身につけなさい』と心の中で呟きながら、私はゆっくりと立ち上がった。


「それじゃあ、私はもう行くわね」


「えっ?あっ、はい」


 気の抜けた返事をするシャーロットは、パチパチと瞬きを繰り返した。

不思議そうに首を傾げながらも、出口へ向かう私に、小さく頭を下げる。

そして、私の退室を見届けると────『結局、お姉様は何しに来たのかしら?』と呟いた。

本日より、書籍二巻発売です。

何卒よろしくお願いします┏○ペコッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この幽霊騒動に関しては姉は何も悪くない 自分が怖かった事は言っても言わなくても良いけど(私なら言っちゃうかもだけどそこは人それぞれだし) 「使用人達が怖がっている」事は確かだから禁止したのは…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ